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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

帰国

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「不便はしてしなかったか?」
「うん。お母さんもいてくれたし、アンネさんも節子さんも、皆良くしてくれたよ」
「そうか」

 向こうで双子たちがブーイングしているのが聞こえたので、仕方なく佑は香澄を抱く腕を緩め、体を解放してくれる。
 そして二人で皆のもとまで戻ると、佑はまず頭を下げてお礼を言った。

「お義母さん、三週間ありがとうございました。母さんもオーマも、オーパも皆も、香澄を守ってくれてありがとう」

 栄子は「ゆっくり観光気分を味わわせてもらいました」と笑い、他の者達も気にするなという顔をしている。

「佑」

 と、アドラーが佑を手招きした。
 彼は内密の話があると察し、祖父と共に少し離れた場所まで歩いて行く。

「カスミ、またすぐそのうち日本に行くからね」
「はい。お待ちしています」

「骨折して自宅療養なんてつまんねー、って思ってたなら、いつでも言ってね?」
「んふふ、お二人ともお忙しいんですから、そんな我が儘言いませんよ」
「カスミはこうだからなー。僕らから積極的に世話を焼きに行かないと」

 ありがた迷惑な事を言う二人にも、毎日のように顔を合わせていたので、もう慣れっこだ。
 それからしばらく会話をしていると、佑とアドラーが戻って来た。

「香澄、飛行前点検があるから、少し空港内のカフェかどこかで休もうか」
「うん」

 飛行機というのも色々と航空法で点検が厳しく定められている。
 フライト前にチェックするものは一時間程度で済むが、他にも一定の飛行時間を超えたら行わなければならない、大規模な整備があり、それもさらに数段階ある。

 佑は頻繁に出張であちこち行っているので、その点検費用なども馬鹿にならないだろうが、平然として立派なプライベートジェットを所持し続けているので、彼の財力がうかがい知れる。
 聞いた話ではお抱えのパイロットを雇うだけでも数千万、客室乗務員を雇うなら数百万だ。
 他にも常駐する羽田での契約料や、燃料代、保険代などもあり、着陸しただけでも費用がかかる。

 果たして年間維持費はどれぐらいなのだろう……、と気が遠くなるのだが、あまりお金に関する事は佑に聞かないようにしている。





 空港内のカフェで時間を潰したあと、点検が終わったとの連絡がきて、とうとうドイツを発つ事になった。
 帰りの飛行機ではアンネも一緒で、四人と護衛たちとの旅路になる。

 最後に節子や双子たちとハグをしてから、香澄たちは佑のプライベートジェットに乗った。





 約半日を使う空の旅だが、相変わらず御劔ジェットは快適だ。
 食欲はすっかり回復していたので、陶器のお皿で出てくるフルコースに舌鼓を打ち、最新の映画を見て香澄はすっかりご満悦だった。





 約十一時間のフライトを終えて羽田に着くと、東京は昼過ぎだった。

 栄子は東京に一泊してから新千歳空港に向かうらしいので、佑は気軽に白銀の自宅に誘う。

「近場のホテルを取るからいいのよ。それにせっかく久しぶりに二人きりになれるんだから、邪魔しちゃ駄目でしょ」
「お母さんでも……。ホテル代浮くよ?」

 実家の一般的な経済状況を思えば、一泊のホテル代はそれなりに大きいと思う。
 佑の家だが、香澄は懸命に母を誘ってみる。

「いいってば。今までさんざん御劔さんの脛を囓ってしまったんだから、最後の一泊ぐらい自分で出さないと。うちだってそこまで貧乏じゃないんだから」
「でも……」

 言いよどんだ時、佑が微笑んだ。

「ホテルの手配はできていますか?」
「あ、いえ。まだなのよ。でもスマホで探したら近場で安いホテルが見つかるだろうし」

 母よ、甘い。と香澄は内心突っ込む。

 羽田空港近辺のホテルは、相当前から予約しないと手軽な値段でおさえられない。
 そもそも、値段の高い部屋でも空いてるかどうかなのだ。

 それほど羽田空港を利用する人間が多いということを、栄子は分かっていない。
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