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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

懐かしの御劔邸へ

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「ではこちらでホテルを手配するので、そこに泊まりませんか? 知り合いが経営しているので融通が利きます」

 そう言うと、佑は栄子の返事を聞く間もなく、どこかへ電話をかけた。
 相手が出るまでゆっくり歩いて三人から離れ、距離をとった場所で誰かと声量を抑えた声で会話を始める。

「やだ。また佑さんに頼っちゃって……」
「栄子さん、うちの佑なんてどんどん使ってやってください。あの子、顔が広い事と無駄にお金を持ってる事しか、取り柄がないんですから」

 アンネの言い方は、割と身も蓋もない。

(けど、これがアンネさんなんだよなぁ……)

 苦笑いしつつ、香澄はさりげなく佑を目で追う。
 やがて、彼が戻ってきた。

「お義母さん。国内ターミナル内にあるホテルをおさえられましたから、今夜はそちらにどうぞ。俺の名前で部屋を取ってしまったのは、すみません。ですが御劔の名前を名乗れば、話は通じるようになっていますから」
「本当にごめんなさいね。佑さん」

「いいえ、どうぞお気にせず。もしお礼を……と考えてくださるのなら、今度札幌に伺ったとき、手料理が食べたいです」

 佑らしい〝お願い〟に、香澄は微笑ましくなる。

「まぁ、上手ね。分かりました。本当にありがとう」

 その後、佑は佐野を栄子につけて国内ターミナルまで送ろうとした。
 しかし栄子は「子供じゃないから、一人で行けます」とやんわり断る。

 やがてプライベートジェットのもとまで、佑の車が三台つく。
 一台は佑と香澄が乗り、もう一台はアンネ、もう一台は栄子をそれぞれの目的地まで送って行く。
 当然護衛たちも別れて同乗する事となる。

「じゃあ、香澄。元気でね。そのうち電話をちょうだい」
「うん。今回は色々ごめんね。ありがとう! 絶対完治させるから」

 母親と別れの挨拶をし、香澄は栄子と別れた。

「じゃあ私も家に戻るわ」
「アンネさん、本当にありがとうございました。またどうぞ宜しくお願いします」

 ペコリと頭を下げると、アンネはヒラリと手を振って歩いていった。

「さて、行こうか」

 車に乗ると、ようやくあの白金台の御劔邸に戻れるのだと安心する。
 あれだけ気が休まらない豪邸だと思っているのに、こうやって離れてみるとすっかり〝自分の住まい〟として認識しているようだった。

「佑さん。明日は何か、お醤油味かお味噌味の物が食べたいな」
「じゃあ、朝食は和食で決定だな。白米に鮭に味噌汁、漬物」
「わーい」

「落ち着いたら、紹介先の病院にも行かないとな。今も松葉杖を使って歩けているようだし、多少は散歩をした方が体にもいいだろう。でも外出する時は絶対に誰かに声を掛けて」
「はい」

 車は湾岸の高速道路を進み、やがてレインボーブリッジが見えてくる。

「……あぁー……。何だか帰ってきたなぁ」

 見慣れたと思っていた東京の景色が、こんなにも懐かしい。

「三週間はやっぱり長いな。日本食、飢えてるだろ」
「飢えてまーす」

 あはは、と笑い、香澄はスマホを開く。

「麻衣に帰国したって連絡しよっと」

 スマホでメッセージをポチポチ打ったあと、自撮りで怪我をした左足とピースサインをしている自分の手を撮る。
 それに加工アプリで『元気!』と文字を入れ、ポンと送った。

「なんだかドッキリな旅行になったね」

 冗談めかしていったのだが、佑はズン……と落ち込んで返事をする。

「俺はあまりのショックで死ぬかと思ったよ。先日、鏡で白髪を見つけた」
「え!? 嘘! やだ。ごめんなさい」

 佑に白髪と言われてピンとこないが、それだけのショックを与えてしまったようだ。

「もう大丈夫だよ。」
「ん」

 香澄の肩に佑の手がまわり、ちゅ、とこめかみに唇が落ちる。



 そのまま、車は見慣れた景色を車窓に映し白金に向かった。



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