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第四部・婚約 編
連れ回し
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「えぇっ?」
彼が差し出したミニドレスを見て、香澄は思わず素の声を出した。
世界が認めるアロクラのデザイナーを前に失礼だが、ミニ丈のタイトワンピースで、サイドが編み上げになっているそれは、香澄にとってはギャルっぽい格好に映ってしまう。
「このブラックドレスにゴツめのブーツとかどう? 可愛いと思うけど」
「う、う、……か、可愛いですけど……もっと露出低めで……。さすがに無理です」
確かにアロイスの言う組み合わせは、スーパーモデルが着たらさぞ格好いいのだろう。
だが香澄は日本人で、加えてごく平均的な身長だ。
顔ものっぺりとしている上、オフィス用の薄化粧なのでドレスにまったく合わない。
せめてスモーキーメイクでもしていれば格好がつくかもしれないが、何もかも準備不足だ。
加えて現在は昼間で、特別な場でもないのにこのミニドレスを着るのは躊躇われる。
両手を胸の前でブンブンと、残像ができるほど振っている香澄を見て、アロイスは「えー?」と不服げに唇を尖らせる。
「一般的な布面積でお願いします。日本的な!」
「ちぇー」
アロイスはハンガーを戻し、もう少し物色して、提案しては断られるという事を繰り返す。
「あっはは、アロなにやってんの」
そこに店内チェックを終わらせたクラウスが戻り、ぶーたれてる兄を笑う。
「カスミの注文が細かくてー」
わざとらしく言われ、香澄としても肩身が狭い。
「日本の女の子って露出嫌がるよねー」
今度はクラウスが服を選び始め、「この辺りじゃない?」と一着のワンピースを選ぶ。
「あ、これなら……」
クラウスが選んだのは、ノースリーブの膝丈ワンピースだ。
首元から胸元まで美しいレースがあり、胸元からは光沢のある布地が続いている。
Aラインになったスカートはボックスプリーツになっていて、プリーツの内側はレースになっているデザインだ。
「OK? じゃあ、他に合う靴とアクセ探そっか」
「えぇ!?」
CEPに関わっていて、うっすらとハイブランドのワンピースと言えば二十万から五十万ほどするのは分かっている。
それだけでも胃が痛いのに、十万近くはする靴に、アクセサリーともなれば、ジュエリーがつけばポンと一つゼロが増える。
「……ぐぅ……」
本当に胃が痛くなってきた気がして、香澄はうめく。
「まーまー、カスミに買わせるつもりなんてないから、着せ替え人形になっといて」
双子はかるーく言い、他のアイテムについての話し合いを始める。
おまけに店内にいる客や、セールスアソシエイトたちからの視線がつらく、香澄のメンタルライフはグングン減っていた。
問答無用で着替えさせられたあと、知らない内に予約されていた美容室でサッとヘアメイクを整えられる。
香澄が色々とされている間、アロイスが「チョコ好き?」と尋ねてくる。
「はい、大好きです!」
「OK!」
ニカッと笑ったアロイスは、ヒラリと手を振って店の外に出て行った。
(ん?)
不思議に思ったが、そのあとクラウスに話し掛けられて意識を彼に向ける。
施術が終わる頃にはアロイスが戻っていたが、その手にはフランスの高級チョコレートブランドの茶色いショッパーがあった。
焦げ茶色のショッパーには金色の文字でブランド名が書かれ、大きく〝C〟とロゴも刻まれている。
「これ、カスミ用のお土産ね。俺たちもよく食べてるけど、んまいよ」
「あ、ありがとうございます……」
チラッと中を見ると、お馴染みのオレンジの箱が入っている。
(うう……、しかも一番大きいやつ)
香澄は佑にもチョコレート好きを公言していた。
そんな彼女に対し、佑がチョコレートをプレゼントしないはずがない。
生まれて初めて食べた『ラ・シャトー・ドゥ・ショコラ』は本当に美味しくて、一粒一粒味わっては感動し、口に甘さが残らない上品さに感動し……と、感動の嵐だった。
百面相をしながらチョコレートを食べる香澄を見て佑は面白がり、「ここもオススメだよ」と一週間に一、二回ぐらいの頻度で高級チョコレートをプレゼントしだした。
どれも美味しいが、特に香澄が「また食べたい」と思った物の一つが、この『ラ・シャトー・ドゥ・ショコラ』だ。
オンラインショップを確認してみて、佑がプレゼントしてくれた一番沢山入っている物が、一万円を超えると知って目が飛び出るかと思った。
(オイシイ……。ウレシイ……。デモタカイ……)
心の中でカタコトになった香澄は、プルプル震える手でショッパーを受け取ろうとする。
「あ、荷物は持つから安心して? 帰り際に渡すよ」
「はい……」
「さて、スイーツ食べにいこっか。行きたい店あるんだ」
「はい」
履き慣れないパンプスで緊張して歩いていると、当然という顔で双子が左右からエスコートの腕を出してくる。
けれど佑がいる手前、よその男性の腕を借りるなどできない。
たとえそれが西欧では男性のスマートな行為とされていても、日本人の香澄には心理的抵抗がある。
「頑なだなー」
「ホントに」
左右からステレオのようにブーブー言われながら、香澄は周囲に注目されながら、また車に乗るのだった。
車で十分もしないうちに、南青山に着く。
着いたのは『CITRUS』と店の前に店名のロゴのある、カフェだ。
「カスミって、レモンのスイーツ好きなんでしょ?」
「えっ? え? そうですが、どこ情報?」
食の好みについて隠していないが、双子にはそこまで詳しく言っていないはずだ。
「ミオにチョコ餌付けしたら、色々教えてくれたよ」
(あっあー……。澪さん……)
頭にポン、と浮かんだのは、高級チョコをモグモグしながらピースしている澪だ。
(いや、別に秘密じゃないからいいんだけど……)
いいのだが、こうやって何でもプレゼント、ご馳走してくれる事になるので、非情に申し訳ない。
店内に入るとカウンターとキッチンが見え、どうやら一階でオーダーしてから二階で食べる仕組みらしい。
内装はペンダントライトの照明に、ウッド調のテーブルセットと、ナチュラルな印象だ。
シェフやスタッフは全員フランス人らしく、店内にはフレンチポップスがBGMに流れていた。
「ここ、ヴィーガンメニューも多くあるけど、カスミの好きなレモンタルトがあるから、食べてみ」
「スポンジとかクリームとか、余計な物のないのが好きなんでしょ?」
「は、はい……」
澪に話した事がそのまま伝わっていて、ほんの少し恐怖すら感じる。
双子はキッシュを頼み、カスミはレモンタルトと、どうせなのでレモネードを頼んだ。
席についてようやく食べる事になるが、顔のいい双子を連れているとやはり注目される。
(しんどい……)
「あのイケメン双子にエスコートされて、ブランド服に着られてる芋っぽい女は何なの?」と、嘲笑する声が聞こえてきそうだ。
生ぬるく微笑んだ香澄は、「いただきます」と手を合わせ、まずはレモネードを飲む。
「んン!」
レモンの酸っぱさを存分に生かし、甘すぎないレモネードに思わず声が漏れる。
そして肝心のレモンタルトは、実に香澄が理想とする姿をしている。
タルト生地がある他は、余計なものが一切ない。
上にフルーツソースや果実もないし、レモンクリーム――というにはハードなテクスチャーの本体があるのみだ。
実に味、素材で勝負という感じが出ていて潔い。
(いざ、実食)
心の中で呟き、香澄はフォークを入れる。
プルリとした部分のみをすくって口に入れると、まさに理想のレモンタルトの味がした。
スイーツ、ケーキ、タルトという単語から連想される余計な甘さがなく、シンプルにレモンの酸っぱさと微かな甘さが絶妙なバランスで味わえる。
「んン~……」
唸りながら、香澄は二口、三口とフォークを進めていく。
記念写真を撮るのも忘れ、あっという間に完食してしまった。
「美味しかった! ご馳走様でした!」
パン、と胸の前で手を合わせた香澄を見て、双子が拍手する。
「あっ、いや、その。ありがとうございます。ご馳走様でした」
頭を下げる香澄を見て、双子がケラケラ笑う。
――――――――――――――――――
今回出てきた二つは実食済みですが、機会があればぜひ。(個人の好みがあります)
彼が差し出したミニドレスを見て、香澄は思わず素の声を出した。
世界が認めるアロクラのデザイナーを前に失礼だが、ミニ丈のタイトワンピースで、サイドが編み上げになっているそれは、香澄にとってはギャルっぽい格好に映ってしまう。
「このブラックドレスにゴツめのブーツとかどう? 可愛いと思うけど」
「う、う、……か、可愛いですけど……もっと露出低めで……。さすがに無理です」
確かにアロイスの言う組み合わせは、スーパーモデルが着たらさぞ格好いいのだろう。
だが香澄は日本人で、加えてごく平均的な身長だ。
顔ものっぺりとしている上、オフィス用の薄化粧なのでドレスにまったく合わない。
せめてスモーキーメイクでもしていれば格好がつくかもしれないが、何もかも準備不足だ。
加えて現在は昼間で、特別な場でもないのにこのミニドレスを着るのは躊躇われる。
両手を胸の前でブンブンと、残像ができるほど振っている香澄を見て、アロイスは「えー?」と不服げに唇を尖らせる。
「一般的な布面積でお願いします。日本的な!」
「ちぇー」
アロイスはハンガーを戻し、もう少し物色して、提案しては断られるという事を繰り返す。
「あっはは、アロなにやってんの」
そこに店内チェックを終わらせたクラウスが戻り、ぶーたれてる兄を笑う。
「カスミの注文が細かくてー」
わざとらしく言われ、香澄としても肩身が狭い。
「日本の女の子って露出嫌がるよねー」
今度はクラウスが服を選び始め、「この辺りじゃない?」と一着のワンピースを選ぶ。
「あ、これなら……」
クラウスが選んだのは、ノースリーブの膝丈ワンピースだ。
首元から胸元まで美しいレースがあり、胸元からは光沢のある布地が続いている。
Aラインになったスカートはボックスプリーツになっていて、プリーツの内側はレースになっているデザインだ。
「OK? じゃあ、他に合う靴とアクセ探そっか」
「えぇ!?」
CEPに関わっていて、うっすらとハイブランドのワンピースと言えば二十万から五十万ほどするのは分かっている。
それだけでも胃が痛いのに、十万近くはする靴に、アクセサリーともなれば、ジュエリーがつけばポンと一つゼロが増える。
「……ぐぅ……」
本当に胃が痛くなってきた気がして、香澄はうめく。
「まーまー、カスミに買わせるつもりなんてないから、着せ替え人形になっといて」
双子はかるーく言い、他のアイテムについての話し合いを始める。
おまけに店内にいる客や、セールスアソシエイトたちからの視線がつらく、香澄のメンタルライフはグングン減っていた。
問答無用で着替えさせられたあと、知らない内に予約されていた美容室でサッとヘアメイクを整えられる。
香澄が色々とされている間、アロイスが「チョコ好き?」と尋ねてくる。
「はい、大好きです!」
「OK!」
ニカッと笑ったアロイスは、ヒラリと手を振って店の外に出て行った。
(ん?)
不思議に思ったが、そのあとクラウスに話し掛けられて意識を彼に向ける。
施術が終わる頃にはアロイスが戻っていたが、その手にはフランスの高級チョコレートブランドの茶色いショッパーがあった。
焦げ茶色のショッパーには金色の文字でブランド名が書かれ、大きく〝C〟とロゴも刻まれている。
「これ、カスミ用のお土産ね。俺たちもよく食べてるけど、んまいよ」
「あ、ありがとうございます……」
チラッと中を見ると、お馴染みのオレンジの箱が入っている。
(うう……、しかも一番大きいやつ)
香澄は佑にもチョコレート好きを公言していた。
そんな彼女に対し、佑がチョコレートをプレゼントしないはずがない。
生まれて初めて食べた『ラ・シャトー・ドゥ・ショコラ』は本当に美味しくて、一粒一粒味わっては感動し、口に甘さが残らない上品さに感動し……と、感動の嵐だった。
百面相をしながらチョコレートを食べる香澄を見て佑は面白がり、「ここもオススメだよ」と一週間に一、二回ぐらいの頻度で高級チョコレートをプレゼントしだした。
どれも美味しいが、特に香澄が「また食べたい」と思った物の一つが、この『ラ・シャトー・ドゥ・ショコラ』だ。
オンラインショップを確認してみて、佑がプレゼントしてくれた一番沢山入っている物が、一万円を超えると知って目が飛び出るかと思った。
(オイシイ……。ウレシイ……。デモタカイ……)
心の中でカタコトになった香澄は、プルプル震える手でショッパーを受け取ろうとする。
「あ、荷物は持つから安心して? 帰り際に渡すよ」
「はい……」
「さて、スイーツ食べにいこっか。行きたい店あるんだ」
「はい」
履き慣れないパンプスで緊張して歩いていると、当然という顔で双子が左右からエスコートの腕を出してくる。
けれど佑がいる手前、よその男性の腕を借りるなどできない。
たとえそれが西欧では男性のスマートな行為とされていても、日本人の香澄には心理的抵抗がある。
「頑なだなー」
「ホントに」
左右からステレオのようにブーブー言われながら、香澄は周囲に注目されながら、また車に乗るのだった。
車で十分もしないうちに、南青山に着く。
着いたのは『CITRUS』と店の前に店名のロゴのある、カフェだ。
「カスミって、レモンのスイーツ好きなんでしょ?」
「えっ? え? そうですが、どこ情報?」
食の好みについて隠していないが、双子にはそこまで詳しく言っていないはずだ。
「ミオにチョコ餌付けしたら、色々教えてくれたよ」
(あっあー……。澪さん……)
頭にポン、と浮かんだのは、高級チョコをモグモグしながらピースしている澪だ。
(いや、別に秘密じゃないからいいんだけど……)
いいのだが、こうやって何でもプレゼント、ご馳走してくれる事になるので、非情に申し訳ない。
店内に入るとカウンターとキッチンが見え、どうやら一階でオーダーしてから二階で食べる仕組みらしい。
内装はペンダントライトの照明に、ウッド調のテーブルセットと、ナチュラルな印象だ。
シェフやスタッフは全員フランス人らしく、店内にはフレンチポップスがBGMに流れていた。
「ここ、ヴィーガンメニューも多くあるけど、カスミの好きなレモンタルトがあるから、食べてみ」
「スポンジとかクリームとか、余計な物のないのが好きなんでしょ?」
「は、はい……」
澪に話した事がそのまま伝わっていて、ほんの少し恐怖すら感じる。
双子はキッシュを頼み、カスミはレモンタルトと、どうせなのでレモネードを頼んだ。
席についてようやく食べる事になるが、顔のいい双子を連れているとやはり注目される。
(しんどい……)
「あのイケメン双子にエスコートされて、ブランド服に着られてる芋っぽい女は何なの?」と、嘲笑する声が聞こえてきそうだ。
生ぬるく微笑んだ香澄は、「いただきます」と手を合わせ、まずはレモネードを飲む。
「んン!」
レモンの酸っぱさを存分に生かし、甘すぎないレモネードに思わず声が漏れる。
そして肝心のレモンタルトは、実に香澄が理想とする姿をしている。
タルト生地がある他は、余計なものが一切ない。
上にフルーツソースや果実もないし、レモンクリーム――というにはハードなテクスチャーの本体があるのみだ。
実に味、素材で勝負という感じが出ていて潔い。
(いざ、実食)
心の中で呟き、香澄はフォークを入れる。
プルリとした部分のみをすくって口に入れると、まさに理想のレモンタルトの味がした。
スイーツ、ケーキ、タルトという単語から連想される余計な甘さがなく、シンプルにレモンの酸っぱさと微かな甘さが絶妙なバランスで味わえる。
「んン~……」
唸りながら、香澄は二口、三口とフォークを進めていく。
記念写真を撮るのも忘れ、あっという間に完食してしまった。
「美味しかった! ご馳走様でした!」
パン、と胸の前で手を合わせた香澄を見て、双子が拍手する。
「あっ、いや、その。ありがとうございます。ご馳走様でした」
頭を下げる香澄を見て、双子がケラケラ笑う。
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今回出てきた二つは実食済みですが、機会があればぜひ。(個人の好みがあります)
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