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第六部・社内旅行 編

ちょっといじけてしまっているの

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『なにその顔』
『まさかお前らと、また顔を合わせると思ってなかったんだよ』

 ひとまず香澄に『了解です』のスタンプを送ると、スーツの胸ポケットにしまう。

『カスミと連絡してたの?』
『婚約者と連絡とって何か悪いか?』

 立ち上がろうとしたが、双子が佑の両脇にドスッと座ってきた。

 腕時計を確かめると、約束の時間の三分前だ。
 こちらの人は日本人ほどきっちりと時間通りに動かないので、珍しいといえば珍しい。
 しかし節子の教育が行き届いたクラウザー家の者なら、ある程度時間通りに動いていてもおかしくない。

『お前らにしては集合時間を守るじゃないか』
『タスクがどんなツラしてんのかな~? って先に見ておきたくて』
『そうだ。エミ美人になってただろ?』

 両側から双子が佑の肩を組んでくる。
 と、彼らがいつもつけている香水ではない香りが、鼻先をかすった。

『……また女と会ってたのか?』

 溜め息交じりに尋ねると、双子は顔を見合わせ肩をすくめる。

『パリのガールフレンドだよ。こっちに来ることがあったら連絡して、って言われてたからちょっと会ってただけ』

 双子は複数プレイを好んでいて、必ずプレイメイトも共有する。
 仲の良すぎる双子ならではで、一人の女性を二人で抱いても何とも思わないのだ。

 ここへ来る前に乱交騒ぎがあったのかと思うとうんざりする。

『頼むから、本当に香澄には近付かないでくれ。お前らの奔放すぎる行動や言動で、彼女を困らせるな』

 立ち上がって真正面から双子を見下ろすと、色違いのスーツを着た彼らはまた肩をすくめた。

『そんな、人をトラブルメーカーみたいに言わないでよ』
『そうそう。俺らは香澄のことは、結構まじめに気に入ってるよ? タスクの身に何かがあったら、俺たちで引き取ろうと思うぐらいには』

『そんな事にはならない』

 佑は低く唸る。

『タスク、一つ言っておくけど、タスクがそうやって毛を逆立てて怒れば怒るほど、僕たちは面白がるからね?』
『そうそう。女が大事なら、仕事辞めさせてでも自分の横に置いておきなって』
『……だから、香澄は物じゃない』

 苛立ったとき、ほわんとした声が背後からした。

『あら、カスミって誰?』

 振り向けば水色のサマードレスを身に纏ったエミリアが、いつのまに三人の会話を聞いていた。

『エミ! やっほー!』

 クラウスが立ち上がり、エミリアとハグをする。そのあとアロイスが続いた。
 流れで佑もやんわりとしたハグをする。

『この近くのレストランを予約してるんだ。車呼ぶから、乗ろう』

 アロイスが歩き出し、クラウスはエミリアにエスコートの腕を差し出した。

 彼らがスマホで運転手に連絡をすると、ほどなくしてホテル前に車がついた。
 四人が乗り込んだあと、車はペ通りからヴァンドーム広場へ抜け、シャンゼリゼ通りへ向かう。

『カスミっていうのはね、カイの婚約者だよ』
『そうだったわ。カイったらいつのまにいい人ができたのね』

 エミリアはブルーアイを見開き、佑に向かってウインクをしてみせる。

『妬いた? エミ』

 悪びれもなくクラウスが尋ねる。
 事態をややこしくする能力はさすがだ。

 その質問を受け、エミリアはチラッと助手席にいる佑を見て、ごまかすように笑った。

『そういうんじゃないのよ。ずっとカイに会っていなくて気にしていたわ。ネットではとても大活躍していて、悲しい事に私には連絡がなかった。だからちょっといじけてしまっているの』

『それはすまない。意図的に連絡をしなかった訳じゃない』
『分かっているわ。お互い忙しいものね』

 エミリアの同意を得られ、佑は安堵する。

『でも、エミだって婚約者いるじゃん』

 アロイスの言葉に、佑は彼女に祝福を告げた。

『本当か? おめでとう』

 しかしエミリアは嬉しそう……という顔ではない。
 曖昧に口角を上げて、視線をさまよわせるのみだ。

『あー……。エミは乗り気じゃないんだよね? オヤジさんに言われて仕方なく婚約した感じで』

 佑と双子にとって、年下――現在二十八歳のエミリアは、妹のような存在だ。

 それが望まない結婚をしようとしているとなると、話を聞いてみたくなる。
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