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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

ホテル

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 ホテルの中はさすがヨーロッパという感じで、内装が貴族の城を思わせる。

 日本でもホテルではシャンデリアが下がっているが、こちらのはよりアンティークで雰囲気がある。
 ロビーの中央には、立派なフラワーアレンジメントによって彩られた噴水がある。
 柱や壁側は間接照明に照らされていて、床に反射する温かい色味の明かりが雰囲気を加えている。

 上品な革張りのソファに腰掛けた宿泊客は身なりが良く、どの人もエグゼクティブな人種に見えた。

『カイ、いらっしゃい』

 ロビーに入って迎えてくれたのは、アンネより年下の男性だ。
 上質なスーツに身を包み、顔立ちはアドラーによく似ている。

「香澄、こちらはクルト叔父さん」

 佑が紹介してくれ、彼が話しかけてきた時は英語だったので、香澄は英語で挨拶をする。

『初めまして。赤松香澄と申します』

 立派な口ひげのあるクルトはにっこり笑い、握手と軽いハグをしてくれた。

『私はクルトだ。積もる話もあるが、まず長時間のフライトで疲れただろうから部屋でゆっくり休んでくれ。佑の連れの部屋もきちんと用意してある』
『ありがとう』

 そのあと、ホテルの四階にあるスイートルームに案内された。
 ブルーメンブラットヴィルは大きめの都市ではあるが、高層ビルが多く建ち並ぶ場所はもう少しずれた所にある。
 このホテルは昔からの雰囲気を大切にした建物で、周囲の建物も似た感じだ。

「昔からある建物を改装して、今はちょっとセレブ御用達みたいな感じになっているかな。クラウザー社の子会社が経営しているから、それなりのブランド力があるし、なにせ祖父のお膝元だ。だからなのか、近くのミュンヘンに用事があるのに、わざわざここに宿を取る人もいるらしい」
「ふぅん」

 考えてみても、高級外車の代名詞であるクラウザー社が、あれこれ事業を手広くやっていると思うだけで、皆が喜んで飛びつくだろうと思う。
 あの王冠マークのエンブレムが、あちこちについているのなら、それはブランド力があるだろう。

 加えてクラウザー社の車はただ高級というだけでなく、頑丈さ、内装の充実具合でも定評があるらしい。
 有名な海外高級車には、スポーツカーとして名を馳せているものもあるが、クラウザー社の車は作りたいもののコンセプトが一貫している。

 安心、安全、頑丈。

 そして佑いわく、それらはアドラーが節子と結婚してからより顕著になったようだ。
 彼女の実家が日本車と言えばタケモト、の会社である事も大きいが、節子自身が「車は速いよりも安心安全に乗りたいわね」と夫に言ったのが決定だとなったらしい。





「立派なお部屋」

 エレベーターで四階まで上がると、部屋数は驚くほど少なく、フロアの面積を広く使っているのが分かった。

 ロビーなどの内装からも分かる通り、カーテンなどはドレープを効かせていてとてもエレガントだ。
 室内の壁はアイボリーで、名のある画家が描いた雰囲気のある絵画があちこちに飾られてある。
 天井から下がっているシャンデリアは、クリスタルガラスによりキラキラと輝き、要所にある照明も同色の暖かな色を発している。
 木製の床の上には毛足が長く精緻な柄が刻まれた絨毯が敷かれ、続き部屋に見えるキングサイズのベッドの壁際には、カーテンがついていた。

「すっごぉ……」

 香澄は室内をうろうろし、スマホのカメラに収めている。

「ねぇ、佑さん。麻衣とか家族に写真を見せてもいい?」
「どうぞ」

 佑はクスクス笑い、ウェルカムフルーツの葡萄を一粒もいで口に放っていた。
 荷物はスタッフが運んでくれ、部屋の説明をしたあとに退出し、二人きりになる。

「あぁ……、疲れた。……かも」

 ゆっくり横になって寝ていたはずなのに、やはりずっと空の上だったからか疲れが押し寄せる。
 何より時差ぼけがつらい。

「親戚に会うのは明後日ぐらいに調整してるから、まずはゆっくり休んで体調を整えて」
「うん。そうする」

「お風呂のお湯は貯めておくよう言っておいたから、一緒に入ろうか」
「んっ?」

 一緒にと言われ、香澄はじんわり赤面して思わず彼を見る。
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