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第四部・婚約 編

一番の親友

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「俺は愛した女性を今後一生かけて、大切にしていくと誓います」

 穏やかな表情で、佑が麻衣に向けて誓いの言葉を口にする。
「愛した女性」と言われ、香澄は赤面する。
 けれど麻衣が茶化さずにまじめに佑の言葉を聞いているので、彼女も大人しく二人のやり取りを見守る。

「確かに私は御劔さんの事を個人として知りません。香澄が東京に行く前にも話を聞きましたが、『そっくりさんに騙されたんじゃないかな? この子』とも、ちょっと思ってしまいました」

 率直な言葉を聞き、佑は破顔する。

「そう思われても仕方ありません」
「まぁ、……でも、目の前に本物がいます。それで、香澄はとても幸せそうです。東京にいる間も頻繁に連絡をくれましたが、ちょっと妬けるぐらい毎日幸せそうでした。だから、私はいいかな、って」

 一度言葉を句切り、麻衣は心底安心したように笑う。

「本当に良かった……! 私、香澄の事が大好きで、一番の親友なんです。札幌でずっとこの子と一緒にいたいって思ってました。東京に行くって聞いたときは寂しくなったけれど、すぐに『大切なら香澄の幸せを願わないと』って思い直しました」

 麻衣がそのように思っていたと知らず、香澄は思わず泣いてしまいそうになる。

 知っている限り、彼女はいつもカラッとしていて、頼りがいのある印象があった。
 相談事がある時も「どんとこい」という感じだし、東京に行く時も、「寂しかったら戻っておいで。もしくは大人だから自分で飛行機に乗って会いに行くよ」と言う人だった。

 だから、隠された麻衣の寂しさ、弱さに気付けていなかったのだ。

(私、自分一人だけ浮かれていて、寂しいと思ってた)

 そうではなく、麻衣のほうがずっと大人で、心配させないスキルが高かったのだ。

 シュンとした香澄に気づき、麻衣がポンポンと腕を叩いてくる。

「そんな顔しないで? 祝福してるんだから」
「うん……」

「私には色々、〝目標〟があるけど、その中の一つが『香澄の幸せを確認する事』なんです。だから、香澄を守って笑わせて、幸せにしていくバトンを御劔さんに渡します」

 まるで本物の家族かそれ以上に、麻衣が自分を想ってくれていると知り、香澄は泣きそうになっている。

「ありがとうございます。そのバトン、しっかり受け取りました」

 佑が微笑み、麻衣に向かって握手を求める。

「えっ? 握手ですか? ちょっ……」

 そこで我に返った麻衣は、慌ててお手拭きで手を拭いて、佑と握手をした。

 まじめな話が一旦終わった時、木の枝に帆立のフリットが置かれて運ばれてきた。
 それを「あちち」と言って囓り、絶妙な塩味と歯触りに思わず笑みを零す。

「いつでも飛行機を飛ばしますから、香澄に会いたくなったら連絡をください。飛行機代も宿泊場所も、すべて不要です」
「御劔ジェットがあるし、御劔邸は空き部屋沢山あるから、本当にいつでも!」

 香澄が軽く言うと、麻衣が頭を抱える。

「ちょっと……。タダより怖いものないんだから……」

 焦った彼女を見て、思わず二人して笑う。

 そのあと、マスタード、山わさびを添えられた牛ロースステーキを食べながら、結婚式はどのようにする……などを話し合い、近い未来の楽しみにした。

 ステーキを食べている途中に、ポテトグラタンが皿に載せられる。
 スライスされたじゃがいものホクホク感と、ホワイトソースの牛乳を感じられるクリーミーさがとても美味しい。

 デザートはタルトタタン、モンブラン、クレームダンジュの三種類から選べる。
 それぞれ説明を聞き、香澄はチーズムースの上にハスカップジャムが掛かった、クレームダンジュにした。
 麻衣はモンブラン、佑はタルトタタンだ。

「香澄の結婚式にかこつけて、東京観光するの楽しみだなぁ。っていうか、ドレス姿の香澄と絶対記念写真撮るからね」
「うん! 楽しみ! ブーケは絶対麻衣に渡すから」
「あはは……。私はまだ、予定がないかなぁ……」

 彼女が外見を理由に、恋愛にとても奥手なのは理解している。

 けれど香澄だって親友の幸せを祈っている。

 麻衣の幸せが結婚せずに独身でバリバリ働く事なら、余計な事は望まないだろう。
 だが親友だからこそ、麻衣が本当は男性を愛し、愛される事を望んでいるのを知っている。

 あまりその話題をしすぎると麻衣を追い詰めてしまうので、時々フワッと触れる程度にしていた。
 彼女にのらりくらり避けられていても、ブーケを渡したい相手は、麻衣一人だけだ。

 札幌にいる学生時代からの友達、Chief Everyの三人組や澪など、他にも相手はいるが、香澄が「結婚して幸せになってほしい」と強く思うのは麻衣だ。

「きっとお裾分けで幸せがいくからね。なにせ、幸運の大元がこちらの御劔さんですから」

 冗談めかして言うと、麻衣が快活に笑った。
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