202 / 1,559
第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
もう君なしに生きられない
しおりを挟む
「隠れられたら困るな。香澄がいなくなったら、俺は気が狂ってしまう。せっかく拾った猫がいなくならないように、GPS付きの首輪を用意しなきゃ」
「ハイ、ヤンデレ決定~」
香澄が笑うと、佑はヤンデレという言葉を知らないのか、不思議そうな顔をする。
「……ありがとうね。怪我をしても、私にも家族にもとっても良くしてくれた」
「別に礼を言われるほどの事じゃない。俺はこれぐらいしかできなかったから」
香澄からすれば、あの病室やホテルだって、一泊の値段に目が飛び出るほどだ。
加えてプライベートジェットの往復だって、とんでもない金がかかった。
「俺が普通の会社員なら、帰国したあとも出張せず毎日側にいられるんだろうな」
「だからそれは、気にしてないってば」
手を伸ばして佑の頬に触れようとすると、佑が屈んでくれる。
「香澄、愛してる。こんな言葉で俺の気持ちすべてが伝わるとも思っていない。だから……、俺の側を離れないでくれ」
あの〝世界の御劔〟と言われ、男女問わず憧れられている男が、縋り付きそうな顔と声で香澄に言う。
彼は香澄の両手を握り、自信なさげに眉を寄せ、懇願するように見つめてくる。
この短期間でこのように熱烈な告白を受ける心当たりがないのだが、恐らく事故の事、そして香澄をドイツに独りぼっちにしてしまった事によほど責任を感じているのだろう。
「もう君なしに生きられない」
「大げさだよ。私、そんなにたいそうな存在じゃないよ?」
和ませるように笑うが、佑はとてもまじめな顔で言う。
「君は芸能人的に〝特別〟ではない。俺以外の人が見たら〝普通〟だと思うだろう。けど、俺にとっては命にも代えがたい〝特別〟なんだ」
香澄の髪を、佑は何度も撫でる。
「君が与えてくれる些細な事が、とても愛しいんだ」
「些細な……? うーん、何か、庶民的なあれこれしか思いつかなくて、恥ずかしいんだけど……」
そう言うと、彼はクスッと笑う。
「香澄は俺に『あれを買って、これを買って』とねだらない。だから俺は無欲な香澄に物を与えたくなる。食事だって高級料理を食べたいと言わない。できるだけ自宅で作ってくれようとするし、『二人の時間を大事にしたい』と言ってくれる。俺は香澄のカレーが大好きだし、里芋の煮っ転がしや大根の煮物が大好きだ。安心する」
「……う……」
高級料理と、香澄が作った茶色い家庭料理を比べられ、思わず赤面する。
友人が「SNS映え」と言ってお洒落なカフェのような料理をしている傍ら、香澄はいわゆる〝おふくろの味〟的な料理しか作れない自分にコンプレックスを抱いていた。
「それでも『ちょっとでも見目を良くしたい』って、庭のハーブを飾りにしようとするだろ? ……何て言うんだろう。そういう〝普通〟の事を気にして、ちょこちょこ努力している姿が堪らなく愛しい」
香澄の真っ直ぐな髪を撫で、佑は愛しそうに目を細める。
そんな彼に、香澄は申し訳なさそうに微笑みしかできなかった。
「……私、佑さんに沢山お金使わせてしまっているのに、そんな事ぐらいしかお礼をできなくてごめんね? 私のお給料で何かを買おうとしても、きっと佑さんなら何でも手に入ると思う。結局、手料理とかあれこれ……。地味で庶民的なお返ししかできないの」
「だから……。俺はそれが一番嬉しいんだ」
ギュウッと香澄を抱き締め、佑がくぐもった声で言う。
「俺は香澄と出会ってしまった。ギャップ萌えで一目惚れして、どんどん好きになっていった。外見にだけ惚れたなら、短期間で飽きたかもしれない。でも香澄は知れば知るほど、俺をとてつもない引力で引き寄せていった」
「私に、そんな魅力なんてあるのかな?」
仕事への姿勢を評価してもらえるのは嬉しい。
パンツスーツからバニーガールになって、ギャップ萌えになったのもある程度理解できる。
でも佑のような人が〝魅力的〟と言うほど、自分はその他に何か持っているのだろうか? と心底不思議に思う。
「何度も〝普通〟と言って申し訳ないが、〝普通〟の人は〝普通の〟良さに気づけないんだ。生活費を気にしてつましくし、料理も家事も自分の手でやろうとする。自分は何もしていないと思っている時に、他人から何かを与えられると警戒したり申し訳なく思う。……それが俺の周りにいる女性に著しく欠けているものなんだ」
「…………」
そう言われてしまうと、香澄も黙るしかない。
「俺の周りにいる女性を、悪く言いたい訳じゃない。彼女たちは華々しい世界にいて、何かに手間暇をかけるより、時間を優先させるために金をかけているだけだ。それは俺も同じだから悪く言えるはずもないんだ」
確かに佑は本当に急ぎの場合、プライベートジェットでもヘリコプターでも利用する。
人がどれだけ裕福になっても、唯一得ることができないのは時間だ。
「ハイ、ヤンデレ決定~」
香澄が笑うと、佑はヤンデレという言葉を知らないのか、不思議そうな顔をする。
「……ありがとうね。怪我をしても、私にも家族にもとっても良くしてくれた」
「別に礼を言われるほどの事じゃない。俺はこれぐらいしかできなかったから」
香澄からすれば、あの病室やホテルだって、一泊の値段に目が飛び出るほどだ。
加えてプライベートジェットの往復だって、とんでもない金がかかった。
「俺が普通の会社員なら、帰国したあとも出張せず毎日側にいられるんだろうな」
「だからそれは、気にしてないってば」
手を伸ばして佑の頬に触れようとすると、佑が屈んでくれる。
「香澄、愛してる。こんな言葉で俺の気持ちすべてが伝わるとも思っていない。だから……、俺の側を離れないでくれ」
あの〝世界の御劔〟と言われ、男女問わず憧れられている男が、縋り付きそうな顔と声で香澄に言う。
彼は香澄の両手を握り、自信なさげに眉を寄せ、懇願するように見つめてくる。
この短期間でこのように熱烈な告白を受ける心当たりがないのだが、恐らく事故の事、そして香澄をドイツに独りぼっちにしてしまった事によほど責任を感じているのだろう。
「もう君なしに生きられない」
「大げさだよ。私、そんなにたいそうな存在じゃないよ?」
和ませるように笑うが、佑はとてもまじめな顔で言う。
「君は芸能人的に〝特別〟ではない。俺以外の人が見たら〝普通〟だと思うだろう。けど、俺にとっては命にも代えがたい〝特別〟なんだ」
香澄の髪を、佑は何度も撫でる。
「君が与えてくれる些細な事が、とても愛しいんだ」
「些細な……? うーん、何か、庶民的なあれこれしか思いつかなくて、恥ずかしいんだけど……」
そう言うと、彼はクスッと笑う。
「香澄は俺に『あれを買って、これを買って』とねだらない。だから俺は無欲な香澄に物を与えたくなる。食事だって高級料理を食べたいと言わない。できるだけ自宅で作ってくれようとするし、『二人の時間を大事にしたい』と言ってくれる。俺は香澄のカレーが大好きだし、里芋の煮っ転がしや大根の煮物が大好きだ。安心する」
「……う……」
高級料理と、香澄が作った茶色い家庭料理を比べられ、思わず赤面する。
友人が「SNS映え」と言ってお洒落なカフェのような料理をしている傍ら、香澄はいわゆる〝おふくろの味〟的な料理しか作れない自分にコンプレックスを抱いていた。
「それでも『ちょっとでも見目を良くしたい』って、庭のハーブを飾りにしようとするだろ? ……何て言うんだろう。そういう〝普通〟の事を気にして、ちょこちょこ努力している姿が堪らなく愛しい」
香澄の真っ直ぐな髪を撫で、佑は愛しそうに目を細める。
そんな彼に、香澄は申し訳なさそうに微笑みしかできなかった。
「……私、佑さんに沢山お金使わせてしまっているのに、そんな事ぐらいしかお礼をできなくてごめんね? 私のお給料で何かを買おうとしても、きっと佑さんなら何でも手に入ると思う。結局、手料理とかあれこれ……。地味で庶民的なお返ししかできないの」
「だから……。俺はそれが一番嬉しいんだ」
ギュウッと香澄を抱き締め、佑がくぐもった声で言う。
「俺は香澄と出会ってしまった。ギャップ萌えで一目惚れして、どんどん好きになっていった。外見にだけ惚れたなら、短期間で飽きたかもしれない。でも香澄は知れば知るほど、俺をとてつもない引力で引き寄せていった」
「私に、そんな魅力なんてあるのかな?」
仕事への姿勢を評価してもらえるのは嬉しい。
パンツスーツからバニーガールになって、ギャップ萌えになったのもある程度理解できる。
でも佑のような人が〝魅力的〟と言うほど、自分はその他に何か持っているのだろうか? と心底不思議に思う。
「何度も〝普通〟と言って申し訳ないが、〝普通〟の人は〝普通の〟良さに気づけないんだ。生活費を気にしてつましくし、料理も家事も自分の手でやろうとする。自分は何もしていないと思っている時に、他人から何かを与えられると警戒したり申し訳なく思う。……それが俺の周りにいる女性に著しく欠けているものなんだ」
「…………」
そう言われてしまうと、香澄も黙るしかない。
「俺の周りにいる女性を、悪く言いたい訳じゃない。彼女たちは華々しい世界にいて、何かに手間暇をかけるより、時間を優先させるために金をかけているだけだ。それは俺も同じだから悪く言えるはずもないんだ」
確かに佑は本当に急ぎの場合、プライベートジェットでもヘリコプターでも利用する。
人がどれだけ裕福になっても、唯一得ることができないのは時間だ。
43
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる