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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

後出しじゃんけん

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「これで中出しされていたら、溢れてくるのかな……」など少々お下品なことも考えてしまう。

 少なくとも近い将来、避妊具を必要としなくなる現実は迫っているのだ。

 佑が言うには、「いつ子供ができてもいい」らしい。
 だが香澄は結婚して色々落ち着き、「そろそろ子供を作りましょうか」という頃合いでなければ、何となく怖いような気がしていた。

 まだそこまで覚悟ができていない、とも言える。

 佑との子供はほしいし、なるべく早い方がいいのも分かっている。
 けれど色んな事が急すぎて、少しずつ自分が納得できるようになってから、取り組んでいった方がいいと、自分の気質を理解しているからこそ思う。

 いわば、石橋を叩いて渡るタイプというか。

 佑がお金持ちで、周囲も認めてくれていて、出産する環境も整っている。
 だから「生で遠慮なくしよう」と言われても、感覚的にそうはいかない。

 勿論、その方が彼は気持ちいいだろうから、望むようにしてあげたいなとは思う。

(ピル……とか飲む事を考えるの、検討した方がいいのかな)

「シャワー、一緒に入る?」

 窓の外を見て思考に没頭していると、佑の声がして現実に引き戻された。

「あ、は、はい。や、うん。いい……けど」

 佑は海外の鍛えたモデルに勝るとも劣らない体を晒し、伸びをしている。

(……筋肉バキバキだなぁ。美術でデッサンとかする人、佑さんの裸描きたいって思うかも)

 ぼんやりとそんなことを考え、「駄目、絶対」と一人呟く。

「節子さんが連れて行ってくださるっていうレストラン、どんなお店?」
「星がついてるけど普通の日本料理店だよ」

(普通じゃない!)

 反射的に心の中で絶叫し、まだ街が起きる前の時間だというのに緊張してきた。

「え、ど、ど……。服装とかどうしよう? 持ってきたワンピースで大丈夫かな?」

 あわあわと手持ちのラインナップを思い返す。

 佑が目利きしてくれた洋服なので、多分どれでも大丈夫……なような気がする。
 泣く子も黙るハイブランドのワンピースもあるし、佑が「試作品だ」と言ってヒョイッと持ってきた質のいい上品な物もある。

「く、靴とか小物とか、何を合わせたらいいか指示してくれる?」
「あぁ、いい……けど」

 そこでふと何か思いついたのか、佑はスマホを手に取って誰かにコールした。
 少しして、日本語で気軽な様子で話したのは――。

「もしもし、オーマ? おはよう。今日のランチだけど香澄の服は……、あぁ。ん? そうか? ……へぇ。ふぅん……、なるほど」

 相槌を打って佑はチラッと香澄を見て、「変わってないと思う」と返事をする。
 なんとなく嫌な予感がして、香澄は両腕で自身を抱いた。

「じゃあ、後で」

 電話を切り、佑はスマホをベッドの上にポンと投げた。

「オーマが着物を用意してるって」
「ふぇえっ!?」

「とんでもない!」と、香澄は悲鳴を上げた。

「こっちに来る前に、電話で香澄の体型を聞かれたんだ。以前に体のサイズを測っただろ? その資料をよこしたら、日本に発注していたらしくて色々揃えたみたいだ。こないだの訪日の時に京都も行ったらしいから、その時に着物を受け取ったんじゃないかな?」

「き、着物なんて成人式以来着てないよ! そんでもって絶対汚す! 無理!」
「大丈夫、大丈夫。さ、シャワー入ろう。朝食はコールしておくから」
「ちょ……佑さ……」

 香澄の意見はサラッと流され、バスルームに押し込まれる。
 途端にタップパンツを引きずり下ろされ、「ひぇっ」と色気のない悲鳴が漏れた。

「日本で婚約発表する時、竹本関係の人も呼んでの、ちょっとしたパーティーになると思う」
「えええっ!? 御劔家の方々……は聞いてたけど、あ……っ、後出しじゃんけんじゃない?」

「大丈夫だよ。日本人だし言葉は通じるだろ。竹本の創業者一族って言っても、オーマの親族だし、皆人格ができてる。……と思う。全員までは把握してないけど。というか、香澄に失礼をする人がいるなら、オーマが許さないだろう。勿論、俺も一言きちんと言う」
「……あぁ、もう……」

 香澄は頭を抱えてしゃがみこむ。お尻を出しっぱなしだが、もうそんなことに構っていられる状態ではなかった。

 だというのに佑は残ったキャミソールも、上からヒョイと摘まんで脱がせてくる。

 彼はバスタブにお湯を張り始め、洗面台の上にズラリと並べているボディソープやボディクリームを見た。
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