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第六部・社内旅行 編

双子の煽りを見事に食らう

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「……香澄には申し訳ない事をしたな、って時々反省するんですよ。俺さえ現れなければ、彼女は札幌で暮らして、普通の幸せを得られていた」
「……今さらのお話でしょう」

 これから食事に出る用のスーツを用意していた松井は、穏やかに笑う。

「……ですよね。もう俺は彼女の手を掴んで、強引に違う道へ引っ張ってしまった。彼女も懸命に馴染もうとしてくれているのに、俺が後悔するなんて失礼な話です」

「お分かりならそれで良いのかと」

 やんわりとした声を聞いてから、佑はまたスマホを立ち上げる。

 アプリを開き、香澄との今までの会話を読み直す。
 それだけで顔がにやついて堪らない。

 そのとき通知音が鳴り、新しいメッセージが入った。

「……くそ」

 あろう事か、クラウスからだ。
 嫌々ながら開いてみると、予想通りの文面がある。

『佑、エミとホテルで会ったって? クソウケるんだけどlol』

 それを睨み、なんと返そうかと思っていると、ポンとアロイスからメッセージが入る。

『明日楽しみにしてるよ。香澄への報告楽しみだなlol』

「くっそ……」

 思わず髪をぐしゃぐしゃと掻き回しかけ、必至に手を止める。
 香澄に言われているが、悪い癖だ。

「……下手に打ち返さないでおこう」

 たった一言、『じゃあ、明日』とだけ返し、そのまま佑はスマホを置いた。

「はあぁ……」

 気が重い。
 我が従兄ながら、本当に会うのが嫌だ。

 悪意がないのは分かっているが、無責任な人間は佑が避けたいと思っている人種の一つだ。

 ドイツ人は日本人と勤勉な面が似ているとよく言われているが、実のところかなり違うと佑は思っている。
 与えられた仕事はきっちりこなし、すべてをルール内で済ませ、理論派という意味では、頭の硬い日本人と似ていないでもない。

 しかし仕事においては自分の分が終われば、他人の事は知らないという感じだ。

 おまけに恋人関係については、家に親がいようが構わずセックスをする。
 付き合いたての段階でも家に呼び、親に紹介する。

 気がつけば同棲しているし、結婚していないのに子供がいる場合もある。
 結婚というものをそれほど重視していないし、結婚式も大事にしていない。

 そんな気質のアロイスとクラウスが、香澄に近付いたと聞いただけでも鳥肌が立ったほどだ。

 東京で仕事中だというのに、彼女をさらっていった恨みは忘れていない。

 双子は香澄に言っていないかもしれないが、総勢何人いるか分からない取り巻きと(性的に)奔放に遊んでいる。
 よく性病にかからないものだと思うほどだ。

 いや、なってしまえばいいのにとすら思う。

 佑からすれば、数え切れないほどの女を抱いた手で香澄に触れてほしくない。
 仮に何かをされれば、どこかの血管が切れてしまうかもしれない。

 先日は祖父母たちも交えて交流し、一応は佑の相手として認めた……ように思える。
 しかし彼らが香澄という可愛らしい餌を目の前に、いつ手を出すか分からない。

「僕たち興味ないよ」と言っておきながら、次の瞬間つまみ食いをしているのが双子だ。

 相手の裏を掻き、人を驚かせるのが大好きな二人だ。
 良くも悪くもサプライズをし、何より自分たちが楽しければいいという、実に厄介な性格をしている。

 ドイツにいるから安心できる。……ではない。

 彼らは世界に名だたるハイブランドのデザイナー兼経営者で、プライベートジェットだって所有している。
 その気になれば佑の白金の自宅にだってすぐ来られる。

 最悪なのは佑が留守の時に突撃され、香澄を好き放題される事だ。

(……くそ。頭が痛い)

 想像をして苦々しい顔をしていたが、松井に声を掛けられた。

「社長、そろそろレストランに向かう準備をしてください」
「あぁ……はい」

 ノロノロと起き上がり、最後にフォトアルバムにある〝香澄フォルダ〟を開く。
 何百枚とある写真を次々にスワイプし、気力を充電させてゆく。

 それは香澄本人には絶対見せないフォルダだ。
 行為のあとに彼女が眠っている姿などを主に撮り溜めているので、一つ使い方を間違えれば犯罪になりかねない。

 紅潮した顔で胸を晒し、下腹部まで丸出しにして眠っている香澄の写真を見て、「はぁ」と溜め息をつく。

(帰ったら抱き潰そう)

 うん、と一つ頷くと、気持ちを切り替えて着替え始めた。



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