185 / 1,544
第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
ただいま
しおりを挟む
「うー……」
佑は香澄を可愛い、可愛いと言ってくれるが、自分で鏡を見ると特にそうは思えない。
特に自撮りをしようとインカメラにすると、「何これ!?」という感覚になるので、素のままでの自撮りは滅多にしない。
以前は自撮りそのものをほぼしていなかったが、ごく最近〝盛る〟アプリに少しだけ目覚め、加工の楽しさに気付いた。
だが佑は素のままの写真がほしいと言っているのであって……。
(罰ゲームだなぁ……)
身動きが取れないままスマホを上下させ、一生懸命一番可愛く見える角度を探す。
「こんなもんでいいか……」
やがて「ここか」というところでボタンをタップし、室内にカシャッという音がする。
(そういえば、スマホのカメラって日本のだけ盗撮防止に音が鳴るんだっけ)
不意に以前どこかで得た知識を思い出す。
それを佑に言うと、「サイレントで撮影できるカメラアプリもあるから、ほぼ意味がないけどな」と言われて、その通りだと思ったのだった。
撮れた写真を、明るさや色味だけ加工して、それを後悔しないうちにポンと佑に送った。
『佑さんの自撮りも見たい』
自分だけ恥ずかしい思いをするのは嫌だし、佑の顔を見たいのは香澄も同じだ。
そうメッセージを送ると、香澄ほど時間を掛けずにポンと彼の写真が送られてきた。
「ううう……っ」
見覚えのある白いシートに座っている佑は、どんな角度から見ても格好いい。
疲れが多少滲み出ているが、決して彼の美貌を損なわせるものではない。
『ありがとう。心の栄養にしました』
『同行人がいなかったら、おかずにしてた』
「もうっ!」
相変わらず香澄にだけセクハラ体質なところに、思わずツッコミを入れ、それからクスクス笑い出した。
「……変わってないなぁ」
だから好き、と心の中で付け足し、いつの間にか笑顔になっている自分に気付く。
(いつだって佑さんに勇気と元気をもらってるんだ)
自分に言い聞かせ、今は怪我をしているけれど、きっと彼と楽しく過ごしていればあっという間に時間が過ぎると思った。
『待ってます』
そうメッセージを打ったあと、彼には少しでも寝てもらいたいと思い、キャラクターが『おやすみなさい』を言っているスタンプを送った。
ふぅ……、と息をつき、目の前の空間を見る。
「とりあえず、待とう」
色々不安になる事はあるが、今はあえて考える事を先送りにした。
スマホで電子書籍アプリを開き、香澄は小説の続きを読み始めた。
**
佑が現れたのは翌日、香澄が夕食をとっている時だった。
「ただいま」
「佑さん!」
術後の経過もいいので、その時は柔らかく煮たショートパスタをフォークで食べていた。
彼は部屋に入ったあと、しばらく立ち尽くしたまま香澄を見ていた。
「……あの。…………おかえりなさい」
フォークを置いた香澄は、両手を広げて彼にハグを求める。
その仕草を見て初めて、ハッとした彼は近寄ってきて優しく抱きしめてくれた。
「ただいま」
匂いを嗅ぎ、体から伝わる低く艶やかな声を聞いて、側に佑がいるのだと実感できる。
「……うん……」
安心して彼の背中に手を回し、香澄はスゥ……と彼の匂いを吸い込む。
しばらくお互いが満足するまで抱擁を交わしたあと、佑がゆっくり体を離した。
「ご家族は今ホテルにいる。祖父から連絡があってホテルを手配したとの事だった。今日は夜だから、ご家族には明日お見舞いに来てもらう。いいか?」
「うん。連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言った香澄は、自分がとてもリラックスしているのに気付いた。
佑が家族を連れて来てくれた安堵感もあるし、何より彼が側にいてくれるのが嬉しい。
「あまり長居はできないけど、少し話していいか? 食べていていいから」
「うん、もうお腹いっぱいだからいいよ」
「駄目だ。遠慮しないでちゃんと食べて」
軽く睨まれ、香澄は「うう……」とうなってから、気持ち急ぎめでフォークを動かした。
やがて食べ終える頃には、佑がノンカフェインの紅茶を入れてくれていた。
二人でカップを持ち、どことなくぎこちなく微笑み合う。
「少しの間だったけど、変わりはなかったか?」
「うん」
頷いてから、アドラーたちが来た事を思い出し、香澄の視線がピタリと止まる。
佑は香澄を可愛い、可愛いと言ってくれるが、自分で鏡を見ると特にそうは思えない。
特に自撮りをしようとインカメラにすると、「何これ!?」という感覚になるので、素のままでの自撮りは滅多にしない。
以前は自撮りそのものをほぼしていなかったが、ごく最近〝盛る〟アプリに少しだけ目覚め、加工の楽しさに気付いた。
だが佑は素のままの写真がほしいと言っているのであって……。
(罰ゲームだなぁ……)
身動きが取れないままスマホを上下させ、一生懸命一番可愛く見える角度を探す。
「こんなもんでいいか……」
やがて「ここか」というところでボタンをタップし、室内にカシャッという音がする。
(そういえば、スマホのカメラって日本のだけ盗撮防止に音が鳴るんだっけ)
不意に以前どこかで得た知識を思い出す。
それを佑に言うと、「サイレントで撮影できるカメラアプリもあるから、ほぼ意味がないけどな」と言われて、その通りだと思ったのだった。
撮れた写真を、明るさや色味だけ加工して、それを後悔しないうちにポンと佑に送った。
『佑さんの自撮りも見たい』
自分だけ恥ずかしい思いをするのは嫌だし、佑の顔を見たいのは香澄も同じだ。
そうメッセージを送ると、香澄ほど時間を掛けずにポンと彼の写真が送られてきた。
「ううう……っ」
見覚えのある白いシートに座っている佑は、どんな角度から見ても格好いい。
疲れが多少滲み出ているが、決して彼の美貌を損なわせるものではない。
『ありがとう。心の栄養にしました』
『同行人がいなかったら、おかずにしてた』
「もうっ!」
相変わらず香澄にだけセクハラ体質なところに、思わずツッコミを入れ、それからクスクス笑い出した。
「……変わってないなぁ」
だから好き、と心の中で付け足し、いつの間にか笑顔になっている自分に気付く。
(いつだって佑さんに勇気と元気をもらってるんだ)
自分に言い聞かせ、今は怪我をしているけれど、きっと彼と楽しく過ごしていればあっという間に時間が過ぎると思った。
『待ってます』
そうメッセージを打ったあと、彼には少しでも寝てもらいたいと思い、キャラクターが『おやすみなさい』を言っているスタンプを送った。
ふぅ……、と息をつき、目の前の空間を見る。
「とりあえず、待とう」
色々不安になる事はあるが、今はあえて考える事を先送りにした。
スマホで電子書籍アプリを開き、香澄は小説の続きを読み始めた。
**
佑が現れたのは翌日、香澄が夕食をとっている時だった。
「ただいま」
「佑さん!」
術後の経過もいいので、その時は柔らかく煮たショートパスタをフォークで食べていた。
彼は部屋に入ったあと、しばらく立ち尽くしたまま香澄を見ていた。
「……あの。…………おかえりなさい」
フォークを置いた香澄は、両手を広げて彼にハグを求める。
その仕草を見て初めて、ハッとした彼は近寄ってきて優しく抱きしめてくれた。
「ただいま」
匂いを嗅ぎ、体から伝わる低く艶やかな声を聞いて、側に佑がいるのだと実感できる。
「……うん……」
安心して彼の背中に手を回し、香澄はスゥ……と彼の匂いを吸い込む。
しばらくお互いが満足するまで抱擁を交わしたあと、佑がゆっくり体を離した。
「ご家族は今ホテルにいる。祖父から連絡があってホテルを手配したとの事だった。今日は夜だから、ご家族には明日お見舞いに来てもらう。いいか?」
「うん。連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言った香澄は、自分がとてもリラックスしているのに気付いた。
佑が家族を連れて来てくれた安堵感もあるし、何より彼が側にいてくれるのが嬉しい。
「あまり長居はできないけど、少し話していいか? 食べていていいから」
「うん、もうお腹いっぱいだからいいよ」
「駄目だ。遠慮しないでちゃんと食べて」
軽く睨まれ、香澄は「うう……」とうなってから、気持ち急ぎめでフォークを動かした。
やがて食べ終える頃には、佑がノンカフェインの紅茶を入れてくれていた。
二人でカップを持ち、どことなくぎこちなく微笑み合う。
「少しの間だったけど、変わりはなかったか?」
「うん」
頷いてから、アドラーたちが来た事を思い出し、香澄の視線がピタリと止まる。
42
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる