149 / 1,549
第四部・婚約 編
一番の親友
しおりを挟む
「俺は愛した女性を今後一生かけて、大切にしていくと誓います」
穏やかな表情で、佑が麻衣に向けて誓いの言葉を口にする。
「愛した女性」と言われ、香澄は赤面する。
けれど麻衣が茶化さずにまじめに佑の言葉を聞いているので、彼女も大人しく二人のやり取りを見守る。
「確かに私は御劔さんの事を個人として知りません。香澄が東京に行く前にも話を聞きましたが、『そっくりさんに騙されたんじゃないかな? この子』とも、ちょっと思ってしまいました」
率直な言葉を聞き、佑は破顔する。
「そう思われても仕方ありません」
「まぁ、……でも、目の前に本物がいます。それで、香澄はとても幸せそうです。東京にいる間も頻繁に連絡をくれましたが、ちょっと妬けるぐらい毎日幸せそうでした。だから、私はいいかな、って」
一度言葉を句切り、麻衣は心底安心したように笑う。
「本当に良かった……! 私、香澄の事が大好きで、一番の親友なんです。札幌でずっとこの子と一緒にいたいって思ってました。東京に行くって聞いたときは寂しくなったけれど、すぐに『大切なら香澄の幸せを願わないと』って思い直しました」
麻衣がそのように思っていたと知らず、香澄は思わず泣いてしまいそうになる。
知っている限り、彼女はいつもカラッとしていて、頼りがいのある印象があった。
相談事がある時も「どんとこい」という感じだし、東京に行く時も、「寂しかったら戻っておいで。もしくは大人だから自分で飛行機に乗って会いに行くよ」と言う人だった。
だから、隠された麻衣の寂しさ、弱さに気付けていなかったのだ。
(私、自分一人だけ浮かれていて、寂しいと思ってた)
そうではなく、麻衣のほうがずっと大人で、心配させないスキルが高かったのだ。
シュンとした香澄に気づき、麻衣がポンポンと腕を叩いてくる。
「そんな顔しないで? 祝福してるんだから」
「うん……」
「私には色々、〝目標〟があるけど、その中の一つが『香澄の幸せを確認する事』なんです。だから、香澄を守って笑わせて、幸せにしていくバトンを御劔さんに渡します」
まるで本物の家族かそれ以上に、麻衣が自分を想ってくれていると知り、香澄は泣きそうになっている。
「ありがとうございます。そのバトン、しっかり受け取りました」
佑が微笑み、麻衣に向かって握手を求める。
「えっ? 握手ですか? ちょっ……」
そこで我に返った麻衣は、慌ててお手拭きで手を拭いて、佑と握手をした。
まじめな話が一旦終わった時、木の枝に帆立のフリットが置かれて運ばれてきた。
それを「あちち」と言って囓り、絶妙な塩味と歯触りに思わず笑みを零す。
「いつでも飛行機を飛ばしますから、香澄に会いたくなったら連絡をください。飛行機代も宿泊場所も、すべて不要です」
「御劔ジェットがあるし、御劔邸は空き部屋沢山あるから、本当にいつでも!」
香澄が軽く言うと、麻衣が頭を抱える。
「ちょっと……。タダより怖いものないんだから……」
焦った彼女を見て、思わず二人して笑う。
そのあと、マスタード、山わさびを添えられた牛ロースステーキを食べながら、結婚式はどのようにする……などを話し合い、近い未来の楽しみにした。
ステーキを食べている途中に、ポテトグラタンが皿に載せられる。
スライスされたじゃがいものホクホク感と、ホワイトソースの牛乳を感じられるクリーミーさがとても美味しい。
デザートはタルトタタン、モンブラン、クレームダンジュの三種類から選べる。
それぞれ説明を聞き、香澄はチーズムースの上にハスカップジャムが掛かった、クレームダンジュにした。
麻衣はモンブラン、佑はタルトタタンだ。
「香澄の結婚式にかこつけて、東京観光するの楽しみだなぁ。っていうか、ドレス姿の香澄と絶対記念写真撮るからね」
「うん! 楽しみ! ブーケは絶対麻衣に渡すから」
「あはは……。私はまだ、予定がないかなぁ……」
彼女が外見を理由に、恋愛にとても奥手なのは理解している。
けれど香澄だって親友の幸せを祈っている。
麻衣の幸せが結婚せずに独身でバリバリ働く事なら、余計な事は望まないだろう。
だが親友だからこそ、麻衣が本当は男性を愛し、愛される事を望んでいるのを知っている。
あまりその話題をしすぎると麻衣を追い詰めてしまうので、時々フワッと触れる程度にしていた。
彼女にのらりくらり避けられていても、ブーケを渡したい相手は、麻衣一人だけだ。
札幌にいる学生時代からの友達、Chief Everyの三人組や澪など、他にも相手はいるが、香澄が「結婚して幸せになってほしい」と強く思うのは麻衣だ。
「きっとお裾分けで幸せがいくからね。なにせ、幸運の大元がこちらの御劔さんですから」
冗談めかして言うと、麻衣が快活に笑った。
穏やかな表情で、佑が麻衣に向けて誓いの言葉を口にする。
「愛した女性」と言われ、香澄は赤面する。
けれど麻衣が茶化さずにまじめに佑の言葉を聞いているので、彼女も大人しく二人のやり取りを見守る。
「確かに私は御劔さんの事を個人として知りません。香澄が東京に行く前にも話を聞きましたが、『そっくりさんに騙されたんじゃないかな? この子』とも、ちょっと思ってしまいました」
率直な言葉を聞き、佑は破顔する。
「そう思われても仕方ありません」
「まぁ、……でも、目の前に本物がいます。それで、香澄はとても幸せそうです。東京にいる間も頻繁に連絡をくれましたが、ちょっと妬けるぐらい毎日幸せそうでした。だから、私はいいかな、って」
一度言葉を句切り、麻衣は心底安心したように笑う。
「本当に良かった……! 私、香澄の事が大好きで、一番の親友なんです。札幌でずっとこの子と一緒にいたいって思ってました。東京に行くって聞いたときは寂しくなったけれど、すぐに『大切なら香澄の幸せを願わないと』って思い直しました」
麻衣がそのように思っていたと知らず、香澄は思わず泣いてしまいそうになる。
知っている限り、彼女はいつもカラッとしていて、頼りがいのある印象があった。
相談事がある時も「どんとこい」という感じだし、東京に行く時も、「寂しかったら戻っておいで。もしくは大人だから自分で飛行機に乗って会いに行くよ」と言う人だった。
だから、隠された麻衣の寂しさ、弱さに気付けていなかったのだ。
(私、自分一人だけ浮かれていて、寂しいと思ってた)
そうではなく、麻衣のほうがずっと大人で、心配させないスキルが高かったのだ。
シュンとした香澄に気づき、麻衣がポンポンと腕を叩いてくる。
「そんな顔しないで? 祝福してるんだから」
「うん……」
「私には色々、〝目標〟があるけど、その中の一つが『香澄の幸せを確認する事』なんです。だから、香澄を守って笑わせて、幸せにしていくバトンを御劔さんに渡します」
まるで本物の家族かそれ以上に、麻衣が自分を想ってくれていると知り、香澄は泣きそうになっている。
「ありがとうございます。そのバトン、しっかり受け取りました」
佑が微笑み、麻衣に向かって握手を求める。
「えっ? 握手ですか? ちょっ……」
そこで我に返った麻衣は、慌ててお手拭きで手を拭いて、佑と握手をした。
まじめな話が一旦終わった時、木の枝に帆立のフリットが置かれて運ばれてきた。
それを「あちち」と言って囓り、絶妙な塩味と歯触りに思わず笑みを零す。
「いつでも飛行機を飛ばしますから、香澄に会いたくなったら連絡をください。飛行機代も宿泊場所も、すべて不要です」
「御劔ジェットがあるし、御劔邸は空き部屋沢山あるから、本当にいつでも!」
香澄が軽く言うと、麻衣が頭を抱える。
「ちょっと……。タダより怖いものないんだから……」
焦った彼女を見て、思わず二人して笑う。
そのあと、マスタード、山わさびを添えられた牛ロースステーキを食べながら、結婚式はどのようにする……などを話し合い、近い未来の楽しみにした。
ステーキを食べている途中に、ポテトグラタンが皿に載せられる。
スライスされたじゃがいものホクホク感と、ホワイトソースの牛乳を感じられるクリーミーさがとても美味しい。
デザートはタルトタタン、モンブラン、クレームダンジュの三種類から選べる。
それぞれ説明を聞き、香澄はチーズムースの上にハスカップジャムが掛かった、クレームダンジュにした。
麻衣はモンブラン、佑はタルトタタンだ。
「香澄の結婚式にかこつけて、東京観光するの楽しみだなぁ。っていうか、ドレス姿の香澄と絶対記念写真撮るからね」
「うん! 楽しみ! ブーケは絶対麻衣に渡すから」
「あはは……。私はまだ、予定がないかなぁ……」
彼女が外見を理由に、恋愛にとても奥手なのは理解している。
けれど香澄だって親友の幸せを祈っている。
麻衣の幸せが結婚せずに独身でバリバリ働く事なら、余計な事は望まないだろう。
だが親友だからこそ、麻衣が本当は男性を愛し、愛される事を望んでいるのを知っている。
あまりその話題をしすぎると麻衣を追い詰めてしまうので、時々フワッと触れる程度にしていた。
彼女にのらりくらり避けられていても、ブーケを渡したい相手は、麻衣一人だけだ。
札幌にいる学生時代からの友達、Chief Everyの三人組や澪など、他にも相手はいるが、香澄が「結婚して幸せになってほしい」と強く思うのは麻衣だ。
「きっとお裾分けで幸せがいくからね。なにせ、幸運の大元がこちらの御劔さんですから」
冗談めかして言うと、麻衣が快活に笑った。
43
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる