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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
一緒に風呂に入ろうか
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「わぁー! ただーいま!」
白金台の家に戻り、広々とした玄関に入ると香澄が歓声を上げる。
勿論、フェリシアが『おかえりなさい、香澄さん』と迎えてくれた。
「あぁー……。佑さんの匂いがする……」
絞り出すような声で言えば、背後で佑が苦笑した。
「なんだそれ。俺、そんなに匂うのか?」
「ううん。佑さんの香水のいい匂いとか、この家で使ってるディフューザーとか、そういう香り。全部ひっくるめて、佑さんの匂い」
「……ふぅん? じゃあ今度香澄の実家に行ったら、香澄の部屋で匂いを嗅ぎまくるかな」
「やだぁ、変態」
ケラケラと笑った時、奥から斎藤が現れた。
「お帰りなさい! 赤松さん」
「斎藤さん~!」
香澄は思わずドイツのノリでハグを求め、斎藤も若干照れながらハグしてくれる。
「大丈夫なんですか? 事故に遭ったと聞いた時はびっくりして……」
「もう、この通りピンピンです。松葉杖はついてますけど、他は全然元気です。何なら日本食に飢えて、食欲の権化になってます」
そう言うと、斎藤も笑い出した。
「それは作りがいがありますね。リクエストはありますか?」
「和食っぽいの食べたいです」
「分かりました」
そんな会話をし、いざ靴を脱いだので松葉杖の先端にカバーをした。
これで室内でも安心だ。
ピョコピョコとリビングダイニングに入ると、思わず声が出る。
「わぁ……。変わってないなぁ……」
「とりあえず座って。荷物とかは俺が片付けておく」
「ありがとう。ちょっと休んだら自分でやるから」
お礼を言い、香澄は広々としたリビングのソファに腰を落ち着かせる。
いつもの席に座っただけで、安心感が半端ない。
「あー……」
声を出した時、斎藤が尋ねてきた。
「赤松さん、紫蘇ジュース飲みますか?」
「はい」
御劔家の敷地では、斎藤がよく使うハーブなどを一角で育てている。
紫蘇もよく採れているらしく、手製のジュースは実家でも飲んでいたが美味しいから大好きだ。
すぐに斎藤は赤紫色のジュースを持って来てくれた。
グラスの中で氷がカランカランと鳴り、耳に涼しい。
「東京に帰ってきたらムワッと暑くて、めっちゃ日本! って思いました」
「でしょう。東京の蒸し暑さは格別ですからね」
一口飲むと、つんっと口の中に酸っぱさが広がった。
「んっくぅー」
「ふふ、酸っぱいですか?」
「はい。でも美味しいです」
そのとき佑が自室から戻ってきて、彼は白ワインを炭酸水で割ったスプリッツァを自分で作っていた。
(お風呂入りたいな。お風呂は無理でもシャワーでも……)
ジュースを飲みながら考えていた時、佑が見透かしたように尋ねてくる。
「風呂入りたい?」
「ん! ……う、うん……」
返事をするものの、これは佑が口実にしてイチャついてくる流れだな、と察した。
目下香澄の左脚――膝から下はギプスに覆われている。
左脚を庇うために、左脚が筋力不足にならないために、脚の曲げ伸ばし程度からリハビリをしている。
ドイツの医師から聞いた話では、術後三週間ほどで患部の炎症反応が沈静化するらしいので、その辺りから本格的に歩行訓練を開始するらしい。
という事で、今週中には紹介された病院に通ってリハビリを重ねる事になる。
術後四週間ぐらいには、屋内で松葉杖なしで短い距離を歩き、五週間目には外での歩行練習が目標となっている。
職場復帰は最短で六週間後と言われていて、それまではしっかりリハビリに励む事にした。
――の、前に、目の前の御劔佑だ。
彼はジッとこちらを見て目をキラキラさせ、「風呂に入れてやろうか?」という顔をしている。
気持ちはありがたいのだが、斎藤のいる前で恥ずかしい。
ドイツに向かう前まではもしかしたら気にしていなかったかもしれないが、三週間ぶりに帰って来て佑とイチャつく距離感が分からなくなっている。
けれど、とうとう言われてしまった。
「それ。飲んだら一緒に風呂に入ろうか。香澄はシャワーな」
「で、でも私、介助が必要なんだよ?」
「だから言ってるんじゃないか。香澄も俺が相手なら、安心して介助受けられるだろう? そりゃあ慣れてないかもしれないけど、丁寧にやるから」
「う……うん。ありがとう……」
お礼を言った香澄は、チラッと斎藤を見てプシュー……と赤面してしまう。
白金台の家に戻り、広々とした玄関に入ると香澄が歓声を上げる。
勿論、フェリシアが『おかえりなさい、香澄さん』と迎えてくれた。
「あぁー……。佑さんの匂いがする……」
絞り出すような声で言えば、背後で佑が苦笑した。
「なんだそれ。俺、そんなに匂うのか?」
「ううん。佑さんの香水のいい匂いとか、この家で使ってるディフューザーとか、そういう香り。全部ひっくるめて、佑さんの匂い」
「……ふぅん? じゃあ今度香澄の実家に行ったら、香澄の部屋で匂いを嗅ぎまくるかな」
「やだぁ、変態」
ケラケラと笑った時、奥から斎藤が現れた。
「お帰りなさい! 赤松さん」
「斎藤さん~!」
香澄は思わずドイツのノリでハグを求め、斎藤も若干照れながらハグしてくれる。
「大丈夫なんですか? 事故に遭ったと聞いた時はびっくりして……」
「もう、この通りピンピンです。松葉杖はついてますけど、他は全然元気です。何なら日本食に飢えて、食欲の権化になってます」
そう言うと、斎藤も笑い出した。
「それは作りがいがありますね。リクエストはありますか?」
「和食っぽいの食べたいです」
「分かりました」
そんな会話をし、いざ靴を脱いだので松葉杖の先端にカバーをした。
これで室内でも安心だ。
ピョコピョコとリビングダイニングに入ると、思わず声が出る。
「わぁ……。変わってないなぁ……」
「とりあえず座って。荷物とかは俺が片付けておく」
「ありがとう。ちょっと休んだら自分でやるから」
お礼を言い、香澄は広々としたリビングのソファに腰を落ち着かせる。
いつもの席に座っただけで、安心感が半端ない。
「あー……」
声を出した時、斎藤が尋ねてきた。
「赤松さん、紫蘇ジュース飲みますか?」
「はい」
御劔家の敷地では、斎藤がよく使うハーブなどを一角で育てている。
紫蘇もよく採れているらしく、手製のジュースは実家でも飲んでいたが美味しいから大好きだ。
すぐに斎藤は赤紫色のジュースを持って来てくれた。
グラスの中で氷がカランカランと鳴り、耳に涼しい。
「東京に帰ってきたらムワッと暑くて、めっちゃ日本! って思いました」
「でしょう。東京の蒸し暑さは格別ですからね」
一口飲むと、つんっと口の中に酸っぱさが広がった。
「んっくぅー」
「ふふ、酸っぱいですか?」
「はい。でも美味しいです」
そのとき佑が自室から戻ってきて、彼は白ワインを炭酸水で割ったスプリッツァを自分で作っていた。
(お風呂入りたいな。お風呂は無理でもシャワーでも……)
ジュースを飲みながら考えていた時、佑が見透かしたように尋ねてくる。
「風呂入りたい?」
「ん! ……う、うん……」
返事をするものの、これは佑が口実にしてイチャついてくる流れだな、と察した。
目下香澄の左脚――膝から下はギプスに覆われている。
左脚を庇うために、左脚が筋力不足にならないために、脚の曲げ伸ばし程度からリハビリをしている。
ドイツの医師から聞いた話では、術後三週間ほどで患部の炎症反応が沈静化するらしいので、その辺りから本格的に歩行訓練を開始するらしい。
という事で、今週中には紹介された病院に通ってリハビリを重ねる事になる。
術後四週間ぐらいには、屋内で松葉杖なしで短い距離を歩き、五週間目には外での歩行練習が目標となっている。
職場復帰は最短で六週間後と言われていて、それまではしっかりリハビリに励む事にした。
――の、前に、目の前の御劔佑だ。
彼はジッとこちらを見て目をキラキラさせ、「風呂に入れてやろうか?」という顔をしている。
気持ちはありがたいのだが、斎藤のいる前で恥ずかしい。
ドイツに向かう前まではもしかしたら気にしていなかったかもしれないが、三週間ぶりに帰って来て佑とイチャつく距離感が分からなくなっている。
けれど、とうとう言われてしまった。
「それ。飲んだら一緒に風呂に入ろうか。香澄はシャワーな」
「で、でも私、介助が必要なんだよ?」
「だから言ってるんじゃないか。香澄も俺が相手なら、安心して介助受けられるだろう? そりゃあ慣れてないかもしれないけど、丁寧にやるから」
「う……うん。ありがとう……」
お礼を言った香澄は、チラッと斎藤を見てプシュー……と赤面してしまう。
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