183 / 1,559
第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
今日はお疲れさん
しおりを挟む
「オーパ、カスミってこういう子だよ。自分の孫やひ孫みたいに、ただ〝クラウザー家〟の力を使って守ればいいってもんじゃないんだ」
それに、クラウスも同意する。
「そうだよ。それにあんまりここで関わりすぎると、いざひ孫が生まれた時に近づかせてもらえなくなるよ。『金と権力で人を駄目にするじーさんだ』って」
「そっ、そんなこと言ってません!」
助け船はありがたいが、クラウスは言い過ぎだ。
慌てて否定した時、アドラーが溜め息混じりに笑った。
「……では、妻と孫の言葉の通り、ここは引こう」
「ありがとうございます」
香澄は心底安堵し、お礼を言う。
「他に、望みはないかね?」
まだ何か言うことを聞こうとするアドラーに、香澄は苦笑いする。
「いいえ。立派な個室に入院させて頂いて、これ以上の事はありません。これから日本から家族が来るみたいですが、落ち着いたころ皆で一度この街をおいとまします。また元気になったら、宜しくお願いします」
そう言うと、アドラーが名案を思いついたという顔で笑った。
「では、香澄さんのご家族を迎えるために、ホテルの部屋を用意しておこう」
「あっ、あああ……」
うっかり家族が来ると言ってしまったばかりに、彼にそんな事を言わせてしまったと、香澄は後悔する。
(アドラーさんがホテルを用意するっていうなら、絶対立派なホテルに決まってる……!)
恐縮するのは香澄だけでなく、庶民代表である両親と弟もだ。
立派すぎる部屋に無料で泊まっていいといわれ、あの堅実な家族が素直に「ありがとうございます」と思うはずがない。
家族に余計な気苦労をさせそうで、香澄は冷や汗を流す。
「香澄さん。宿泊場所についてはあなたが折れる番だわ。ホテルはクラウザー家でも経営しているし、余計な出費なしに都合がつくもの」
けれど節子にやんわりと言われ、それもそうだと納得した。
「分かりました。それでは、家族が滞在しているあいだ、どうぞ宜しくお願い致します」
頭を下げると、アドラーは「任せたまえ」と嬉しそうに笑った。
「さあ、あまり長居しても香澄さんが疲れてしまうわ」
節子に言われたあと、クラウザー家の人々が一言ずつ香澄に声を掛け、病室を去ってゆく。
先日のパーティーの時に会った全員が来た訳ではないが、アドラーと節子の間にいる兄弟たちは、アンネを除いて全員いる。
その上で手の空いている配偶者や、特に香澄を気に入っている他の親族などが来てくれていた。
最後に、双子が残った。
「大丈夫? カスミ」
「はい。こんなに思って頂けて、ありがたいばかりです」
「オーパは根っこの部分は、ドイツ人らしく堅実で節約が好きな人だけど、金を使うって決めた時はすっごいからね。それは覚えといた方がいいよ」
「は、はい……」
その「すっごい」が、香澄には想像もできない大金だろう事を思い、気が遠くなる。
「まぁ、俺たちも似たようなもんだけどね。アパレルやってるけど、普段の自分たちの服はTシャツにジーンズが多いし、見た目より機能や肌心地重視だ」
「そう……ですね」
言われてみれば、双子……というよりも、海外の人はシンプルな格好をする人が多いとかねてから思っていた。
「ざっくりとした価値観が、見た目をどうこうするよりも、個人の幸せに向いてると思うよ。日本人に社畜が多いのに比べて、こっちは休みをきっちり取るとか言うでしょ」
「そうですね。バカンスって日本にはないですし」
「勿論、ファッションや流行に敏感な人もいるけど、本質的には休暇を取れた時にいかに楽しく過ごすかを目的にして金を貯めている人が多いかな。あと、投資とかは半数以上が普通にやっているね」
「ほぉ……」
頷くと、クラウスが「話題がずれたね」と笑う。
「要するに、〝大切な時〟には金を使うよ、っていう事。そういう気質の人が多いし、オーパにはたんまり蓄えがある。だからもしもいつか何かしらの金を提示されても、あんまり金額にビビらないようにね」
「あ……、はい……」
ビビらないないようにね、と言われても、彼らの金銭感覚に慣れる事は一生ないだろう。
「ま、とにかく今日はお疲れさん。もうちょっとしたらタスクが来るだろうから、ゆっくり休んでな」
「はい」
「寂しかったら、僕らが毎日お見舞いに来てあげるから」
「あはは、ありがとうございます」
それに、クラウスも同意する。
「そうだよ。それにあんまりここで関わりすぎると、いざひ孫が生まれた時に近づかせてもらえなくなるよ。『金と権力で人を駄目にするじーさんだ』って」
「そっ、そんなこと言ってません!」
助け船はありがたいが、クラウスは言い過ぎだ。
慌てて否定した時、アドラーが溜め息混じりに笑った。
「……では、妻と孫の言葉の通り、ここは引こう」
「ありがとうございます」
香澄は心底安堵し、お礼を言う。
「他に、望みはないかね?」
まだ何か言うことを聞こうとするアドラーに、香澄は苦笑いする。
「いいえ。立派な個室に入院させて頂いて、これ以上の事はありません。これから日本から家族が来るみたいですが、落ち着いたころ皆で一度この街をおいとまします。また元気になったら、宜しくお願いします」
そう言うと、アドラーが名案を思いついたという顔で笑った。
「では、香澄さんのご家族を迎えるために、ホテルの部屋を用意しておこう」
「あっ、あああ……」
うっかり家族が来ると言ってしまったばかりに、彼にそんな事を言わせてしまったと、香澄は後悔する。
(アドラーさんがホテルを用意するっていうなら、絶対立派なホテルに決まってる……!)
恐縮するのは香澄だけでなく、庶民代表である両親と弟もだ。
立派すぎる部屋に無料で泊まっていいといわれ、あの堅実な家族が素直に「ありがとうございます」と思うはずがない。
家族に余計な気苦労をさせそうで、香澄は冷や汗を流す。
「香澄さん。宿泊場所についてはあなたが折れる番だわ。ホテルはクラウザー家でも経営しているし、余計な出費なしに都合がつくもの」
けれど節子にやんわりと言われ、それもそうだと納得した。
「分かりました。それでは、家族が滞在しているあいだ、どうぞ宜しくお願い致します」
頭を下げると、アドラーは「任せたまえ」と嬉しそうに笑った。
「さあ、あまり長居しても香澄さんが疲れてしまうわ」
節子に言われたあと、クラウザー家の人々が一言ずつ香澄に声を掛け、病室を去ってゆく。
先日のパーティーの時に会った全員が来た訳ではないが、アドラーと節子の間にいる兄弟たちは、アンネを除いて全員いる。
その上で手の空いている配偶者や、特に香澄を気に入っている他の親族などが来てくれていた。
最後に、双子が残った。
「大丈夫? カスミ」
「はい。こんなに思って頂けて、ありがたいばかりです」
「オーパは根っこの部分は、ドイツ人らしく堅実で節約が好きな人だけど、金を使うって決めた時はすっごいからね。それは覚えといた方がいいよ」
「は、はい……」
その「すっごい」が、香澄には想像もできない大金だろう事を思い、気が遠くなる。
「まぁ、俺たちも似たようなもんだけどね。アパレルやってるけど、普段の自分たちの服はTシャツにジーンズが多いし、見た目より機能や肌心地重視だ」
「そう……ですね」
言われてみれば、双子……というよりも、海外の人はシンプルな格好をする人が多いとかねてから思っていた。
「ざっくりとした価値観が、見た目をどうこうするよりも、個人の幸せに向いてると思うよ。日本人に社畜が多いのに比べて、こっちは休みをきっちり取るとか言うでしょ」
「そうですね。バカンスって日本にはないですし」
「勿論、ファッションや流行に敏感な人もいるけど、本質的には休暇を取れた時にいかに楽しく過ごすかを目的にして金を貯めている人が多いかな。あと、投資とかは半数以上が普通にやっているね」
「ほぉ……」
頷くと、クラウスが「話題がずれたね」と笑う。
「要するに、〝大切な時〟には金を使うよ、っていう事。そういう気質の人が多いし、オーパにはたんまり蓄えがある。だからもしもいつか何かしらの金を提示されても、あんまり金額にビビらないようにね」
「あ……、はい……」
ビビらないないようにね、と言われても、彼らの金銭感覚に慣れる事は一生ないだろう。
「ま、とにかく今日はお疲れさん。もうちょっとしたらタスクが来るだろうから、ゆっくり休んでな」
「はい」
「寂しかったら、僕らが毎日お見舞いに来てあげるから」
「あはは、ありがとうございます」
43
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる