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第六部・社内旅行 編

報告とケーキ

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 初日の会食を終え、二日目の昼はChief Everyのバイヤーと一緒に移動した。

 バイヤーはやり手の三十代男性で、佑好みの布や糸、ボタンやファスナー、レースと、様々な物を探し出してくる。

 そんな彼が「最近フランスに新しい会社ができたので、視察してみてはどうですか?」と言ってきたので、こうして足を延ばしたのだ。

 ランチはバイヤーと一緒にとり、彼の恋人の話を延々と聞く。

 本当は夕食も彼と取るつもりでいたが、予定が入ったと告げると「構いませんよ」と笑ってくれた。





 そして夕方にホテルに戻り、スーツを着替えるとロビーに向かった。

(少し気が重たいけど……)

 時間より十分前に下りたので、空き時間に香澄にメッセージを送る事にした。
 双子に脚色をつけてバラされるより前に、自分で正直に告げるほうがいいと思ったのだ。

『パリのホテルで幼馴染みの女性に会ったので、食事をします。クラウザー家とも関わりの深い家のお嬢さんで、双子も同席するので特に変な意味はありません』

 向こうは深夜だと思うが、これは〝報告〟のメッセージなので構わず送る。

 今日は既読になるかな? と期待して画面を見ていると、パッと既読がついた。
 ドキドキして待っていると、香澄からのメッセージが入った。

『了解です。幼馴染みなら誤解せず、ツッコミも入れないよ! アロイスさんとクラウスさんに、宜しくね』

 やけに物わかりのいい返事が来たな、と思って返事を考えていると、次のメッセージがポンとくる。

『帰国したら私ともお食事してね? お家デートでいいので!』

(かっわいい……!)

 悶えたいところを真顔で我慢し、佑は返事をする。

『もちろんだよ。星付きでも隠れ家でも、美味しい場所にどこでも連れて行ってあげる』

 そう送ると、香澄からキャラクターがハートマークを飛ばしている、動くスタンプが送られてきた。

(……クソ可愛い……)

 そのあと、ポン、とケーキの写真が送られてきた。

(あれ? 斎藤さんが買ってきてくれたのかな? 香澄が運転手に頼んで出掛けた?)

 ケーキについて返事をしようとすると、先に香澄からメッセージがくる。

『今日、第三秘書になる河野さんが挨拶にきてくれました。その時の手土産です。佑さんと私に四つ頂いたけど、一つ食べてもいい?』

「は?」

 自分が不在のときに男が来たと聞き、佑は素になって呟いていた。
 真顔のまま動揺し、社用スマホを引っ張り出すと松井にメッセージを送る。

『松井さん、河野さんにうちに行くよう指示しましたか?』

 そのあとまた私用スマホを持ち、動揺したまま返事を打つ。

『ケーキは好きなだけ食べていいよ。俺はまだパリだし。悪くなる前に美味しく食べてほしい』

 すると松井から返信がくる。

『河野さんには、ご自宅への道順をしっかり覚えておくよう伝えておきました。その際、第二秘書である赤松さんへのご挨拶も……と』

 カッとなった佑は、少し感情的になった返信をする。

『何も俺が不在のときに、向かわせる事ないじゃないですか』
『合理的なスケジュールを組んだまでです』

「…………」

 そう言われると、言い返しようがない。
 香澄へのメッセージがそのままだったのを思いだし、慌てて彼女の返事を見る。

『じゃあ、鮮度が命なので先に頂きます。あと、お土産お願いします! シャルル・ド・ゴール空港にあるお土産のお勧めで、気になったのでトリュフヌガーと何かチョコレートプリーズ! 忙しかったら全然構わないので!』

 随分と可愛らしいお願いに、切羽詰まっていた佑の表情に笑みが浮かぶ。

(そんなに遠慮してお願いしなくても、お菓子ぐらいどうって事ないのに。香澄にはもっと我が儘になってもらわないと)

 佑の指が返信を打とうとした時――。

『なにニヤニヤしてんの? キモい』

 耳慣れたドイツ語が降ってきて、はた、と目の前に視線をやると、赤と黒のイタリアシューズが目に入る。

(……来たか)

 うんざりとした顔を上げると、シュッとしたイタリアスーツに身を包んだアロイスとクラウスが立っていた。
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