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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編

第五部・序章

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 そしてあっという間に六月になり、香澄は佑のプライベートジェットに乗り、空路にてドイツに向かった。

 家の事は円山に任せ、斎藤や島谷も定期的に来て仕事をするそうだ。

 ベッドまで完備された飛行機でゆったりと過ごし、最新の映画も見てミュンヘン空港までの旅を楽しんだ。

 勿論、護衛や運転手なども一緒なので、ベッドでのいちゃつきはなしだ。
 しかし佑はする気満々だったらしく、「しないよ」と言ったら静かに落ち込んでいた。
 が、心を鬼にして無視をする。





「うわぁ……! 空が広い!」

 飛行機から外に出ると、どこまでも続く空に歓声を上げる。
 現地時間は夕方近くで、空はラベンダー色になり、東側はもう暗くなっていた。
 入国手続きを済ませている間、クラウザー社の車が続々と着き、車停めに三台ほどの列ができる。

『宜しく』

 小金井は国際免許を持っているが、まず空港から宿泊予定地までは現地のドライバーに任せるようだ。
 佑はドイツ語で彼らに挨拶をし、香澄も微笑んで握手をする。

 その後、ゆったりとした幅の高級車に乗り込み、ミュンヘン空港から近くにあるアドラーの街、ブルーメンブラットヴィルに向かった。

 本来なら国際線だとフランクフルト空港に向かうものだが、それを変更できるのもプライベートジェットの強みだ。

「疲れてないか?」
「うん。飛行機の中で一杯寝たから大丈夫」

 香澄は窓に貼り付き、おもちゃのように思える色合いの、可愛らしい街並みに夢中だ。

 新千歳空港の周りも畑が多いが、いつも空港を使う時は電車でサーッと過ぎてしまう。

 だからなのか、車で農地を通るとより空と大地が広く感じ、ついつい感動する。
 空港の近くだからか分からないが、高い建物がなくて一面広々としている。
 何もないからなのか余計に感動し、香澄は飽きる事なく窓の外を見ていた。





 ブルーメンブラットヴィルに着いたのは、それから三十分後ほどだ。

「中心に城があって、同心円状に街が広がっている。中心部にクラウザー家があって城も含め観光地化しているけど、本人たちはもう慣れっこだ」
「ふぅん」

 城に住んでいるというのも、日本だと考えにくい。

 けれどテレビ番組でヨーロッパ貴族と城を扱った番組は時々放送しているし、彼らが城の維持のために如何に資金繰りをしているかなど、リアルな事情などもある。
 香澄が考える以上に、きっとこちらの人にとって城や荘厳な教会などは生活に密接しているのだろう。

(ていうか、京都みたいな感覚なのかな?)

 神社仏閣、歴史的に価値のありそうな町屋など、海外の人から見ればすべて「アメージング!」だろう。
 それを思うと、お互い様なのかもしれない。

 ブルーメンブラットヴィルは大きな街で、民家が見え始めたと思ってから都市の中心部に来るまで、割とかかった。
 けれど東京ほどの大都市でもないので、込み入った道路をあれこれ進んで、何とか中心部……というほどでもない。

 気が付けば目に馴染んだファストフードの店の看板やコンビニの色合いを目にし、世界的に有名な企業の大きさを感じる。
 香澄がよく行くコーヒーチェーンのサンアドバンスの看板も、ヨーロッパの古めかしい街並みの中にあると、とてもお洒落に見える。

「サンアド、めっちゃ雰囲気ある」

 呟くと、佑が楽しそうな声で言ってきた。

「こっちのサンアド、中に入ったらきっと気に入ると思うよ。昔のサロンを改装したもので、天井にはフレスコ画……とか、シャンデリア、壁は鏡張りで香澄なら『貴族の家?』って言いそうな雰囲気だと思う」
「そうなの!? 行きたい~!」

「そう言うと思った。落ち着いたら一緒に散策しようか」
「うん!」

 やがて車は中心部にあるホテルに着いた。

「ここは叔父が経営してるホテルだ。母は七人兄弟で、女性は妹が一人。あとは男兄弟だ。長男は祖父の跡を継ぐためにクラウザー社の責任ある地位にいて、他の兄弟も似たり寄ったり。車関係に勤めていなくても、クラウザー社の子会社である観光産業や飲食関係のトップを務めている」
「すご……」
「その中の一つだから、今回は厚意で長期滞在の部屋を用意してもらえたんだ」

 最後に彼は悪戯っぽく笑い、パチンとウインクをする。
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