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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

いつかゆっくり聞かせてね

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「行ったの?」

 その質問に、佑は答えない。

(嘘つかないところはいいよなぁ……)

 変なところに、思わずうんうんと頷く。

「……いや、行ったというか……」
「お持ち帰り?」
「……いや、その……」

 佑はうろたえ、その言葉はいつもと違ってハッキリしない。

「ふふーん、言いたまえ」

 香澄はニヤニヤ笑い、佑の胸板を指でクリクリといじる。

「…………ちょっと荒れてた頃」
「うん」

 佑が過去の話をするのは珍しいので、香澄は興味津々で頷く。

「少し不誠実な付き合いをしてた。でも週刊誌とかに書かれるのが嫌だったから、専門の女性にホテルまで来てもらった事はあった」
「うん」

 頷いたあと、自分で聞いておきながら「ふーん……」となる。

「健全な大人の男性だもんね。二十代ったらやりたい盛りだもんね」
「……いや、そこまででも」

 モゴモゴと言う佑に、香澄は意地悪を言う。

「じゃあ、私が東京に戻って完治するまで、エッチしなくて大丈夫だね」
「怒ってるだろ!?」

 佑が悲鳴に似た声を出すので、香澄はとうとうケラケラ笑い出した。

「んふふ」
「…………意地悪な女だな」

 溜め息をつき、佑はチュッとキスをしてくる。

「……いつかゆっくり聞かせてね」
「……ん」

「聞く時は、エッチのあとがいいな。私の方が〝今〟愛されてるって思いながら、過去の女性の話を聞きたい。……んふふ。性格悪いでしょ」
「悪女はいい女なんだよ」

 佑はチュッチュッと香澄の頬にキスをし、話を合わせて笑う。

「芳也は皆さんに失礼なかった?」
「皆にこやかに迎えていたよ」

「うちの家族、英語駄目だったと思うんだけど、やっぱり皆さん日本語で対応してくださった?」
「ああ。そこは心配ない。逆に赤松家の皆さんは、クラウザー家の人々がとても流暢に話すから驚いていたな」

「だよね。私もびっくりしたもん」
「街を案内したけど、感動してあちこち写真を撮っていたな。あとは屋台料理とか、ヴルスト……ソーセージの食べ比べ、肉料理とか、思う存分食べてた。ビアホールにも連れて行ったよ」

「あー、こっち沢山ソーセージの種類あるもんね。芳也、お肉好きだし目をハートにしてたでしょ」

 クスクス笑う香澄も肉食なので、こちらではたっぷり肉料理を食べた。

「香澄も早く、肉をモリモリ食べられたらいいな?」

 頭を撫でられ、香澄は思わず笑う。

「うん、そうだね」

 そのあとも家族の話を聞いていたが、いつの間にか二人とも無言になってしまった。

 香澄は「ごめんなさい」と謝りたい気持ちで一杯だが、佑が謝罪を望んでいないのは分かっている。
 そして自分が気にしていると知らせるほど、佑の負担になるのも分かっていた。

「気をつけて帰ってね」
「ん」

「たまにメッセージくれると嬉しいな」
「毎日、おはようからおやすみまで、メッセージを送るよ。何なら、食べた物も」

「あっ、それはいいね。日本食への欲求を高めておく」
「ぶふふっ」

 あくまで食欲を失っていない香澄に、佑は笑い崩れる。

「香澄も、休暇だと思ってゆっくり養生して」

 頭を撫でられ、彼女は猫のように目を細める。

「うん。松井さんに、くれぐれも宜しくお伝え……お願いします」
「分かってる」

 そのあとも、二人は色々話をした。

 けれど香澄は佑を気遣って必要以上に本音を話さなかったし、佑も同じだった。





 そのようにして、佑は翌日、香澄の父と弟と共にドイツを離れていった。



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