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第六部・社内旅行 編

第三秘書の資料

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「……本当に一人で大丈夫なのにな。佑さんって過保護なんだから」

 時間が許せば香澄の面倒を見ようとする彼は、本当に世話好きだ。

「……子供ができたら、いいお父さんになってくれそうかな」

 なんとなく考えてみて、一人クスッと笑った。





 シャワーを浴び終えると、斎藤が食パンを一枚トーストし、目玉焼きを焼いてくれた。

 サラダはたっぷり食べたいので、作り置きのタッパー一つ分を頂くことにする。
 ドイツではあまり生野菜を食べる機会が少なかった気がするので、積極的に生野菜を食べようと決めていた。

 トーストにルバーブのジャムを塗り、サクサクと囓る。
 半熟目玉焼きに垂らすのは醤油で、佑も醤油派で「同じだね」と笑い合ったのを思いだした。

「さて……」

 食事を終えたあと、仕事用タブレットを開いて共有資料に目を落とす。

 佑は以前から考案していた、第三秘書を雇う案を決定したようだった。

 ドイツに行く前から募集は始まっていて、何度かの面接もあったらしい。

 最終的に決定した人の簡単な紹介分などを、松井が作成してくれたのだ。
 用意された資料は、個人情報こそ書かれていないものの、これからチームを組んで働いていく前提で、共有しておいたほうがスムーズにいくだろう情報が書かれてあった。

 勿論、新しく入る第三秘書にも松井と香澄の基本データは渡されているだろう。

 共有データには香澄が不在中に仕事がどう回されたかという事も書かれてあり、香澄の復帰後の大まかな予定などもある。
 松井は香澄のためにこういう資料まで用意してくれるので、本当に仕事ができるし頭が上がらない。

「うん……。第三秘書の……河野由貴男(こうのゆきお)さん……二十九歳か。……で、前職も秘書、と。前の会社は環境が合わず、Chief everyの求人を知って辞職、エントリー……と」

 最終選考まで残る有能な人が、Chief every、ひいては佑のもとで働きたいと思ってくれたのが誇らしい。

「んふふ。Chief everyホワイト企業だしな。他の人もだけど、大勢惹かれたんだろうなぁ。嬉しい」

 本来なら雇用に関しては人事の管轄だが、佑の秘書ということで佑と松井も関わっているのだろう。

「神経質でまじめそうな人だな。ちょっとイケメンかも」

 タブレットに映っている河野は、知性的な顔立ちだ。
 履歴書用だからか髪を七三に撫でつけていて、眼鏡も掛けているのでカッチリとした印象がある。

「身長181センチメートル……高いなぁ。へぇ、合気道もしてたんだ。運転もできるし、ボディガードとしても有能そう。外国語も……へええ。五か国語! わ、私よりずっと優秀……」

 約一年半前に自分が書いた履歴書と雲泥の差だ。

「私、年下だけどちゃんと先輩できるかな……。いや、私が復帰する頃には河野さんは先に働いてるのか……」

 考えれば考えるほど、段々不安になってきた。

(この人仕事できそうだしな……。女だからって舐められたら嫌だな。それに佑さんの婚約者って分かったら、公私混同してるって思われて……軽蔑されたらどうしよう)

 新しい人員が入るとなると気持ちが変わってくる。
 ましてや尊敬してほしいと思う後輩なら、自分の状況を気にして当たり前だ。

 少なくとも香澄は佑に仕事上での特別扱いを望んでいない。
 そこを勘違いされるのは辛い。

(……でも、多少勘違いされても仕方ない……か。事実は事実なんだし。私がまじめに働いて、ちゃんと本気で秘書として働いているんだって示せばいいんだ)

 心の中で決めたあとは、有益な時間を過ごそうと決めた。

「よし! ……どうしようかな。リハビリ以外で歩行訓練はしすぎないようにって言われてるし……」

 ドイツのクランケンハウスにいた時もそうだが、療養期間というものは治療・回復が目的とはいえ、時間がありすぎる。
 かといって外を出歩ける体でもないので、自然と室内で時間を過ごさなければいけない。

「……あ、そうだ。アロクラの公式サイト見てみようっと」

 ポンッと思いつくと、香澄は検索サイトを開く。

 斎藤がカフェオレを持って来てくれたので、お礼を言って自主的に〝勉強〟を始めた。



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