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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

三週間ぶりの再会

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 三週間のドイツ滞在は、思っていたより不便を感じなかった。

 本来なら入院は一週間も要らず、退院したあとはクラウザー家で経営しているホテルで暮らし、病院に通う生活をしていた。

 毎日母が付き添っていてくれるし、食生活は節子が便宜を図ってくれて食べたい物を食べられる。
 広いスイートルームに母と二人で泊まっているので、まるで実家に戻ったような心地になった。

 アンネは投資家だからか仕事に縛られず、実家とホテルを行き来して、色々相手をしてくれた。

 相変わらず態度はツンケンしているものの、奥底にはきちんとした思いやりがある。
 それは栄子も分かっているようで、彼女がいない時に二人で「アンネさんってツンデレだよね」と言って笑い合っていた。

 リハビリも始めていて、母と節子立ち会いのもと、節子、アンネに時々通訳をしてもらいながら地道にリハビリを重ねた。

 二週間目には松葉杖をつきながら、母、節子、アンネの三人に付き添ってもらい、散歩もした。
 やはり外で風を浴び、日差しを受けるととても気持ちがいい。

 アドラーや双子、その他の親族たちも、一気に大人数のお見舞いにならないよう、調整しながら入れ替わり立ち替わり顔を見せてくれた。

 佑との連絡は欠かさず、彼は宣言通り日本時間での「おはよう」と「おやすみ」を欠かさずメッセージしてくれた。

 ビデオ通話をする時は、時差の都合でお昼時か夕方だ。
 そうなると、日本では夕食時か寝る前ぐらいの時間帯になる。

 佑は約束通り食事の写真を撮って送ってくれ、それを見ると日本食が食べたくてソワソワしてしまう。
 特に斎藤が作った食事を見ると、無条件でお腹が鳴ってしまう。
 母に斎藤のご飯が美味しいという話をすると、「母の味から離れたのか……」とちょっぴり嫉妬されてしまった。

 佑に少しでもドイツに馴染んでいると教えたくて、街中で目にしたもので不思議だったものを、節子やアンネに質問して、「今日はこんな事を教えてもらったよ」と報告した。

 丸っこいパンから左右に長くソーセージがはみ出ているホットドッグは、こちらでは定番の屋台料理だ。
 香澄も怪我をする前に食べていたが、ぜひ二回目も食べたいと思っていた。
 あつあつのそれを手にしてピースサインをしている写真を、母に撮ってもらい佑に送るとなぜだか爆笑されてしまったが、彼が楽しそうなのでよしとする。





 そしてあっという間に三週間の終わりが迫った。

 母が荷物を纏めてくれ、ドイツに残っていた瀬尾、久住、佐野も帰国する準備を終えていた。
 佑は夕方着のフライトだと言っていて、飛行機の中からもメッセージをくれた。

 香澄たちは荷物を纏めて車のトランクに入れ、アドラーたちに滞在中に世話になったお礼を言う。

 入院していた一週間目には、警察などに話を聞かれたが、その辺りはアドラーが付き添ってくれたもあって、万事スムーズにいった。
 また入院していた病院から、佑が希望する東京の病院への紹介状も書いてもらえ、帰国の準備は万端だ。

 空港のベンチに座って母や双子たちと会話をしていると、向こうから佑と護衛たちの姿が見えた。

「佑さん!」

 香澄はベンチに座ったまま手を振り、そのあと「よいしょ!」と松葉杖で立ち上がる。
 こちらに気付いた彼は、らしくなく慌てて全力で走ってきた。

「香澄!」
「カスミ~、気をつけてね」

 ピョコピョコと松葉杖で進む香澄に、双子のどちらかが声を掛けてくる。

 ――佑さんだ!

 広い空港の中で二人は駆け寄って――、佑は近い距離になってから走る速度を落とし、微笑んで両手を広げた。

「久しぶり」

 今までなら、勢いのまま香澄を抱き上げていただろう。
 そんな少しの仕草の中にも、彼の気遣いが分かって胸がキュンと疼く。

「んふふ、ぎゅー」

 香澄は両手に持っていた松葉杖を片手に纏め、佑を抱きしめた。

 佑は彼女の手から松葉杖を受け取り、片手で難なく持ったあと、香澄に負担にならないような力加減で抱きしめてくる。
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