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第六部・社内旅行 編
香澄が好きでつらい
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『あら、何か都合が悪かった?』
『いや、問題ない』
『フラウ。失礼致します』
そこに松井がドイツ語でそっと会話に入り、エミリアに丁寧なお辞儀をした。
『まぁ、当たり前だけど出張中だったわね。ごめんなさい。明日の食事は十六時半にここで集合でいい?』
『分かった』
了解を伝えると、エミリアもこのホテルに泊まっているのか、手を振って微笑み、カツカツとヒールの音を立てて歩いて行った。
「お知り合いですか?」
「双子の幼馴染みです。俺も十代の頃に何度か会ってたんですが、成長していてすっかり分かりませんでした。明日の夕食、彼女とアロクラと一緒にとります」
「承知致しました」
「あの、松井さん」
「ええ、分かっております。赤松さんには何も申し上げません」
「すみません……」
いつもの松井の態度に安堵しつつも、佑は双子が心配でならない。
あの二人の事だから、何かあれば直接香澄にメッセージするに違いない。
(ああああ……)
髪をかきむしりたいのを堪えて、佑は部屋に向かった。
**
(それにしても、ドイツ人の挨拶は親密度が低くて助かった)
豪奢な部屋につき、松井が佑のスーツをハンガーに掛け、各部屋をチェックしている間、彼はジャケットを脱いでソファに腰掛けていた。
(これがフランス人やイタリア人なら、頬にキスもあっただろうし、当たり前の挨拶とはいえ、香澄がどう思うかと考えると微妙な気持ちになるんだよな。肉親ならともかく、十年近く会ってない幼馴染みってハグするか……?)
それがエミリアの気持ちを表しているとなると、一気に面倒臭くなる。
(まぁ……、考えすぎならいいが)
松井が淹れてくれた紅茶を飲み、佑は癖のようにスマホを開く。
アプリを確認しても、佑が先ほど送ったメッセージは読まれていない。
日本ではもう深夜で香澄が寝ているのは分かっているのに、我ながらしつこい。
はぁー……と溜め息をつくと、松井が続き部屋から尋ねてきた。
「赤松さんが気になりますか?」
「……気になって堪りません。メッセージの返事をいちいち気にして、ガキみたいな恋をしています」
仕事モードでない状態で松井と二人になると、敏腕秘書は人生の先輩に姿を変える。
佑も緊張を解き、ソファにごろんと横になった。
「いいですねぇ。恋はできる内にしておいた方がいいですよ」
「松井さんは奥さんに恋をしてないんですか?」
ふと気になって尋ねてみれば、バスルームのチェックを終えた松井が戻って来る。
「してますよ。家を空けっぱなしの夫なのに、妻は浮気をせず子供を育ててくれて、よくやってくれていると思います。私は一生妻に頭が上がらないでしょうね」
「いいなぁ……。俺も松井さんのように、結婚しても穏やかに想い合っている夫婦になりたいです」
「社長と赤松さんなら、なれると思いますよ。ですが今は関係が始まったばかりも同然なので、まだまだ気持ちが燃えているのでしょう。それもまたいいものです」
「……あぁ。香澄が好きでつらい」
長い脚を投げ出し、佑は両手で顔を押さえる。
「……本当にガキみたいなんです。暇さえあれば香澄の事を考えていますし、隙あらば触りたいって思いますし」
「健全な証拠ですよ。美智瑠さんの事があってから、社長は特別な人を作らなかったでしょう。私は遊びで付き合う人の一人や二人、いてもいいと思っていたのですが、そう器用でもありませんでしたしね」
松井の言葉に佑は溜め息をつく。
確かに言われた通り、正式な恋人がいなかった期間、軽い気持ちで誰かと付き合おうかと心が揺らいだ時期はあった。
毎日仕事漬けで、自慰すら億劫になる時もある。
いわゆる〝疲れマラ〟な状態になるのだが、おかずを探して手を動かして……となるには、あまりに彼は疲れすぎていた。
秘密を守れる、高級会員のデリヘルに抜いてもらっていた時期もあったが、それだけの関係だ。
見た目も良く、テクニックもナンバーワンらしい彼女は、仕事として抜いてくれ、あとは時間まで抱き枕になってくれた。
『いや、問題ない』
『フラウ。失礼致します』
そこに松井がドイツ語でそっと会話に入り、エミリアに丁寧なお辞儀をした。
『まぁ、当たり前だけど出張中だったわね。ごめんなさい。明日の食事は十六時半にここで集合でいい?』
『分かった』
了解を伝えると、エミリアもこのホテルに泊まっているのか、手を振って微笑み、カツカツとヒールの音を立てて歩いて行った。
「お知り合いですか?」
「双子の幼馴染みです。俺も十代の頃に何度か会ってたんですが、成長していてすっかり分かりませんでした。明日の夕食、彼女とアロクラと一緒にとります」
「承知致しました」
「あの、松井さん」
「ええ、分かっております。赤松さんには何も申し上げません」
「すみません……」
いつもの松井の態度に安堵しつつも、佑は双子が心配でならない。
あの二人の事だから、何かあれば直接香澄にメッセージするに違いない。
(ああああ……)
髪をかきむしりたいのを堪えて、佑は部屋に向かった。
**
(それにしても、ドイツ人の挨拶は親密度が低くて助かった)
豪奢な部屋につき、松井が佑のスーツをハンガーに掛け、各部屋をチェックしている間、彼はジャケットを脱いでソファに腰掛けていた。
(これがフランス人やイタリア人なら、頬にキスもあっただろうし、当たり前の挨拶とはいえ、香澄がどう思うかと考えると微妙な気持ちになるんだよな。肉親ならともかく、十年近く会ってない幼馴染みってハグするか……?)
それがエミリアの気持ちを表しているとなると、一気に面倒臭くなる。
(まぁ……、考えすぎならいいが)
松井が淹れてくれた紅茶を飲み、佑は癖のようにスマホを開く。
アプリを確認しても、佑が先ほど送ったメッセージは読まれていない。
日本ではもう深夜で香澄が寝ているのは分かっているのに、我ながらしつこい。
はぁー……と溜め息をつくと、松井が続き部屋から尋ねてきた。
「赤松さんが気になりますか?」
「……気になって堪りません。メッセージの返事をいちいち気にして、ガキみたいな恋をしています」
仕事モードでない状態で松井と二人になると、敏腕秘書は人生の先輩に姿を変える。
佑も緊張を解き、ソファにごろんと横になった。
「いいですねぇ。恋はできる内にしておいた方がいいですよ」
「松井さんは奥さんに恋をしてないんですか?」
ふと気になって尋ねてみれば、バスルームのチェックを終えた松井が戻って来る。
「してますよ。家を空けっぱなしの夫なのに、妻は浮気をせず子供を育ててくれて、よくやってくれていると思います。私は一生妻に頭が上がらないでしょうね」
「いいなぁ……。俺も松井さんのように、結婚しても穏やかに想い合っている夫婦になりたいです」
「社長と赤松さんなら、なれると思いますよ。ですが今は関係が始まったばかりも同然なので、まだまだ気持ちが燃えているのでしょう。それもまたいいものです」
「……あぁ。香澄が好きでつらい」
長い脚を投げ出し、佑は両手で顔を押さえる。
「……本当にガキみたいなんです。暇さえあれば香澄の事を考えていますし、隙あらば触りたいって思いますし」
「健全な証拠ですよ。美智瑠さんの事があってから、社長は特別な人を作らなかったでしょう。私は遊びで付き合う人の一人や二人、いてもいいと思っていたのですが、そう器用でもありませんでしたしね」
松井の言葉に佑は溜め息をつく。
確かに言われた通り、正式な恋人がいなかった期間、軽い気持ちで誰かと付き合おうかと心が揺らいだ時期はあった。
毎日仕事漬けで、自慰すら億劫になる時もある。
いわゆる〝疲れマラ〟な状態になるのだが、おかずを探して手を動かして……となるには、あまりに彼は疲れすぎていた。
秘密を守れる、高級会員のデリヘルに抜いてもらっていた時期もあったが、それだけの関係だ。
見た目も良く、テクニックもナンバーワンらしい彼女は、仕事として抜いてくれ、あとは時間まで抱き枕になってくれた。
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