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第四部・婚約 編

結婚させてください

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 そのあと、少しのあいだ香澄が東京での生活、仕事ぶりなどを話す。
 香澄の話が一旦落ち着いたあと、佑が紅茶を一口飲んで本題を切り出した。

「今日お邪魔した用件なのですが、以前は香澄さんをChief Everyに雇わせて頂く名目でご挨拶を致しました」

 両親の表情が引き締まり、芳也も緊張している。

「香澄さんと出会ってまだ半年です。ですが私は彼女を尊敬し、心から愛しています」

 家族の間でそう言われ、香澄は真っ赤になって俯きかける。
 が、きちんと挨拶しなければいけない場なので、頑張って前を向いた。

「どうか彼女との結婚の許可を頂けないでしょうか?」

 スッと尋ね、佑は微笑む。

「私にとって、彼女以上の女性はいません。私はメディアにも露出しているため、香澄さんがつらい目に遭わないかなど、心配されるお気持ちも理解します。何かがあった時は、持てるすべてでもって守り通すと誓います」

 家族が心配するだろう点も、佑はきちんとカバーする。

「お願いします。香澄さんと結婚させてください」

 佑は頭を下げ、香澄も彼に倣って礼をした。

「私からも……、お願いします。きっとこれから先、佑さん以上の男性と出会えないと思う。勿論不安もあるけど、それ以上に彼と一緒にいるととても幸せになれます。……だから、結婚したいです」

 二人がそろって頭を下げたあと、五秒後ほどに両親が小さく息をついた音が聞こえた。

「まず、頭を上げてください」

 父に言われ、二人はその通りにする。

「まず申し上げておきたいのは、私たちは御劔さんを信頼しています。去年ご挨拶を頂いた時、さすがに心配はしましたが、この半年香澄の連絡はいつも明るいものでした。本人から先ほど聞いた通り、慣れない事がありながらも、毎日生き生きと過ごせているようで、父親として何よりだと思っています」

 肯定的な言葉を言われ、香澄は安堵する。

「そして私たちも、御劔さん以上に素敵な男性はそうそう現れないと思っています。申し上げる事は、香澄を守ってくださいという事のみです。それ以外は何も申し上げません。こちらこそ、どうぞ娘を宜しくお願いします」

 崇が頭を下げ、栄子と芳也も礼をした。

「ありがとうございます。必ず守り、二人で幸せになります」

 佑は心底安心したという表情で笑い、香澄も微笑んで礼を言う。

「ありがとう!」

 そのあと、栄子が努めて明るく言う。

「さて、お腹空いたからお昼にしましょうか! お寿司とったんですが、どうぞ運転手さんたちも召し上がるように言ってください」
「お母さん、手伝うよ」

 香澄も立ち、寿司用の小皿や箸を出す。
 佑は外で待っている小金井、小山内、呉代に連絡をした。

「御劔さんの家ってどんな感じなんですか?」

 寿司が届き、全員で食べていると芳也が遠慮がちに話し掛けてくる。
 寿司屋は近所にある昔馴染みで、奮発して一番いい寿司を頼んだようだ。
 トロにウニ、イクラ、アワビにカニ、帆立、イカ、牡丹海老……等々、子供の頃から慣れ親しんだ寿司を久しぶりに食べられるので、香澄は大喜びだ。

「ちょっと芳也、プライベートな事、失礼だよ」

 弟の発言を香澄が窘めるが、佑は何も気にしていないようだ。

「家の中の写真、あったかな……」

 そう言って彼は「失礼します」と言ってスマホを取りだし、アルバムを確認していく。

「あと、名前で呼んでくれて構わないよ。俺も芳也くんって呼んでいいかな?」
「はい!」

 一気に親密になれたのが嬉しかったようで、芳也は表情を輝かせる。

「あ、この辺かな」

 佑はクラウドの中から、白金の家を建てた当初の新居アルバムを開く。

「どうぞ、好きに見て」

 ポンとスマホを手渡され、芳也は御劔佑のスマホを自由にできる興奮に「やべぇ……」と呟く。

「芳也、先にご飯食べてからにしなよ。満腹中枢でお腹一杯になっちゃうんだからね」
「ういー」

 香澄が注意しても、芳也は「やべぇ」と言いながら佑のスマホをスワイプしている。

「もぉ、佑さん。芳也を甘やかさなくていいからね?」
「いいじゃないか。可愛い義弟になるんだから」

 義弟という単語を聞き、香澄は御劔家の兄弟たちを思い浮かべる。

(いずれ両家挨拶ってなったら、うちの家族テンパりそうだな……。ただ者じゃないオーラばっかりの人だし……)

 ぼんやりと思いながら、生の牡丹海老の寿司をパクリと口に入れた。
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