上 下
228 / 1,548
第六部・社内旅行 編

独り寝

しおりを挟む
 車窓からはパリ中心街の景色が見え、様々な人種が入り乱れ歩いている。

 佑はふと、「どうしてここに香澄がいないのだろう」と自分の隣を寂しく思うのだ。

『エミはその人を好きじゃないのか?』

 佑が尋ねると、エミリアはまた曖昧に笑う。

『いきなりパパから〝お前の結婚相手を見つけたぞ〟なんて言われた身にもなってみて? 一度会ってみたけど、つかみ所のない男性で……』

 綺麗にカールさせた毛先を弄び、エミリアはアンニュイに窓の外を見る。

『〝カイがシングルだったら、カイと結婚しても良かったかも〟なんて言うぐらいまで、追い詰められてるもんな?』
『ちょっと! アロ!』

 さすがにその言葉には、エミリアも隣に座っているアロイスを肘で小突いた。
 佑は前を向いたまま、そっと溜め息をつく。

『悪いな、エミ。俺は婚約者がいて絶賛ラブラブ中だ。その願いは叶えられないけど、エミのオヤジさんに一言いうぐらいならできるかもしれない』

 結婚の可能性はきっぱりと断っておきつつも、さすがに可哀相に思えたので、自分のできる事を提示する。
 しかしエミリアは困ったように笑い、首を横に振った。

『子供じゃないもの、断るぐらい自分でできるわ。でも……、いいわね。カイはいま幸せなのね』
『ああ、幸せだよ』

 佑が微笑むと、エミリアの笑顔に影が差す。
 しかし彼はそれに気付かないふりをした。

 それを察してか、いつもの空気の読まない人柄からか、クラウスが「Scheise(クソ)」と毒づく。

『カイの婚約者、すっごい可愛いヤパーナリンなんだよ。妬ける』
『カイの知らない場所に別荘作って、そこに閉じ込めちゃおうか? 先に妊娠させたら俺たちの勝ちでない?』

『黙れ』

 そこから先はいつものように双子と佑の言い合いになり、こんな佑を見た事がないエミリアは目をまん丸にしていた。

 かくして車はホテルから十五分ほどで星付きレストランに着き、そこで美味しい食事にありついたのだった。



**



 一方、香澄はベッドで目をトロトロさせながらスマホの画面を見ている。

「……もうお返事はなしかな? 寝てもいいかな……?」

 何回も目を瞬かせ、香澄は大きな欠伸をした。
 ころんと仰向けになって枕元の照明を落とすと、スマホを置いてタオルケットを引き上げる。

 夜間に冷房が入っているのは、電気代的にとても気になる。
 しかし佑に「東京は札幌と訳が違うんだから、冷房なしに眠っていて熱中症になったら大変だ」と言われ、こうしてエアコンが効いた環境で夜を迎えようとしている。

「……確かにエッチしたあとも、体が涼しくていいけど……」

 何とはなしに呟いてみて、佑とのセックスを思いだしカァ……と赤くなる。
 思わず指先で唇に触れてみて、ツルリとした滑らかな唇を撫でる感触に佑の指を思いだした。

「……佑さん、早く帰ってこないかな」

 いけない、と思いつつも指は自分の胸に伸びていた。
 薄いキャミソールの裾から手を差しこみ、たっぷりとした胸を揉んでみる。

 ――あまり気持ち良くない。

 代わりに指で乳首をスリスリと弄ってみると、微かな快楽を拾ってしまった。

「ん……、佑さん……」

 目を閉じてこれが佑の指なら……と思い込む。
 ゴク……と唾を嚥下し、片手が腹部を下がってタップパンツの中に入り込む。

 ――けれど、処理された恥丘に手が這ったところで、香澄は溜め息をついて自慰をやめた。

 眠たいけれど、薄闇のなか目を開く。

 脳裏には、昼間に御劔邸を訪れた河野の顔が浮かんでいた。

 とくに嫌われている訳ではないと思うし、彼の性格なのだと思う。

 しかし言われた〝事実〟に、香澄は溜め息を禁じえないでいた。


**


 河野が御劔邸を訪れたのは、十三時だった。

 玄関チャイムが鳴って斎藤が応対すると、まじめそうな男性がモニターに映った。

 マイク越しに「このたび第三秘書に決まりました、河野由貴男と申します。社長の不在時で大変恐縮ですが、第二秘書の赤松さんにご挨拶に参りました」という声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 555

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...