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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
運命の車輪
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純和風の店内に入ると、なぜかここが日本に思えるので不思議だ。
「今日は貸し切りにしてくれて、ありがとうございます」
節子が店主の渡に挨拶をしている間、佑と香澄、双子は席についていた。
勿論、上座は節子のために空けてある。
店の中からもガラス越しに坪庭が眺められるようになっていて、相当金が掛かっているだろう事が察せられた。
「素敵なお店だね。日本にあっても素敵だと思うのに、ドイツにあるんだから沢山写真とか撮られてそう」
「そうだな」
湯飲みにお茶と、おしぼりが出るのも日本式のおもてなしだ。
海外で飲食をする時、水やおしぼりが出ることはまずない。
日本式のサービスをしている場合は別だが、基本水は有料だ。
こちらに来て数日佑と外食をしたが、そこは大きな違いだなと感じていた。
おまけにありがたい事に、節子が言っていたように紙エプロンまで出してくれた。
「どうぞ、ごゆっくり」
女性はそう言って微笑み、大将と立ち話をしていた節子も着席する。
「注文はもうしてあるのだけれど、もし別途食べたいものがあったら遠慮なく言ってね」
女将が差し出してきたメニューを広げ、節子が微笑む。
「ここは俺が持つから、香澄は好きな物を食べて」
佑がいつも通りに振る舞うが、それを節子が阻止する。
「あら、孫が婚約者を連れてきたんだから、私に格好をつけさせて?」
「……オーマがそう言うなら、顔を立てますが……」
やはり節子が相手だと、佑も強くは言えないらしい。
その後、先付けから始まる上品な会席料理が出された。
順番に汁物、お作り、焼き物、煮物……と出てくるのはそのままなのだが、面白い事に食材はドイツの物でアレンジした物もある。
料理が出されるたびに女性が何の食材かを説明してくれ、香澄はいたく感心しながら舌鼓を打った。
「あぁ……! 美味しかったぁ。最後の冷たいお汁粉は、甘すぎずくどすぎず絶品だったなぁ」
着物も汚さなかったし、香澄はミッションを終えて安堵しきっていた。
店から出て幸せいっぱいに言った香澄に、節子が微笑む。
「お口に合って何よりだわ」
「あっ……」
まさか、大きめの独り言が節子に聞こえていたと思わず、香澄は「着物を着ているのにはしたない」と赤面する。
「この後はどうするの?」
またゾロゾロと護衛を伴って車がある道まで戻っている途中、節子が尋ねてくる。
香澄は一刻も早くこの高価な着物を脱ぎたい気持ちで一杯だが、その手を佑が引いた。
「少し着物姿でデートしないか? そう長くは歩かないから」
「い、いいけど……」
皆の前でデートと言われ、香澄はポッと頬を赤らめる。
「じゃあ私は先においとまするわ」
節子はにこやかに言うと、護衛と共に道路を歩いていった。
「じゃあ、行こうか香澄」
「はい」
差し伸べられた大きな手に、香澄は面映ゆく思いながら手を重ねる。
着慣れない着物で緊張はしているが、やはりおめかしをしたので佑に褒めてもらったり、「せっかくだからデートしよう」と気遣ってもらえると嬉しい。
そのまま、二人は節子と反対側の道を進む。
後ろから双子ももれなくついてきた。
「俺たちもお供するよ」
「着物姿のカスミが僕らの街を歩くっていうなら、すっごい絵になりそうじゃない? 写真撮ろっと」
相変わらずな反応に、佑は長く重たい溜め息をついている。
節子たちと別れ、ついてきている護衛は二人だ。
香澄を中心に佑と双子が両脇を固めて歩いていたが、中心部に向かうにつれ人通りが多くなってゆく。
ブルーメンブラットヴィルは人口九十八万人ほどで、ドイツ国内でも五番目の大都市だ。
特にこれといった珍しい物があるでもないのだが、ヨーロッパの都市特有の美しい大聖堂や何百年も前の建物がそのまま残っている。
ゴシックリバイブルに伴って建築された大聖堂も、かつてクラウザー家の先祖が大公として領地を治めた城も、世界各国の美術品を集めたミッテ美術館なども観光地となっていた。
「佑さん! あの建物綺麗!」
横断歩道を渡りながら、香澄は前方にある壮麗な建物を指さし、テテッと小走りに前に進んだ。
その時、つんざくような人々の悲鳴が上がる。
「今日は貸し切りにしてくれて、ありがとうございます」
節子が店主の渡に挨拶をしている間、佑と香澄、双子は席についていた。
勿論、上座は節子のために空けてある。
店の中からもガラス越しに坪庭が眺められるようになっていて、相当金が掛かっているだろう事が察せられた。
「素敵なお店だね。日本にあっても素敵だと思うのに、ドイツにあるんだから沢山写真とか撮られてそう」
「そうだな」
湯飲みにお茶と、おしぼりが出るのも日本式のおもてなしだ。
海外で飲食をする時、水やおしぼりが出ることはまずない。
日本式のサービスをしている場合は別だが、基本水は有料だ。
こちらに来て数日佑と外食をしたが、そこは大きな違いだなと感じていた。
おまけにありがたい事に、節子が言っていたように紙エプロンまで出してくれた。
「どうぞ、ごゆっくり」
女性はそう言って微笑み、大将と立ち話をしていた節子も着席する。
「注文はもうしてあるのだけれど、もし別途食べたいものがあったら遠慮なく言ってね」
女将が差し出してきたメニューを広げ、節子が微笑む。
「ここは俺が持つから、香澄は好きな物を食べて」
佑がいつも通りに振る舞うが、それを節子が阻止する。
「あら、孫が婚約者を連れてきたんだから、私に格好をつけさせて?」
「……オーマがそう言うなら、顔を立てますが……」
やはり節子が相手だと、佑も強くは言えないらしい。
その後、先付けから始まる上品な会席料理が出された。
順番に汁物、お作り、焼き物、煮物……と出てくるのはそのままなのだが、面白い事に食材はドイツの物でアレンジした物もある。
料理が出されるたびに女性が何の食材かを説明してくれ、香澄はいたく感心しながら舌鼓を打った。
「あぁ……! 美味しかったぁ。最後の冷たいお汁粉は、甘すぎずくどすぎず絶品だったなぁ」
着物も汚さなかったし、香澄はミッションを終えて安堵しきっていた。
店から出て幸せいっぱいに言った香澄に、節子が微笑む。
「お口に合って何よりだわ」
「あっ……」
まさか、大きめの独り言が節子に聞こえていたと思わず、香澄は「着物を着ているのにはしたない」と赤面する。
「この後はどうするの?」
またゾロゾロと護衛を伴って車がある道まで戻っている途中、節子が尋ねてくる。
香澄は一刻も早くこの高価な着物を脱ぎたい気持ちで一杯だが、その手を佑が引いた。
「少し着物姿でデートしないか? そう長くは歩かないから」
「い、いいけど……」
皆の前でデートと言われ、香澄はポッと頬を赤らめる。
「じゃあ私は先においとまするわ」
節子はにこやかに言うと、護衛と共に道路を歩いていった。
「じゃあ、行こうか香澄」
「はい」
差し伸べられた大きな手に、香澄は面映ゆく思いながら手を重ねる。
着慣れない着物で緊張はしているが、やはりおめかしをしたので佑に褒めてもらったり、「せっかくだからデートしよう」と気遣ってもらえると嬉しい。
そのまま、二人は節子と反対側の道を進む。
後ろから双子ももれなくついてきた。
「俺たちもお供するよ」
「着物姿のカスミが僕らの街を歩くっていうなら、すっごい絵になりそうじゃない? 写真撮ろっと」
相変わらずな反応に、佑は長く重たい溜め息をついている。
節子たちと別れ、ついてきている護衛は二人だ。
香澄を中心に佑と双子が両脇を固めて歩いていたが、中心部に向かうにつれ人通りが多くなってゆく。
ブルーメンブラットヴィルは人口九十八万人ほどで、ドイツ国内でも五番目の大都市だ。
特にこれといった珍しい物があるでもないのだが、ヨーロッパの都市特有の美しい大聖堂や何百年も前の建物がそのまま残っている。
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「佑さん! あの建物綺麗!」
横断歩道を渡りながら、香澄は前方にある壮麗な建物を指さし、テテッと小走りに前に進んだ。
その時、つんざくような人々の悲鳴が上がる。
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