【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
230 / 1,559
第六部・社内旅行 編

静かな衝突

しおりを挟む
「河野さんは私をお飾りの秘書とお思いですか?」

 仕事において負けず嫌いの香澄は、つい少し硬質な声を出し反抗的に彼を見つめる。

「いいえ、お飾りとは言っておりません。ただ、適材適所はあるとは思います。実際あなたは怪我をされていますし、いざという時の受け身も取れないと思っています。松井さんと要相談ですが、今後社長の出張には僕と松井さんが同行する事になってもいいのでは……と思ったまでです。社長も余計な心配をしたくないでしょう」

 言外に「お荷物だ」と言われ、香澄は唇を引き結んだ。

「確かに私は役立たずかもしれませんが……」

「役立たずとは言っておりません。赤松さんは僕よりも先輩でしょう。社内での仕事は僕よりずっと処理が早いと思いますし、各種手続きも慣れていらっしゃるのでは?」

(……事務仕事だけしていろって言いたいの?)

 挑むように強い目で河野を見つめると、彼は眼鏡の奥の瞳を変わらない温度で瞬かせる。

「あまりムキになられませんよう。僕も社長の婚約者さんとは仲良くしたいと思っています。ですがあなたが秘書と婚約者の立場を分けると仰るのなら、一番合理的な道を提案したまでです」

 過敏になっているせいか、「女だから感情的だ」と言われたような気がした。
 香澄は静かに息を吐き、ダージリンを一口飲む。

「河野さんが秘書として優秀な方で、何か国語も話せる事や、ボディガードとしても優秀だという事は伺っています。それに対して私は、飲食店で働いていた一般女性だと自覚しています。確かに言語は勉強中ですし、秘書としてのいろはもまだ身についたばかりです。いざという時に社長を守って戦う事もできないでしょう。そして私がいれば、社長は私を気にかけてしまうのも自覚しています」

 広々としたリビングダイニングに、香澄の声がやけに響く。

「それでも私は、社長にスカウトされました。社長自ら、私に可能性を見いだしてくださいました。ですから、私の可能性に見切りをつけるのは、社長と大先輩である松井さんだけだと思っています。社長と松井さんが話し合っていない状況で、河野さんが私を一方的に決めつけるのは、どうかと思います」

 できるだけ冷静になって気持ちを伝えると、彼は少し瞠目してから「……あぁ」と一人頷いた。

「……そうですね。僕とした事が先走りすぎたようです。僕は前の会社でも秘書の主線力として働いていましたので、自分基準で考えるところがあったかもしれません。それについては、お詫びします」

「いえ……」

(悪い人じゃないんだな。多分きっと、仕事ができすぎる人なんだ)

 今までの少し殺伐とした雰囲気の正体が分かり、香澄は少し安堵した。

「私もムキになり、すみません。……これから一緒に働くのですから、仲良くやっていけたらと思います」

 努めて大人の女性として対応すると、河野も「そうですね」と頷く。



 それから紅茶を飲んだ河野は、「社長宅までの道はこれで覚えましたので」と言って帰っていった。



**



 そして現在、香澄は河野の事を思い出しベッドでウトウトとしている。

「悪意とか意地悪で言っているんじゃないから刺さったんだよなぁ。素ぽかったし。彼の言っていた事は正論だった」

 けれど、悔しい。

 意地悪で言われたのではなくても、女だから佑を守れない、怪我をするぐらいなら出張に同行しない方が足手まといにならなくていい、と言われた。

 それは純粋に悔しかった。

 佑は河野との会話を知ったら、怒る――のだろうか?

 自分のために怒ってほしい気もするし、社長として冷静な判断をくだしてほしい気もする。
 そこがまた、自分たちの曖昧な関係そのものだ。

「今……パリかぁ。これから夕食なら……、邪魔しちゃ悪いよね」

 同時に佑が食事をすると言った、幼馴染みの女性が気になった。

 単なる幼馴染みなのは分かっているし、妬かないと伝えた。
 アロイスとクラウスが一緒というのも本当で、何も心配する事はないのだろう。

 ――それでも。

「……やだ、なぁ」

 とても独りよがりな我が儘を口にし、香澄は両手で顔を覆った。

「……こんな自分もやだ。佑さんの出張すら我慢できない女だなんて。……本当に秘書に向いてないじゃない」

 ハァ……と溜め息をついても、慰めてくれる人は誰もいなかった。



**
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...