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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
指切りげんまん
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「香澄?」
そんな彼女の反応を、佑が見逃すはずがない。
「ううん」
何も言われていないが否定をし、香澄はやはり明後日の方向を見る。
「俺の目を見て」
香澄は頑なに目を合わさない。
「病衣の中に手突っ込むぞ」
「!?」
さすがに危機を覚えた香澄は、目を剥いて胸元を手で庇う。
今は手洗いには呼び出しボタンを押して車椅子で連れて行ってもらっているが、ベッドにいる時は基本的におむつをしている。
まさかそれを触らせる訳にいかない。
「……触ったら……ダメ」
口が裂けても「別れます」など言えないので、説得力なく「ダメ」としか言えない。
「乳首だけで達けるか、練習できるな?」
信じられない事を言われ、香澄はクワッと目を見開く。
「嫌なら言って。俺も怪我人に乱暴な事をしたくない」
動揺したが、当初の目的は〝それ〟だ。
こんな状態で変な事をされるぐらいなら、白状してしまった方がいいのかもしれない。
けれど……、と思い、香澄は佑を上目遣いに見た。
「怒らないって約束してくれる?」
「あ、それは百パーセント怒るやつの前触れだな」
すぐに納得され、香澄は頭を抱える。
そんな彼女を見て佑は苦笑し、手を伸ばしてポンポンと頭を撫でてきた。
「言ってごらん。怒らないって約束する」
「……本当?」
「ああ」
目を見つめて頷かれ、それなら……と、香澄は昨日の夕方にアドラーたちが訪れて色々会話した事を話した。
「…………」
佑はしばらく黙り込み、脚を組んで顎に手をやっている。
「……分かった」
やがて深く長い溜め息をつき、彼は頷いた。
「……怒らない?」
そろりと尋ねた香澄に、彼は苦笑いする。
「約束は反故にしないよ」
組んでいた脚を戻し、彼はもう一度息をついてリラックスした姿勢になった。
「圧があったのに、立ち向かってきちんと言えた君を、誇りに思う」
アドラーたちに怒りを示すと思っていたのに、彼がそう言ったので拍子抜けした。
ポカンとした顔をする彼女に、佑は微笑みかける。
「確かに祖父の〝やりすぎ〟が発動したのは、良くないと思っている。だが香澄がきちんと自分の意思を伝えて、常識的意見をきちんと押し通せたのは、とても良かった。援護してくれた事について、オーマにあとから感謝を言いに行きたい」
「……うん」
自分の頑張りを認めてもらえて、香澄は嬉しくなって微笑む。
「頑張ったな」
褒められて、香澄はニヤニヤする。
いつも彼に守られてばかりで、秘書としても頼りにされているのだか分からない。
側にいると無意識に守られているが、自分一人でも大丈夫なのだと認めてもらえると、自分は〝されるだけ〟の人間ではないのだと思える。
そしてこうやって褒められる事によって喜びを得ている自分は、すっかり佑の支配下に置かれているのだと改めて実感した。
けれどその従属を嫌だとはまったく思わず、とても心地よく思っている自分がいた。
「明日、ご家族を連れて来たあと、クラウザー家に向かって軽い挨拶をしてくる。あと、帰って来たら祖父とも少し話をする」
香澄が心配そうな顔をしたからか、佑はゆるりと首を横に振った。
「喧嘩はしない。責める事もしない。それは約束する」
言って、佑は小指を差し出してきた。
すぐに〝指切り〟を示されているのだと理解し、香澄は自分の指をスルリと絡める。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った」
佑が綺麗な声で歌い、〝約束〟をする。
そして指を絡めたまま、美しいヘーゼルの瞳で見つめてくるので、ついつい状況を忘れ幸せになって「えへへ」と笑ってしまった。
「針は痛いから飲まなくていいよ」
「じゃあ、何してほしい?」
「佑さんは約束を破らないもん」
いつのまにか空気が柔らかくなり、二人はとりとめのない事を言って笑い合う。
そんな彼女の反応を、佑が見逃すはずがない。
「ううん」
何も言われていないが否定をし、香澄はやはり明後日の方向を見る。
「俺の目を見て」
香澄は頑なに目を合わさない。
「病衣の中に手突っ込むぞ」
「!?」
さすがに危機を覚えた香澄は、目を剥いて胸元を手で庇う。
今は手洗いには呼び出しボタンを押して車椅子で連れて行ってもらっているが、ベッドにいる時は基本的におむつをしている。
まさかそれを触らせる訳にいかない。
「……触ったら……ダメ」
口が裂けても「別れます」など言えないので、説得力なく「ダメ」としか言えない。
「乳首だけで達けるか、練習できるな?」
信じられない事を言われ、香澄はクワッと目を見開く。
「嫌なら言って。俺も怪我人に乱暴な事をしたくない」
動揺したが、当初の目的は〝それ〟だ。
こんな状態で変な事をされるぐらいなら、白状してしまった方がいいのかもしれない。
けれど……、と思い、香澄は佑を上目遣いに見た。
「怒らないって約束してくれる?」
「あ、それは百パーセント怒るやつの前触れだな」
すぐに納得され、香澄は頭を抱える。
そんな彼女を見て佑は苦笑し、手を伸ばしてポンポンと頭を撫でてきた。
「言ってごらん。怒らないって約束する」
「……本当?」
「ああ」
目を見つめて頷かれ、それなら……と、香澄は昨日の夕方にアドラーたちが訪れて色々会話した事を話した。
「…………」
佑はしばらく黙り込み、脚を組んで顎に手をやっている。
「……分かった」
やがて深く長い溜め息をつき、彼は頷いた。
「……怒らない?」
そろりと尋ねた香澄に、彼は苦笑いする。
「約束は反故にしないよ」
組んでいた脚を戻し、彼はもう一度息をついてリラックスした姿勢になった。
「圧があったのに、立ち向かってきちんと言えた君を、誇りに思う」
アドラーたちに怒りを示すと思っていたのに、彼がそう言ったので拍子抜けした。
ポカンとした顔をする彼女に、佑は微笑みかける。
「確かに祖父の〝やりすぎ〟が発動したのは、良くないと思っている。だが香澄がきちんと自分の意思を伝えて、常識的意見をきちんと押し通せたのは、とても良かった。援護してくれた事について、オーマにあとから感謝を言いに行きたい」
「……うん」
自分の頑張りを認めてもらえて、香澄は嬉しくなって微笑む。
「頑張ったな」
褒められて、香澄はニヤニヤする。
いつも彼に守られてばかりで、秘書としても頼りにされているのだか分からない。
側にいると無意識に守られているが、自分一人でも大丈夫なのだと認めてもらえると、自分は〝されるだけ〟の人間ではないのだと思える。
そしてこうやって褒められる事によって喜びを得ている自分は、すっかり佑の支配下に置かれているのだと改めて実感した。
けれどその従属を嫌だとはまったく思わず、とても心地よく思っている自分がいた。
「明日、ご家族を連れて来たあと、クラウザー家に向かって軽い挨拶をしてくる。あと、帰って来たら祖父とも少し話をする」
香澄が心配そうな顔をしたからか、佑はゆるりと首を横に振った。
「喧嘩はしない。責める事もしない。それは約束する」
言って、佑は小指を差し出してきた。
すぐに〝指切り〟を示されているのだと理解し、香澄は自分の指をスルリと絡める。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った」
佑が綺麗な声で歌い、〝約束〟をする。
そして指を絡めたまま、美しいヘーゼルの瞳で見つめてくるので、ついつい状況を忘れ幸せになって「えへへ」と笑ってしまった。
「針は痛いから飲まなくていいよ」
「じゃあ、何してほしい?」
「佑さんは約束を破らないもん」
いつのまにか空気が柔らかくなり、二人はとりとめのない事を言って笑い合う。
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