231 / 1,549
第六部・社内旅行 編
悪夢
しおりを挟む
佑は四人で食事をしたあとバーに向かい、双子にのせられて浴びるほど飲んだ。
しかし彼らは酒の強い家系なので、ベロベロに酔っ払う姿など人に見せない。
そもそもにして、ビールやワインが水よりも普通に飲まれているこの国では、人前で泥酔した姿を見せる事を恥と思う意識がある。
アロイスとクラウスは素面の状態で『じゃあね』と去ってゆき、エミリアとも建物の前で別れた。
エミリアもケロリとしているので、かなりのものだ。
けれど日本ではまずここまで飲まない佑は、少しばかり酔っていた。
顔色は少し赤くなっている程度だが、フラついたりはしていないし、意識も正常だ。
だが眠気が襲ってきていて、すぐにでもベッドに潜り込みたい気持ちで一杯だった。
明日の夜に発って、羽田には夕方前に着く予定だ。
それまでの時間は余暇として、佑なりにパリの街並みを見て何かインスピレーションを得られればと思っていた。
なので今夜はぐっすりと眠れる。
ホテルに戻ったあとは、しっかりとした足取りでバスルームに向かい、手早く髪と体を洗う。
気分を変えようと思い、今回の旅行のお供につれてきた、ミラル・ハリーのテンダーを体に数プッシュした。
「……はぁ」
歯磨きをして下着一枚でベッドに倒れ込むと、スマホを開く。
コネクターナウを開くと、香澄から「おやすみなさい」というメッセージとスタンプが送られてあった。
「……おやすみ」
目元を緩ませ、佑は自分からもスタンプを送る。
「……はぁ」
また溜め息をつき、照明を落としてから目を閉じた。
「……香澄……」
何度か瞬きをしたあと、酔いもあって佑は深い眠りに落ちていった。
――しかし、普段よりも酒を飲んだからか、眠りが浅くなり、彼は夜中にビクッと体を跳ねさせて飛び起きた。
悪夢を見たのだ。
「……っは、……はぁっ、は……っ」
薄闇に包まれた豪奢な室内を見て、彼はここがパリのホテルだと理解する。
「……なんつー夢だ」
あろう事か、双子を意識していたせいか、悪夢の中では香澄が双子と〝とても〟仲良くしていたのだ。
夢とはいえ、酷すぎる。
それでいて自分の単純さに呆れた。
溜め息をついた彼は、ベッドから下りて冷蔵庫に向かい、ミネラルウォーターを一気飲みする。
またベッドに戻ってスマホを確認すると、ドイツ時間では深夜の三時だ。
日本では午前十時。
佑は顔色が悪いまま、迷いなく通話アプリを起動させた。
『はーい。どうしたの? あれ? そっち何時だっけ?』
明るい声が聞こえ、佑は泣きたくなるほどの安堵に包まれ笑みを零す。
『もしもし? 佑さん?』
「……元気か?」
『……うん。元気だけど……。どうしたの?』
スピーカー越しの声は怪訝そうで、自分を気遣ってくれているのが分かる。
「……声が聞きたくなって。ごめん。ちょっと酔っ払ったみたいだ」
『んもー。あんまり飲んだらだめだよ? 幼馴染みと会ってつい飲んじゃうのは分かるけど……』
「ああ、ごめん」
思っているよりもずっと、自分は双子を脅威に思っているようだった。
彼らのストレートすぎる性格を嫌悪しつつ、心のどこかで「あんな風に素直に生きられたら……」と思っている自分もいる。
だからどうしても意識してしまうのだ。
かといって、夢の中で香澄が双子にあれこれされてしまうのは、悩みすぎだ。
「香澄、ごめんな」
『ん? どうしたの? 何か謝るような事した?』
その返事に、思わずギクリとして話題を変えた。
「いや……。今、何してた?」
『んー。次のトレンドとか何がくるかな? って思って、ここずっとリサーチしてるよ。トレンドは繰り返すっていうから、一昔前のファッション流行とかも調べて、なかなか興味深い』
自分が不埒な夢をみている間、香澄はまじめに仕事の事を考えていてくれた。
なんとも情けない気持ちになりながらも、彼女のそのまっすぐな姿勢に心が救われた。
しかし彼らは酒の強い家系なので、ベロベロに酔っ払う姿など人に見せない。
そもそもにして、ビールやワインが水よりも普通に飲まれているこの国では、人前で泥酔した姿を見せる事を恥と思う意識がある。
アロイスとクラウスは素面の状態で『じゃあね』と去ってゆき、エミリアとも建物の前で別れた。
エミリアもケロリとしているので、かなりのものだ。
けれど日本ではまずここまで飲まない佑は、少しばかり酔っていた。
顔色は少し赤くなっている程度だが、フラついたりはしていないし、意識も正常だ。
だが眠気が襲ってきていて、すぐにでもベッドに潜り込みたい気持ちで一杯だった。
明日の夜に発って、羽田には夕方前に着く予定だ。
それまでの時間は余暇として、佑なりにパリの街並みを見て何かインスピレーションを得られればと思っていた。
なので今夜はぐっすりと眠れる。
ホテルに戻ったあとは、しっかりとした足取りでバスルームに向かい、手早く髪と体を洗う。
気分を変えようと思い、今回の旅行のお供につれてきた、ミラル・ハリーのテンダーを体に数プッシュした。
「……はぁ」
歯磨きをして下着一枚でベッドに倒れ込むと、スマホを開く。
コネクターナウを開くと、香澄から「おやすみなさい」というメッセージとスタンプが送られてあった。
「……おやすみ」
目元を緩ませ、佑は自分からもスタンプを送る。
「……はぁ」
また溜め息をつき、照明を落としてから目を閉じた。
「……香澄……」
何度か瞬きをしたあと、酔いもあって佑は深い眠りに落ちていった。
――しかし、普段よりも酒を飲んだからか、眠りが浅くなり、彼は夜中にビクッと体を跳ねさせて飛び起きた。
悪夢を見たのだ。
「……っは、……はぁっ、は……っ」
薄闇に包まれた豪奢な室内を見て、彼はここがパリのホテルだと理解する。
「……なんつー夢だ」
あろう事か、双子を意識していたせいか、悪夢の中では香澄が双子と〝とても〟仲良くしていたのだ。
夢とはいえ、酷すぎる。
それでいて自分の単純さに呆れた。
溜め息をついた彼は、ベッドから下りて冷蔵庫に向かい、ミネラルウォーターを一気飲みする。
またベッドに戻ってスマホを確認すると、ドイツ時間では深夜の三時だ。
日本では午前十時。
佑は顔色が悪いまま、迷いなく通話アプリを起動させた。
『はーい。どうしたの? あれ? そっち何時だっけ?』
明るい声が聞こえ、佑は泣きたくなるほどの安堵に包まれ笑みを零す。
『もしもし? 佑さん?』
「……元気か?」
『……うん。元気だけど……。どうしたの?』
スピーカー越しの声は怪訝そうで、自分を気遣ってくれているのが分かる。
「……声が聞きたくなって。ごめん。ちょっと酔っ払ったみたいだ」
『んもー。あんまり飲んだらだめだよ? 幼馴染みと会ってつい飲んじゃうのは分かるけど……』
「ああ、ごめん」
思っているよりもずっと、自分は双子を脅威に思っているようだった。
彼らのストレートすぎる性格を嫌悪しつつ、心のどこかで「あんな風に素直に生きられたら……」と思っている自分もいる。
だからどうしても意識してしまうのだ。
かといって、夢の中で香澄が双子にあれこれされてしまうのは、悩みすぎだ。
「香澄、ごめんな」
『ん? どうしたの? 何か謝るような事した?』
その返事に、思わずギクリとして話題を変えた。
「いや……。今、何してた?」
『んー。次のトレンドとか何がくるかな? って思って、ここずっとリサーチしてるよ。トレンドは繰り返すっていうから、一昔前のファッション流行とかも調べて、なかなか興味深い』
自分が不埒な夢をみている間、香澄はまじめに仕事の事を考えていてくれた。
なんとも情けない気持ちになりながらも、彼女のそのまっすぐな姿勢に心が救われた。
43
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる