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第四部・婚約 編
マジもんの御劔佑
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『じゃあ、メシ行くか』
『オッケー。ていうか、二人だと味気ないから、誰か女の子が一緒してくれたら嬉しいんだけど』
『それなー』
何とも軽薄な事を言いながら、二人は準備をしたあとスイートルームを出ていった。
**
それから数週間が過ぎ、四月の下旬に香澄は札幌に戻っていた。
「まだこっちは肌寒いんだな」
四月の下旬にもなると札幌もさすがに暖かくなってきているが、日陰にはまだ雪がある状態だ。
それでも天気のいい日は最高気温が十五度以上にはなるので、着る物はすっかり冬物を脱してスプリングコートになる。
また、桜も咲いてきていて丁度良かった。
二人は新千歳空港で佑のプライベートジェットを下りたあと、札幌のガレージから出した佑の車に乗り、高速道路で札幌中心部に向かう。
西区まで行った頃には移動で疲れていたが、香澄は久しぶりの地元に浮き足立っている。
住宅街の中の一軒の前で車が停まり、二人が降車する。
「おかしくない?」
「可愛いよ」
結婚の挨拶という事で、香澄は品のあるベージュピンクのワンピースを着ていた。
髪も緩く巻き、ハーフアップにしてヘアクリップで留めている。
佑はいつも通り、体型に合ったスーツをビシッと着ている。
少し緊張して深呼吸したあと、香澄は自分の家のチャイムを押した。
ピーンポーン……と音がしたあと、インターフォンから弟の芳也の声が『はい』と返事をする。
『わっ! マジもんの御劔佑だ! ちょっと待って!』
弟の声がそこで切れたあと、香澄は恥ずかしくなって佑に謝る。
「ごめんね……」
「いや、いいよ。仲良くなれたらいいな」
すぐに玄関の鍵が開き、家着にしてはきちんとした、シャツにズボンという姿の芳也が顔を出した。
「いらっ…………しゃいませ……」
片足でサンダルを踏み、玄関ドアを開けたままの体勢で、芳也は佑を凝視して放心する。
芳也は身長百七十五センチ少しで、爽やかアナウンサー風の髪型の、札幌市内の会社勤務サラリーマンだ。
普段は中央区にある賃貸マンションで一人暮らしをしている。
最近体作りに嵌まっているというのも、姉が付き合っている佑が立派な体躯をしているから、という理由らしい。
その男の子らしい憧れに、姉としてはニコニコなのだが、あまり弄ると怒られるので黙っている。
「初めまして。御劔佑です」
いつもテレビの向こうで活躍している有名人が、自分の家を訪れてにっこり笑う様子を見て、芳也は再び放心する。
「中冷えるから入れて」
香澄が弟の腕をトントンと叩くと、彼は「お、おう」と我に返って二人を招き入れた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
おめかしした母の栄子がニコニコして玄関まで出てきて、隣には父の崇もいる。
二人とも佑と面識があるからか、好意的に迎えてくれて第一段階クリアだ。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
とっておきの笑みを浮かべる佑を前に、両親はすでに骨抜きだ。
家に上がったあと、佑が栄子に手土産を渡す。
香澄からも個人的に「東京土産だよ」と言って、沢山お菓子を渡した。
やがて栄子がお茶とお茶菓子を用意し、リビングに座った五人に微かな緊張が走る。
「以前は、突然の事でしたが、大切な娘さんを私に託して頂き、東京に連れて行く事を許可してくださり、ありがとうございました」
佑が口を開くと、両親が「いいえ、そんな……」と微笑む。
「香澄は東京でうまくやれてるのか?」
父に尋ねられ、香澄は「うん」と頷く。
「上司で松井さんっていうベテラン秘書さんがいるんだけど、温厚で仕事ができて、とても尊敬できる人なの。それと佑さん……社長にも大切にされていて、東京で嫌な目に遭ったとかは一度もないよ。大切にされすぎていて、不安になるぐらい」
笑って伝えると、両親も芳也も安心したようだ。
「仕事は大変?」
母に尋ねられ、香澄は「うん」とまた頷く。
「あのChief Everyの社長秘書だもん、忙しいよ。でも、やりがいはある。八谷にいた時もやりがいはあったけど、まったく別の職種だから別のやりがいがある。毎日発見があって、大変だけど楽しいよ」
「そう」
東京で香澄が充実しているようだと知り、栄子は安心したように微笑んだ。
『オッケー。ていうか、二人だと味気ないから、誰か女の子が一緒してくれたら嬉しいんだけど』
『それなー』
何とも軽薄な事を言いながら、二人は準備をしたあとスイートルームを出ていった。
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それから数週間が過ぎ、四月の下旬に香澄は札幌に戻っていた。
「まだこっちは肌寒いんだな」
四月の下旬にもなると札幌もさすがに暖かくなってきているが、日陰にはまだ雪がある状態だ。
それでも天気のいい日は最高気温が十五度以上にはなるので、着る物はすっかり冬物を脱してスプリングコートになる。
また、桜も咲いてきていて丁度良かった。
二人は新千歳空港で佑のプライベートジェットを下りたあと、札幌のガレージから出した佑の車に乗り、高速道路で札幌中心部に向かう。
西区まで行った頃には移動で疲れていたが、香澄は久しぶりの地元に浮き足立っている。
住宅街の中の一軒の前で車が停まり、二人が降車する。
「おかしくない?」
「可愛いよ」
結婚の挨拶という事で、香澄は品のあるベージュピンクのワンピースを着ていた。
髪も緩く巻き、ハーフアップにしてヘアクリップで留めている。
佑はいつも通り、体型に合ったスーツをビシッと着ている。
少し緊張して深呼吸したあと、香澄は自分の家のチャイムを押した。
ピーンポーン……と音がしたあと、インターフォンから弟の芳也の声が『はい』と返事をする。
『わっ! マジもんの御劔佑だ! ちょっと待って!』
弟の声がそこで切れたあと、香澄は恥ずかしくなって佑に謝る。
「ごめんね……」
「いや、いいよ。仲良くなれたらいいな」
すぐに玄関の鍵が開き、家着にしてはきちんとした、シャツにズボンという姿の芳也が顔を出した。
「いらっ…………しゃいませ……」
片足でサンダルを踏み、玄関ドアを開けたままの体勢で、芳也は佑を凝視して放心する。
芳也は身長百七十五センチ少しで、爽やかアナウンサー風の髪型の、札幌市内の会社勤務サラリーマンだ。
普段は中央区にある賃貸マンションで一人暮らしをしている。
最近体作りに嵌まっているというのも、姉が付き合っている佑が立派な体躯をしているから、という理由らしい。
その男の子らしい憧れに、姉としてはニコニコなのだが、あまり弄ると怒られるので黙っている。
「初めまして。御劔佑です」
いつもテレビの向こうで活躍している有名人が、自分の家を訪れてにっこり笑う様子を見て、芳也は再び放心する。
「中冷えるから入れて」
香澄が弟の腕をトントンと叩くと、彼は「お、おう」と我に返って二人を招き入れた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
おめかしした母の栄子がニコニコして玄関まで出てきて、隣には父の崇もいる。
二人とも佑と面識があるからか、好意的に迎えてくれて第一段階クリアだ。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
とっておきの笑みを浮かべる佑を前に、両親はすでに骨抜きだ。
家に上がったあと、佑が栄子に手土産を渡す。
香澄からも個人的に「東京土産だよ」と言って、沢山お菓子を渡した。
やがて栄子がお茶とお茶菓子を用意し、リビングに座った五人に微かな緊張が走る。
「以前は、突然の事でしたが、大切な娘さんを私に託して頂き、東京に連れて行く事を許可してくださり、ありがとうございました」
佑が口を開くと、両親が「いいえ、そんな……」と微笑む。
「香澄は東京でうまくやれてるのか?」
父に尋ねられ、香澄は「うん」と頷く。
「上司で松井さんっていうベテラン秘書さんがいるんだけど、温厚で仕事ができて、とても尊敬できる人なの。それと佑さん……社長にも大切にされていて、東京で嫌な目に遭ったとかは一度もないよ。大切にされすぎていて、不安になるぐらい」
笑って伝えると、両親も芳也も安心したようだ。
「仕事は大変?」
母に尋ねられ、香澄は「うん」とまた頷く。
「あのChief Everyの社長秘書だもん、忙しいよ。でも、やりがいはある。八谷にいた時もやりがいはあったけど、まったく別の職種だから別のやりがいがある。毎日発見があって、大変だけど楽しいよ」
「そう」
東京で香澄が充実しているようだと知り、栄子は安心したように微笑んだ。
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