【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
182 / 1,559
第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

佑さん、勇気をちょうだい!

しおりを挟む
『そんな、気にされないでください。午前中に節子さんにも伝えましたが、誰の身にも起こりえる事故だったんです』

 そう言うと、アドラーは青い目でジッと香澄を見つめてきた。
 しばらく、香澄が不審に思うまで見つめたあと、彼は溜め息をつく。

『本当にすまない』

 しみじみと、噛み締めるように言われ、香澄は微笑んで『いいえ』と首を横に振った。

『事故を起こした男性は、現在警察が身柄を預かっている。しかるべき罰は法がくだすだろう。だが嘆くべきは、事故を起こしたのが我が社の車だという事と、撥ねられてしまったのが私たちの大切な客人であるという事だ』

 どうやら、彼らは香澄が思っている以上に事態を重たく受け止めているようだ。

 香澄は「生きてるし、あとは骨折が治るまで少し大人しくしていればいいか。保険も適用されるだろうし、通院が少し面倒だけどなんとかなるか」と軽く考えていた。

 だが目の前にいる面々は沈痛な面持ちをしていて、ようやく香澄は「あれぇ……?」と重大な温度差に気づいた。

『クラウザー家の側でも男性に対して何らかの動きを――』
『ちょ、ちょちょちょ、待ってください!』

 あまりに不穏な事を聞かされ、香澄は必死にアドラーを制する。

『何だね?』

『そ、それって必要ですか? 運転手さんには法的な罰がくだるんでしょう? それ以外に、個人的な制裁なのは、要らなくないです? そりゃあ、入院費、治療費は必要になりますが、私、今回の渡航のために海外保険にも入りましたし。帰国したあとでも、ドイツにいる人から詫びられるとか、ちょっと遠慮したいです』

 素直な気持ちを伝えると、アドラーに「何を言っているんだ」という反応で凝視される。
 彼の反応を見て、言い過ぎたかも……とすぐ後悔したが、やり過ぎと思ったのは本当なので重ねて言葉にする。

『〝私刑〟は必要ありません。私以外にもぶつかった人がいますし、運転手さんは他の人にも賠償しなければなりません。私一人だけが特別扱いされて、必要以上に何か求める事があってはいけません』

 世界中の車愛好家が憧れ、セレブ御用達になっているクラウザー社の会長に、なんて恐れ多い事を言っているのだろうと、体の芯から冷えてくる心地に見舞われる。

 けれどここでアドラーの権力に屈してはいけないと思った。

 彼は香澄を心配して言ってくれているが、己の誇りが汚された事にも立腹している。

 だがこれはあくまで〝香澄の事故〟だ。

 アドラーは佑の祖父であり、義理の両親ではない。
 勿論クラウザー家の人々は大切にしたいが、彼らが凄い一族だからと言って、なんでも「はい、はい」といいなりになるのは違う。

 見慣れた日本人とは違って、青い目をした彼と真顔で見つめ合っていると、怖くて震えそうになる。
 それでも、香澄はここは譲れないと思った。

(佑さん、勇気をちょうだい!)

 香澄は唇を引き結び、静かに息を吸う。

『クラウザー家の皆さんと絆が生まれたのを、とても光栄に思っています。ですが私は佑さんと結婚をし、御劔の名字を名乗ります。皆さんにはとてもよくして頂いていますが、自分が属するところをはき違えてはいけないと思っています』

 その時、節子が前に進み出てアドラーの袖を引いた。

『あなた、さっきから日本語になっていないのに気づいている? あなたは母国語で香澄さんを支配しようとしているわ』

 言われて初めて、アドラーは歓迎パーティーでは皆で日本語を話していたのに、今日は最初からドイツ語で話していたと気づいたようだった。
 彼はすぐに言語を日本語に切り替える。

「……香澄さん、威圧感を与えたのなら窮屈な思いをさせた。私も頭の中が悪い感情で一杯になっていて、そこまで気を回す事ができなかった」

「いいえ、逆にお気遣いありがとうございます」

 日本語で話せて安堵を覚え、香澄は微笑む。
 そして助け船を出してくれた節子に黙礼すると、彼女もにっこり笑って会釈をしてくれた。

「あなた、先ほどから聞いていたら、あなたの言っている事は金持ちの傲慢そのものよ。佑が選んだ香澄さんは、とても心根の優しい女性よ? 必要以上の復讐を望んでいると思う? それは、彼女と彼女を選んだ佑への侮辱になるわ」

 愛する妻に厳しく言われ、アドラーは溜め息をつく。

「お願いだから公私混同しないで。あなたが腹立たしく思うのと、香澄さんの事故とは繋がりがないわ。私たちができるのは、入院している彼女がドイツにいる間、少しでも心地よく過ごせるために協力する事。それ以上の事は必要ないわ」

 節子に言われ、アドラーは不承不承という様子で頷く。

「……では、クラウザー社の方から事故を起こした詫びとして香澄さんに賠償金を……」
「ひっ、必要ありません!」

 なぜそうなる!? と、香澄は心の中で突っ込みを入れ、首を左右に振る。

「お金は要りません。先ほども言いましたように、保険会社から支払われるもので十分です」

 拒絶した香澄を見て、アロイスが笑った。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...