154 / 1,549
第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
第五部・序章
しおりを挟む
そしてあっという間に六月になり、香澄は佑のプライベートジェットに乗り、空路にてドイツに向かった。
家の事は円山に任せ、斎藤や島谷も定期的に来て仕事をするそうだ。
ベッドまで完備された飛行機でゆったりと過ごし、最新の映画も見てミュンヘン空港までの旅を楽しんだ。
勿論、護衛や運転手なども一緒なので、ベッドでのいちゃつきはなしだ。
しかし佑はする気満々だったらしく、「しないよ」と言ったら静かに落ち込んでいた。
が、心を鬼にして無視をする。
「うわぁ……! 空が広い!」
飛行機から外に出ると、どこまでも続く空に歓声を上げる。
現地時間は夕方近くで、空はラベンダー色になり、東側はもう暗くなっていた。
入国手続きを済ませている間、クラウザー社の車が続々と着き、車停めに三台ほどの列ができる。
『宜しく』
小金井は国際免許を持っているが、まず空港から宿泊予定地までは現地のドライバーに任せるようだ。
佑はドイツ語で彼らに挨拶をし、香澄も微笑んで握手をする。
その後、ゆったりとした幅の高級車に乗り込み、ミュンヘン空港から近くにあるアドラーの街、ブルーメンブラットヴィルに向かった。
本来なら国際線だとフランクフルト空港に向かうものだが、それを変更できるのもプライベートジェットの強みだ。
「疲れてないか?」
「うん。飛行機の中で一杯寝たから大丈夫」
香澄は窓に貼り付き、おもちゃのように思える色合いの、可愛らしい街並みに夢中だ。
新千歳空港の周りも畑が多いが、いつも空港を使う時は電車でサーッと過ぎてしまう。
だからなのか、車で農地を通るとより空と大地が広く感じ、ついつい感動する。
空港の近くだからか分からないが、高い建物がなくて一面広々としている。
何もないからなのか余計に感動し、香澄は飽きる事なく窓の外を見ていた。
ブルーメンブラットヴィルに着いたのは、それから三十分後ほどだ。
「中心に城があって、同心円状に街が広がっている。中心部にクラウザー家があって城も含め観光地化しているけど、本人たちはもう慣れっこだ」
「ふぅん」
城に住んでいるというのも、日本だと考えにくい。
けれどテレビ番組でヨーロッパ貴族と城を扱った番組は時々放送しているし、彼らが城の維持のために如何に資金繰りをしているかなど、リアルな事情などもある。
香澄が考える以上に、きっとこちらの人にとって城や荘厳な教会などは生活に密接しているのだろう。
(ていうか、京都みたいな感覚なのかな?)
神社仏閣、歴史的に価値のありそうな町屋など、海外の人から見ればすべて「アメージング!」だろう。
それを思うと、お互い様なのかもしれない。
ブルーメンブラットヴィルは大きな街で、民家が見え始めたと思ってから都市の中心部に来るまで、割とかかった。
けれど東京ほどの大都市でもないので、込み入った道路をあれこれ進んで、何とか中心部……というほどでもない。
気が付けば目に馴染んだファストフードの店の看板やコンビニの色合いを目にし、世界的に有名な企業の大きさを感じる。
香澄がよく行くコーヒーチェーンのサンアドバンスの看板も、ヨーロッパの古めかしい街並みの中にあると、とてもお洒落に見える。
「サンアド、めっちゃ雰囲気ある」
呟くと、佑が楽しそうな声で言ってきた。
「こっちのサンアド、中に入ったらきっと気に入ると思うよ。昔のサロンを改装したもので、天井にはフレスコ画……とか、シャンデリア、壁は鏡張りで香澄なら『貴族の家?』って言いそうな雰囲気だと思う」
「そうなの!? 行きたい~!」
「そう言うと思った。落ち着いたら一緒に散策しようか」
「うん!」
やがて車は中心部にあるホテルに着いた。
「ここは叔父が経営してるホテルだ。母は七人兄弟で、女性は妹が一人。あとは男兄弟だ。長男は祖父の跡を継ぐためにクラウザー社の責任ある地位にいて、他の兄弟も似たり寄ったり。車関係に勤めていなくても、クラウザー社の子会社である観光産業や飲食関係のトップを務めている」
「すご……」
「その中の一つだから、今回は厚意で長期滞在の部屋を用意してもらえたんだ」
最後に彼は悪戯っぽく笑い、パチンとウインクをする。
家の事は円山に任せ、斎藤や島谷も定期的に来て仕事をするそうだ。
ベッドまで完備された飛行機でゆったりと過ごし、最新の映画も見てミュンヘン空港までの旅を楽しんだ。
勿論、護衛や運転手なども一緒なので、ベッドでのいちゃつきはなしだ。
しかし佑はする気満々だったらしく、「しないよ」と言ったら静かに落ち込んでいた。
が、心を鬼にして無視をする。
「うわぁ……! 空が広い!」
飛行機から外に出ると、どこまでも続く空に歓声を上げる。
現地時間は夕方近くで、空はラベンダー色になり、東側はもう暗くなっていた。
入国手続きを済ませている間、クラウザー社の車が続々と着き、車停めに三台ほどの列ができる。
『宜しく』
小金井は国際免許を持っているが、まず空港から宿泊予定地までは現地のドライバーに任せるようだ。
佑はドイツ語で彼らに挨拶をし、香澄も微笑んで握手をする。
その後、ゆったりとした幅の高級車に乗り込み、ミュンヘン空港から近くにあるアドラーの街、ブルーメンブラットヴィルに向かった。
本来なら国際線だとフランクフルト空港に向かうものだが、それを変更できるのもプライベートジェットの強みだ。
「疲れてないか?」
「うん。飛行機の中で一杯寝たから大丈夫」
香澄は窓に貼り付き、おもちゃのように思える色合いの、可愛らしい街並みに夢中だ。
新千歳空港の周りも畑が多いが、いつも空港を使う時は電車でサーッと過ぎてしまう。
だからなのか、車で農地を通るとより空と大地が広く感じ、ついつい感動する。
空港の近くだからか分からないが、高い建物がなくて一面広々としている。
何もないからなのか余計に感動し、香澄は飽きる事なく窓の外を見ていた。
ブルーメンブラットヴィルに着いたのは、それから三十分後ほどだ。
「中心に城があって、同心円状に街が広がっている。中心部にクラウザー家があって城も含め観光地化しているけど、本人たちはもう慣れっこだ」
「ふぅん」
城に住んでいるというのも、日本だと考えにくい。
けれどテレビ番組でヨーロッパ貴族と城を扱った番組は時々放送しているし、彼らが城の維持のために如何に資金繰りをしているかなど、リアルな事情などもある。
香澄が考える以上に、きっとこちらの人にとって城や荘厳な教会などは生活に密接しているのだろう。
(ていうか、京都みたいな感覚なのかな?)
神社仏閣、歴史的に価値のありそうな町屋など、海外の人から見ればすべて「アメージング!」だろう。
それを思うと、お互い様なのかもしれない。
ブルーメンブラットヴィルは大きな街で、民家が見え始めたと思ってから都市の中心部に来るまで、割とかかった。
けれど東京ほどの大都市でもないので、込み入った道路をあれこれ進んで、何とか中心部……というほどでもない。
気が付けば目に馴染んだファストフードの店の看板やコンビニの色合いを目にし、世界的に有名な企業の大きさを感じる。
香澄がよく行くコーヒーチェーンのサンアドバンスの看板も、ヨーロッパの古めかしい街並みの中にあると、とてもお洒落に見える。
「サンアド、めっちゃ雰囲気ある」
呟くと、佑が楽しそうな声で言ってきた。
「こっちのサンアド、中に入ったらきっと気に入ると思うよ。昔のサロンを改装したもので、天井にはフレスコ画……とか、シャンデリア、壁は鏡張りで香澄なら『貴族の家?』って言いそうな雰囲気だと思う」
「そうなの!? 行きたい~!」
「そう言うと思った。落ち着いたら一緒に散策しようか」
「うん!」
やがて車は中心部にあるホテルに着いた。
「ここは叔父が経営してるホテルだ。母は七人兄弟で、女性は妹が一人。あとは男兄弟だ。長男は祖父の跡を継ぐためにクラウザー社の責任ある地位にいて、他の兄弟も似たり寄ったり。車関係に勤めていなくても、クラウザー社の子会社である観光産業や飲食関係のトップを務めている」
「すご……」
「その中の一つだから、今回は厚意で長期滞在の部屋を用意してもらえたんだ」
最後に彼は悪戯っぽく笑い、パチンとウインクをする。
43
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる