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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
家族の到着
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楽しい時間はあっという間で、看護師が『そろそろ面会時間が終わります』と声を掛けてきた。
特別フロアなので、消灯時間もあってないようなものだろう。
けれど規則は規則なので、彼は大人しく帰る事となった。
「また明日」
「うん」
額に優しいキスを落とし、頭を撫でてから佑は部屋を出て行った。
幸せでほーっとしたまま、香澄は自分の心がとても楽になっているのを感じる。
(佑さんが側にいるっていうだけで、魔法みたいに安心する)
節子や双子がいたので「大丈夫」と思っていたが、やはりドイツで一人入院している……と思うと、孤独と不安が押し寄せるのは当たり前だ。
普通なら家族に会おうにも会えないのに、佑はそれをたやすく叶えてくれた。
(日本に戻ったら、なんか、イチャイチャする系でお礼をしよう。……無理のない範囲で)
うん、と自分に向かって頷き、香澄は寝る準備をした。
翌日、朝食を食べ終えて十時過ぎになった頃、佑が再度やってきた。
今回は赤松家の三人、そしてアンネを引き連れてである。
「香澄……!」
「お母さん」
母の栄子が娘の顔を見て、ホッと息をつく。
「心配掛けてごめんなさい」
「手術はもう終わったのか?」
「うん。ちょっとずつリハビリもしてるよ」
父はあからさまには動揺していないが、内心ストレスを抱えてはいたのだろう。
その表情はいつもよりとても疲れているように見える。
弟の芳也だけが一人元気で、「これ、病室? すっげー!」とはしゃいでいた。
後から御劔ジェットについて、嬉々として語り出すのが目に見えている。
一通り香澄の安心を確認したあと、後ろにいたアンネが口を開く。
「赤松さんたちにはすでにお詫びしたけれど、佑が連れて行った先でこんな事があって、申し訳なかったわ」
「い、いいえ! アドラーさんや節子さんたちにも言いましたが、本当に〝事故〟だったので」
改めてアンネがドイツ人として育った事を考え、彼女の性格から考慮して、アンネがこうして謝罪するというのは、相当なものなのだろう。
「完治まで半年は見るとしても、半年なんてあっという間ですからね! 時間なんて簡単に溶けていきますから」
明るく言った香澄を、アンネは何か言いたげに見つめる。
その気持ちを栄子が補填した。
「この子は脳天気でいいでしょう? ですから心配ないって言ったんです」
(おや)
どうやら移動時間、飛行機の中で二人の母親は意気投合したらしい。
性格的には真逆とも言えるが、〝世界の御劔〟を〝ただの息子〟と扱っているアンネと話して、母親としての共通点を見つけたのだろう。
子供を心配する気持ちは、どんな家庭であっても同じ。
その上でそれぞれの家庭でのルールなども考慮すれば、理解できないケースはごく一部を除いてないのかもしれない。
「今後はどうなる予定なの?」
栄子に尋ねられ、香澄は佑を見る。
佑がいない間、医師や看護師に言われた事は、すべて佑にメッセージで伝えていた。
その上での判断を、彼がくだす。
「やはりすぐに帰国となると、体に負担がかかると思います。三週間ほどこちらで安静にしたあと、帰国して日本の病院に診察やリハビリのバトンを渡したいと思います」
(三週間か)
確かに、それぐらい経ったなら、ある程度リハビリにも慣れているだろうし、松葉杖なりを使っての移動にも慣れているだろう。
「お母さんはパート先にお休みを伝えてきたから、香澄が帰国するまで一緒にいるからね」
「ありがとう」
「新千歳から羽田にとまった時、一度御劔さんのお宅にお邪魔して、香澄の着替えや必要そうな物を持って来たから」
「うん」
チラッと弟を見ると、とてもソワソワしている。
御劔邸の感想を言いたくて堪らないのだろう。
「父さんと芳也は仕事があるから、帰らなきゃいけないけど、何かあったら母さんにいいなさい」
「うん、ありがとう」
特別フロアなので、消灯時間もあってないようなものだろう。
けれど規則は規則なので、彼は大人しく帰る事となった。
「また明日」
「うん」
額に優しいキスを落とし、頭を撫でてから佑は部屋を出て行った。
幸せでほーっとしたまま、香澄は自分の心がとても楽になっているのを感じる。
(佑さんが側にいるっていうだけで、魔法みたいに安心する)
節子や双子がいたので「大丈夫」と思っていたが、やはりドイツで一人入院している……と思うと、孤独と不安が押し寄せるのは当たり前だ。
普通なら家族に会おうにも会えないのに、佑はそれをたやすく叶えてくれた。
(日本に戻ったら、なんか、イチャイチャする系でお礼をしよう。……無理のない範囲で)
うん、と自分に向かって頷き、香澄は寝る準備をした。
翌日、朝食を食べ終えて十時過ぎになった頃、佑が再度やってきた。
今回は赤松家の三人、そしてアンネを引き連れてである。
「香澄……!」
「お母さん」
母の栄子が娘の顔を見て、ホッと息をつく。
「心配掛けてごめんなさい」
「手術はもう終わったのか?」
「うん。ちょっとずつリハビリもしてるよ」
父はあからさまには動揺していないが、内心ストレスを抱えてはいたのだろう。
その表情はいつもよりとても疲れているように見える。
弟の芳也だけが一人元気で、「これ、病室? すっげー!」とはしゃいでいた。
後から御劔ジェットについて、嬉々として語り出すのが目に見えている。
一通り香澄の安心を確認したあと、後ろにいたアンネが口を開く。
「赤松さんたちにはすでにお詫びしたけれど、佑が連れて行った先でこんな事があって、申し訳なかったわ」
「い、いいえ! アドラーさんや節子さんたちにも言いましたが、本当に〝事故〟だったので」
改めてアンネがドイツ人として育った事を考え、彼女の性格から考慮して、アンネがこうして謝罪するというのは、相当なものなのだろう。
「完治まで半年は見るとしても、半年なんてあっという間ですからね! 時間なんて簡単に溶けていきますから」
明るく言った香澄を、アンネは何か言いたげに見つめる。
その気持ちを栄子が補填した。
「この子は脳天気でいいでしょう? ですから心配ないって言ったんです」
(おや)
どうやら移動時間、飛行機の中で二人の母親は意気投合したらしい。
性格的には真逆とも言えるが、〝世界の御劔〟を〝ただの息子〟と扱っているアンネと話して、母親としての共通点を見つけたのだろう。
子供を心配する気持ちは、どんな家庭であっても同じ。
その上でそれぞれの家庭でのルールなども考慮すれば、理解できないケースはごく一部を除いてないのかもしれない。
「今後はどうなる予定なの?」
栄子に尋ねられ、香澄は佑を見る。
佑がいない間、医師や看護師に言われた事は、すべて佑にメッセージで伝えていた。
その上での判断を、彼がくだす。
「やはりすぐに帰国となると、体に負担がかかると思います。三週間ほどこちらで安静にしたあと、帰国して日本の病院に診察やリハビリのバトンを渡したいと思います」
(三週間か)
確かに、それぐらい経ったなら、ある程度リハビリにも慣れているだろうし、松葉杖なりを使っての移動にも慣れているだろう。
「お母さんはパート先にお休みを伝えてきたから、香澄が帰国するまで一緒にいるからね」
「ありがとう」
「新千歳から羽田にとまった時、一度御劔さんのお宅にお邪魔して、香澄の着替えや必要そうな物を持って来たから」
「うん」
チラッと弟を見ると、とてもソワソワしている。
御劔邸の感想を言いたくて堪らないのだろう。
「父さんと芳也は仕事があるから、帰らなきゃいけないけど、何かあったら母さんにいいなさい」
「うん、ありがとう」
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