144 / 1,549
第四部・婚約 編
アリだな
しおりを挟む
「きゅ、急に積極的になって、変に思ってほしくないんだけど」
「思わないよ。嬉しい」
その言葉を聞いて安心し、香澄はアンネの電話があってから考えていた事を口にした。
「アンネさんには、札幌の家族に今度はきちんと結婚の報告として挨拶に行ったら? って言われたの」
隣で佑が溜め息をついたが、彼の話はあとで聞くとして続きを言う。
「なんか……。アリだな、って思って。最初にうちの両親には佑さんの存在をもう知られていて、何も言われてないけど期待はされてると思う。それで佑さんのご家族にもお会いして、きっと同じように考えられていると思う。佑さんはすでに結婚する気でいてくれて、あとは私次第」
佑が心配げな視線を向けてくるが、それに対してニコッと笑ってみせた。
「別に、〝圧〟に負けたとかじゃないの。私がいつまでも踏み出せないで怖がっているのが、何か『駄目だな』って思って。親友が側にいたら、もっと早い段階で『何やってんの』って背中を叩かれてる気がする」
「そうか」
香澄が前向きになったのだと理解した佑は、嬉しそうに微笑む。
「だから、また怖じ気づいてしまわないうちに、札幌の家族に挨拶に行きたい」
「分かった。ご挨拶に行こう」
話したあとは、スッキリと少しの興奮とで心が満ちる。
リビングの窓の向こう、御劔邸の敷地内には桜の木があって薄紅色の花を咲かせている。
敷地が広く、カーテンを開けていても人に見られない設計になっているので、こうして夜にライトアップされた庭を見られる。
「春だねぇ……」
「そうだな」
佑が香澄の肩を抱き、チュッと額にキスをした。
「初まりの季節だから、一歩前に進まないと」
「俺は隣にいるからな」
勇気を振り絞った香澄に、佑が安心させるように言い、頭をポンポンと撫でる。
「ありがとう」
微笑んでから、香澄はスマホを手に取り、親友に『もう少ししたら札幌に行くかも』とメッセージを送った。
都内のホテルのスイートルームにいる双子は、夕方になり外出してディナーをとる準備をしていた。
『これからどーする? オーパとオーマについて京都行く?』
『日本の桜は綺麗だからなぁ……。魅力的だよね。一年に一回だし』
『おっと』
アロイスのスマホが着信を告げ、彼は液晶画面に出た名前を見て眉を上げる。
『おや、珍しい。マティアスからだ。もしもーし』
電話に出ると、スピーカーの向こうから低く落ち着いた声がする。
《日本はいま、十五時すぎで合ってるだろうか?》
『ぶふっ、そんな細かいトコ気にして電話掛けてくんの、お前だけだわ』
イタリアの小洒落たスーツを身に纏ったアロイスは、ソファに座って長い脚を組む。
『どーした?』
《いや。…………日本はどうだ?》
『あー、お前日本好きだもんね! 羨ましいのか?』
《羨ましい。俺は仕事漬けでなかなか旅行に行けない》
『まぁまぁ。ボスに掛け合ってみなよ。……ってまぁ、お前のボスは、お前がいないと何もできないだろうけど。優秀すぎる秘書も困りもんだな』
その声に、相手――マティアスは何も言わなかった。
『なんなら、ボスを焚きつけて日本の出張でもさせてみたら? あいつもファッションブランドの社長なら、他国にインスピレーション受けるでしょ』
《そうしてみる。さしあたって、土産を頼みたい》
『あっはは! 土産ね。OK! 希望があるならリスト作ってメッセージしといてよ。俺たち、これから京都にも向かうんだけど、京都土産もOKだよ』
《京都!》
マティアスは明らかに興味があるという声を出したあと、悔しげに黙る。
《俺は絶対いつか、現地に行って〝ぶぶ漬け〟を出されてみせる……》
いわゆる、長居をしすぎると出されるというぶぶ漬け文化だが、それを知った彼はやけに気に入って、されてみたいと思うようになったらしい。
『はいはい。分かったからリスト作っておいて。俺たちはこれからディナーだから。しゃぶしゃぶ食いに行くの』
《しゃぶしゃぶ!》
またマティアスが羨ましそうな声を出す。
分かっていながら、アロイスは『じゃーね!』と軽やかに言って電話を切ってしまった。
「思わないよ。嬉しい」
その言葉を聞いて安心し、香澄はアンネの電話があってから考えていた事を口にした。
「アンネさんには、札幌の家族に今度はきちんと結婚の報告として挨拶に行ったら? って言われたの」
隣で佑が溜め息をついたが、彼の話はあとで聞くとして続きを言う。
「なんか……。アリだな、って思って。最初にうちの両親には佑さんの存在をもう知られていて、何も言われてないけど期待はされてると思う。それで佑さんのご家族にもお会いして、きっと同じように考えられていると思う。佑さんはすでに結婚する気でいてくれて、あとは私次第」
佑が心配げな視線を向けてくるが、それに対してニコッと笑ってみせた。
「別に、〝圧〟に負けたとかじゃないの。私がいつまでも踏み出せないで怖がっているのが、何か『駄目だな』って思って。親友が側にいたら、もっと早い段階で『何やってんの』って背中を叩かれてる気がする」
「そうか」
香澄が前向きになったのだと理解した佑は、嬉しそうに微笑む。
「だから、また怖じ気づいてしまわないうちに、札幌の家族に挨拶に行きたい」
「分かった。ご挨拶に行こう」
話したあとは、スッキリと少しの興奮とで心が満ちる。
リビングの窓の向こう、御劔邸の敷地内には桜の木があって薄紅色の花を咲かせている。
敷地が広く、カーテンを開けていても人に見られない設計になっているので、こうして夜にライトアップされた庭を見られる。
「春だねぇ……」
「そうだな」
佑が香澄の肩を抱き、チュッと額にキスをした。
「初まりの季節だから、一歩前に進まないと」
「俺は隣にいるからな」
勇気を振り絞った香澄に、佑が安心させるように言い、頭をポンポンと撫でる。
「ありがとう」
微笑んでから、香澄はスマホを手に取り、親友に『もう少ししたら札幌に行くかも』とメッセージを送った。
都内のホテルのスイートルームにいる双子は、夕方になり外出してディナーをとる準備をしていた。
『これからどーする? オーパとオーマについて京都行く?』
『日本の桜は綺麗だからなぁ……。魅力的だよね。一年に一回だし』
『おっと』
アロイスのスマホが着信を告げ、彼は液晶画面に出た名前を見て眉を上げる。
『おや、珍しい。マティアスからだ。もしもーし』
電話に出ると、スピーカーの向こうから低く落ち着いた声がする。
《日本はいま、十五時すぎで合ってるだろうか?》
『ぶふっ、そんな細かいトコ気にして電話掛けてくんの、お前だけだわ』
イタリアの小洒落たスーツを身に纏ったアロイスは、ソファに座って長い脚を組む。
『どーした?』
《いや。…………日本はどうだ?》
『あー、お前日本好きだもんね! 羨ましいのか?』
《羨ましい。俺は仕事漬けでなかなか旅行に行けない》
『まぁまぁ。ボスに掛け合ってみなよ。……ってまぁ、お前のボスは、お前がいないと何もできないだろうけど。優秀すぎる秘書も困りもんだな』
その声に、相手――マティアスは何も言わなかった。
『なんなら、ボスを焚きつけて日本の出張でもさせてみたら? あいつもファッションブランドの社長なら、他国にインスピレーション受けるでしょ』
《そうしてみる。さしあたって、土産を頼みたい》
『あっはは! 土産ね。OK! 希望があるならリスト作ってメッセージしといてよ。俺たち、これから京都にも向かうんだけど、京都土産もOKだよ』
《京都!》
マティアスは明らかに興味があるという声を出したあと、悔しげに黙る。
《俺は絶対いつか、現地に行って〝ぶぶ漬け〟を出されてみせる……》
いわゆる、長居をしすぎると出されるというぶぶ漬け文化だが、それを知った彼はやけに気に入って、されてみたいと思うようになったらしい。
『はいはい。分かったからリスト作っておいて。俺たちはこれからディナーだから。しゃぶしゃぶ食いに行くの』
《しゃぶしゃぶ!》
またマティアスが羨ましそうな声を出す。
分かっていながら、アロイスは『じゃーね!』と軽やかに言って電話を切ってしまった。
43
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる