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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

ブルーメンブラットヴィル観光

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「先祖がフランスの城を意識して作ったらしい。ブルーメンブラットヴィルは街中に湖があって、城はその中島に建てられた。昔は攻め入られないようにとか、色々考えたんだろうな」
「すっごいなぁ……。あそこに皆さん住んでるの?」

 香澄は心底感心し、スマホで写真を撮る。

「一部は観光用に綺麗に整えて公開してる。ホテルやレストランもあるし、しっかり収入源にしてるよ」
「あはは! 現代的!」

「何せあれだけ広いから、住居だけにするって言っても広すぎるんだ。昔からある絵画とかを保管している部屋とか、宝物庫的な所、住居以外に使っている所は多くあっても、結局余る。全体の維持費だけでも相当かかるし、昔から『ブルーメンブラットヴィルの白鳥』と呼ばれる美しい城だけあって、それを下手に管理する訳にもいかない。最終的に半分は観光資源にするっていう形で、祖父の前の代から経営してる」
「ほう……。レストランとかホテルとか、綺麗そうだね」

 何気なく口にした言葉だったけれど、佑がハッとする。

「もしかして、城に泊まりたかったか?」
「う! ううん!? いやいや、興味はあるけど、立派なホテルに泊まらせてもらってるし」

「そうか? ……なら良かった。城に泊まる事も考えなかった訳じゃないけど、同じ屋根の下にいれば祖父たちを気にして、ゆっくり寛げないんじゃって思ったんだ」
「お気遣いありがとう」

 そのあと、ゆっくり歩いて他も見る。

 昔は領主のお膝元という事で、そこで結婚式が行われたという、ステンドグラスの美しい大聖堂があった。
 アドラーの祖先となる領主の銅像に、この地方で伝えられている寓話の像などもある。
 ぐるっと湖沿いを歩いた向こう側には、人魚の像もあった。

「随分メルヘンな感じだね。こういうの好き。可愛い」

 香澄はパシャパシャと写真を撮り、「あれ?」と何かを思い出す。

「ローレライの岩だっけ? なんかなかった?」
「ああ、ライン川クルーズの途中で見られるよ。というか、あれは個人的な感想だと岩というより崖だけど」
「崖!」

 佑の表現に、香澄はケラケラ笑う。

「もしかしたら、人魚が岩の上に乗って歌を歌ってる……みたいなのを想像してるかもしれないけど、崖なんだ。川の途中で川幅が狭まった所があって、流れや岩が飛び出ているとかで、昔は舟がよく沈んだらしく、だからそこにローレライがいるっていう事になったんだ」
「なるほど」

「挨拶が終わって残り時間、ノイシュバンシュタイン城とか、あちこち観光になったらライン川クルーズも予定に入れてるよ」
「嬉しい! 楽しみにしてるね」

 ランチは街中の雰囲気のいい店で、肉料理を食べた。

 そして五月から六月はアスパラの季節なので、ホワイトアスパラをポシェ(低温沸騰で茹でる調理法)したシュパーゲルという料理も食べた。
 道産子香澄はもれなくアスパラが大好きで、うまいうまいと言って食べる様子を、佑は目を細めて見守っていた。



**



 そして翌日の夜、少しよそ行きのくすみピンクのワンピースを着た香澄は、佑と一緒に昨日遠くから見た城に向かった。

 徒歩で行ける距離なのに、ホテルまで運転手がクラウザー社の車で迎えに来てくれた。
 緊張して高級車に乗り、ものの数分でライトアップされた美しい城に着く。
 車が着いたのは正面玄関ではなく、裏手側の住居スペースの玄関だ。

「運転手がドアを開けるから、待ってて」
「うん」

 ドキドキしていると、ドアが開き、香澄はドイツ語で『ありがとうございます』と礼を言って下りる。

「やっほー! よく来たね!」
「ようこそ! 僕らの街へ!」

 陽気な声が聞こえたかと思うと、玄関にはイタリア風のおしゃれなスーツ姿の双子が立っていた。

「カスミ、飛行機疲れなかった?」
「はい。佑さんのスペシャルな飛行機で、いい思いをして移動したので全然です!」

 アロイスに向かってにっこり笑うと、「良かったね」とポンポン頭を撫でられる。

「皆、待ってるよ。パーティーの準備はできてるから、お楽しみあれ!」

 クラウスが歌うように言い、玄関のドアを開けた。
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