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第四部・婚約 編
双子との会話
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「あはは! 相変わらずでっけぇ家!」
「これに今まで一人で住んでたんだろ? バッカみてぇ!」
「サッカーチームぐらい子供作るつもりかよ!」
佑の家に入るなり、双子が大ウケする。
(わぁ……)
この素晴らしい豪邸をここまでコケにする人物も珍しく、香澄は引き気味で爆笑している双子を見る。
「追い出すぞ?」
にっこり笑っている佑も怖い。
「ウソウソ! 結構なお宅でございます」
「おじゃましまーす!」
何も言われていないが、双子は用意されてあったスリッパに足を入れ、中に入る。
佑に背中をトンと押され、香澄も中に入る事にした。
「先にお前らの部屋を教えておく」
「ういー」
佑が先に階段を上り始め、双子がついていく。
「カスミの部屋はどこ?」
「俺と同じ二階だ。因みに俺と一緒に寝てるから、よからぬ事を考えていても無駄だぞ」
先手必勝と佑が言い、双子がブーイングをした。
階段で三階まで行くと、佑は離れの者から聞いていた部屋を双子に示す。
「洗面所とバスは部屋にあるものを使ってくれ。大きい風呂を使いたいなら一階のに入ってもいいが、どうせ明日する出掛けるから問題ないだろう」
「りょーかい」
「今日はあとは寝るだけだから、好きにしてくれ。ミニバーで済む範囲の飲み物は、部屋の冷蔵庫にある。夜食がほしいなら、一階にある冷蔵庫をあさってくれ」
「分かった!」
双子に一通り説明をしたあと、佑は香澄に「行こう」と声を掛けた。
「じゃあ……、おやすみなさい」
香澄はペコリと双子に頭を下げ、佑と共に二階に下りる。
「明日、ランチには何時に出るの?」
「そうだな、十一時半前には出られるようにしておきたい」
「ん、分かった。寝る準備してくるね」
佑に一度挨拶をし、香澄は自室で服を脱ぎ始めた。
初めは洗濯を人に任せるのに不安があったが、最近では滅多に顔を合わせないし……と思い、任せるようにしている。
斎藤は料理担当の家政婦で、掃除洗濯などは別の人が出入りしている。
普段着ている服はすっかり佑が買ってくれた物で統一され、上等な服を自分が下手に洗濯をして、駄目にしてしまうのを恐れた。
ネットでチラリと見た情報では、セレブはブランド物の服を一度しか着なく、汚したらそれっきり……などがある。
けれど佑も意識しているが、近年では持続可能な商品作りが推奨されているので、今を生きる自分たちに適用する内容とは思えない。
海外セレブなどは今のところ縁の遠い存在なので、自分は自分と思い、普通に洗濯をして何度も着る生活が当たり前と感じている。
(佑さんの服を見てても、いつもシンプルなのだから同じかは分からないけど、割と気に入ったのを何度も着てる感じだしなぁ……)
脱衣所で服を全部脱いでしまったあと、髪を纏めてメイク落としをする。
ポイントリムーバーと、こっくりとしたクリームテクスチャーのメイク落としで丁寧に顔をマッサージしたあと、SNSの美容アカウントを見ていいらしいと買った、目元専用の美容液入り泡洗顔料を使う。
目元は特にアイシャドウやマスカラが繊細な場所についてしまうので、優しい泡で包み込むように洗うといいと紹介されてあった。
札幌時代、目蓋が痒くて皮膚科に行った時、馴染みの先生に念入りにメイクを落とす事を推奨された。
医師いわく、目元をきちんと洗浄できていないと、目の際にぷつんとイボのような形をした、ダニがついてしまうそうだ。
写真を見せてもらうと恐怖がわき、それから香澄はどれだけ疲れていても、メイク落としと洗顔はしっかりするようにしている。
(帰ったら自分でお風呂入れなくても、沸いてるって素晴らしい……)
水のペットボトルを持ってバスルームに入ると、香澄はかけ湯をして髪と体を洗ったあと、ゆったりと湯船に浸かる。
お湯には、ジョン・アルクールのローズのバスオイルを垂らした。
(なんか、同じ屋根の下に佑さん以外の人がいるって、緊張するな……)
まさかあり得ないだろうが、覗かれる危険性は……など考えてしまう。
(いやいや、私を覗きとか自意識過剰だ)
最近、佑の側にいるからか、香澄を定値以上に魅力があると思い込む人が増えている気がする。
成瀬たちも「社長が選んだ赤松さんなんだから、魅力たっぷりのいい子に決まってる」とハードルを上げるし、以前に手洗いで遭遇してからさほど話していないが、飯山たちからも「御劔社長が自らスカウトしたなら、相当のやり手」と思われいる可能性がある。
(飯山さんたち、怖いなぁ……。これでプライベートでも関わりがあるって知られたら、一気にこう……裏で話題が爆発しそう)
成瀬たちの性格から、彼女たちが自分たちの関係を口外するとは思えない。
彼女たちは自分たちで情報共有して楽しみたがる性格だが、あくまで〝内輪ネタ〟なのだと思う。
不必要な情報を外部に流し、最終的に自分たちが佑や香澄に責められたり、「成瀬さんたちから噂を聞いた」と言われたりするような、下手を打たない賢い人たちだ。
(まぁ、それはそれで成瀬さんたちを信じるとして……)
つくづく、人は属しているところ、一緒にいる人で周囲からの評価が変わる気がする。
(私自身は、何も変わってないのにな……)
仲良くしている学生時代からの友達だって、香澄が御劔佑と付き合っていると聞けば、見る目を変えるだろう。
それがどこか寂しく感じるものの、ある意味仕方がない現象なのだとは思う。
「そうじゃなくて……」
リラックスすると、思考が次々に脱線していく。
(アロイスさんとクラウスさん、佑さんが警戒しているほど悪い人じゃなさそうだけどな。確かに距離はちょっと近いかもだけど、海外の方ならそんなものだと思うし……)
香澄個人としては外国人の友人はいないのだが、飲食店勤務時代すすきので大勢の客と接してきた。
その中で、酒が入ったのも手伝ってかなりフレンドリーに感じる事は多々あった。
(まぁ、でも性格だよね。陽気な人っていう印象のラテン系の人でも、まじめな人はいるだろうし)
佑の親戚にドイツ人がいると知ってから、ネットでちょこちょことドイツ人の気質について調べていた。
一般的に勤勉でまじめと言われているが、日本人が全員空気を読み和を重んじるのではないのと同じで、例外も勿論いるだろう。
(何人だからこうっていうのはやめて、あくまでアロイスさん、クラウスさんとして見よう)
うん、と頷くと、香澄は浴室に持ち込んだ、鼻の角栓を洗浄する美顔器を当て始めた。
たっぷりと顔と体を保湿し、お気に入りの桃と洋梨の香りに包まれて洗面所を出たが、室内にいた人物に「えっ?」と声が漏れた。
Tシャツにスウェットパンツというリラックスな格好の双子が、いつの間にか部屋のソファに座っていたのだ。
「どっ…………、どうも……」
(距離感? バグってる?)
泊まらせてもらっているとはいえ、香澄は家主の私室に無断で入る感覚を持ち合わせていないため、頭の中が「?」で一杯になる。
(いや、海外ドラマとかでホームパーティーをしたら、その家丸ごと自由に使っちゃうシーンとかあったし……)
必死に自分を納得させようとする思考は、ある意味双子にとって都合がいいのかもしれない。
香澄がそのあと何か言う前に、双子は唇の前に指を立て、「しー」と声量を落とすよう言ってきた。
頷くと、双子の片割れが自分の隣をポンポンと叩いた。
因みに彼らも風呂に入ったようで、セットした髪が下りていてどちらがどちらか判別がつきにくい。
「寝る前にちょっと話そうよ」
「あ、はい……」
少し警戒して座ったが、ぴったりと隣にくっつかれる事はなく、普通の距離感を保ってくれている。
「ざっくりとしたナレソメはオーマから聞いたけど、随分ピンポイントだね?」
「は、はい……。本当に偶然で……。ありがたい事です」
向かいに座っている片割れは、ゆったりと脚を組みリラックスしている。
他人の家だというのにこの寛ぎようは、天性のものもあるかもしれない。
「カスミはタスクのどんな所が好きなの?」
ズバッと核心を突かれ、香澄は目を瞬かせる。
それはアンネたちにも聞かれなかった事で、言われてみれば確かに……と思った。
「まず、優しい……所です」
「ん~、月並みだね」
素直に答えたのだが、スパッと切り捨てられて「ぐ……」と言葉に詰まる。
(確かに月並みだ……。その辺にある動機じゃ、納得してもらえない)
それから、香澄は必死に佑の好きな所を考えた。
「これに今まで一人で住んでたんだろ? バッカみてぇ!」
「サッカーチームぐらい子供作るつもりかよ!」
佑の家に入るなり、双子が大ウケする。
(わぁ……)
この素晴らしい豪邸をここまでコケにする人物も珍しく、香澄は引き気味で爆笑している双子を見る。
「追い出すぞ?」
にっこり笑っている佑も怖い。
「ウソウソ! 結構なお宅でございます」
「おじゃましまーす!」
何も言われていないが、双子は用意されてあったスリッパに足を入れ、中に入る。
佑に背中をトンと押され、香澄も中に入る事にした。
「先にお前らの部屋を教えておく」
「ういー」
佑が先に階段を上り始め、双子がついていく。
「カスミの部屋はどこ?」
「俺と同じ二階だ。因みに俺と一緒に寝てるから、よからぬ事を考えていても無駄だぞ」
先手必勝と佑が言い、双子がブーイングをした。
階段で三階まで行くと、佑は離れの者から聞いていた部屋を双子に示す。
「洗面所とバスは部屋にあるものを使ってくれ。大きい風呂を使いたいなら一階のに入ってもいいが、どうせ明日する出掛けるから問題ないだろう」
「りょーかい」
「今日はあとは寝るだけだから、好きにしてくれ。ミニバーで済む範囲の飲み物は、部屋の冷蔵庫にある。夜食がほしいなら、一階にある冷蔵庫をあさってくれ」
「分かった!」
双子に一通り説明をしたあと、佑は香澄に「行こう」と声を掛けた。
「じゃあ……、おやすみなさい」
香澄はペコリと双子に頭を下げ、佑と共に二階に下りる。
「明日、ランチには何時に出るの?」
「そうだな、十一時半前には出られるようにしておきたい」
「ん、分かった。寝る準備してくるね」
佑に一度挨拶をし、香澄は自室で服を脱ぎ始めた。
初めは洗濯を人に任せるのに不安があったが、最近では滅多に顔を合わせないし……と思い、任せるようにしている。
斎藤は料理担当の家政婦で、掃除洗濯などは別の人が出入りしている。
普段着ている服はすっかり佑が買ってくれた物で統一され、上等な服を自分が下手に洗濯をして、駄目にしてしまうのを恐れた。
ネットでチラリと見た情報では、セレブはブランド物の服を一度しか着なく、汚したらそれっきり……などがある。
けれど佑も意識しているが、近年では持続可能な商品作りが推奨されているので、今を生きる自分たちに適用する内容とは思えない。
海外セレブなどは今のところ縁の遠い存在なので、自分は自分と思い、普通に洗濯をして何度も着る生活が当たり前と感じている。
(佑さんの服を見てても、いつもシンプルなのだから同じかは分からないけど、割と気に入ったのを何度も着てる感じだしなぁ……)
脱衣所で服を全部脱いでしまったあと、髪を纏めてメイク落としをする。
ポイントリムーバーと、こっくりとしたクリームテクスチャーのメイク落としで丁寧に顔をマッサージしたあと、SNSの美容アカウントを見ていいらしいと買った、目元専用の美容液入り泡洗顔料を使う。
目元は特にアイシャドウやマスカラが繊細な場所についてしまうので、優しい泡で包み込むように洗うといいと紹介されてあった。
札幌時代、目蓋が痒くて皮膚科に行った時、馴染みの先生に念入りにメイクを落とす事を推奨された。
医師いわく、目元をきちんと洗浄できていないと、目の際にぷつんとイボのような形をした、ダニがついてしまうそうだ。
写真を見せてもらうと恐怖がわき、それから香澄はどれだけ疲れていても、メイク落としと洗顔はしっかりするようにしている。
(帰ったら自分でお風呂入れなくても、沸いてるって素晴らしい……)
水のペットボトルを持ってバスルームに入ると、香澄はかけ湯をして髪と体を洗ったあと、ゆったりと湯船に浸かる。
お湯には、ジョン・アルクールのローズのバスオイルを垂らした。
(なんか、同じ屋根の下に佑さん以外の人がいるって、緊張するな……)
まさかあり得ないだろうが、覗かれる危険性は……など考えてしまう。
(いやいや、私を覗きとか自意識過剰だ)
最近、佑の側にいるからか、香澄を定値以上に魅力があると思い込む人が増えている気がする。
成瀬たちも「社長が選んだ赤松さんなんだから、魅力たっぷりのいい子に決まってる」とハードルを上げるし、以前に手洗いで遭遇してからさほど話していないが、飯山たちからも「御劔社長が自らスカウトしたなら、相当のやり手」と思われいる可能性がある。
(飯山さんたち、怖いなぁ……。これでプライベートでも関わりがあるって知られたら、一気にこう……裏で話題が爆発しそう)
成瀬たちの性格から、彼女たちが自分たちの関係を口外するとは思えない。
彼女たちは自分たちで情報共有して楽しみたがる性格だが、あくまで〝内輪ネタ〟なのだと思う。
不必要な情報を外部に流し、最終的に自分たちが佑や香澄に責められたり、「成瀬さんたちから噂を聞いた」と言われたりするような、下手を打たない賢い人たちだ。
(まぁ、それはそれで成瀬さんたちを信じるとして……)
つくづく、人は属しているところ、一緒にいる人で周囲からの評価が変わる気がする。
(私自身は、何も変わってないのにな……)
仲良くしている学生時代からの友達だって、香澄が御劔佑と付き合っていると聞けば、見る目を変えるだろう。
それがどこか寂しく感じるものの、ある意味仕方がない現象なのだとは思う。
「そうじゃなくて……」
リラックスすると、思考が次々に脱線していく。
(アロイスさんとクラウスさん、佑さんが警戒しているほど悪い人じゃなさそうだけどな。確かに距離はちょっと近いかもだけど、海外の方ならそんなものだと思うし……)
香澄個人としては外国人の友人はいないのだが、飲食店勤務時代すすきので大勢の客と接してきた。
その中で、酒が入ったのも手伝ってかなりフレンドリーに感じる事は多々あった。
(まぁ、でも性格だよね。陽気な人っていう印象のラテン系の人でも、まじめな人はいるだろうし)
佑の親戚にドイツ人がいると知ってから、ネットでちょこちょことドイツ人の気質について調べていた。
一般的に勤勉でまじめと言われているが、日本人が全員空気を読み和を重んじるのではないのと同じで、例外も勿論いるだろう。
(何人だからこうっていうのはやめて、あくまでアロイスさん、クラウスさんとして見よう)
うん、と頷くと、香澄は浴室に持ち込んだ、鼻の角栓を洗浄する美顔器を当て始めた。
たっぷりと顔と体を保湿し、お気に入りの桃と洋梨の香りに包まれて洗面所を出たが、室内にいた人物に「えっ?」と声が漏れた。
Tシャツにスウェットパンツというリラックスな格好の双子が、いつの間にか部屋のソファに座っていたのだ。
「どっ…………、どうも……」
(距離感? バグってる?)
泊まらせてもらっているとはいえ、香澄は家主の私室に無断で入る感覚を持ち合わせていないため、頭の中が「?」で一杯になる。
(いや、海外ドラマとかでホームパーティーをしたら、その家丸ごと自由に使っちゃうシーンとかあったし……)
必死に自分を納得させようとする思考は、ある意味双子にとって都合がいいのかもしれない。
香澄がそのあと何か言う前に、双子は唇の前に指を立て、「しー」と声量を落とすよう言ってきた。
頷くと、双子の片割れが自分の隣をポンポンと叩いた。
因みに彼らも風呂に入ったようで、セットした髪が下りていてどちらがどちらか判別がつきにくい。
「寝る前にちょっと話そうよ」
「あ、はい……」
少し警戒して座ったが、ぴったりと隣にくっつかれる事はなく、普通の距離感を保ってくれている。
「ざっくりとしたナレソメはオーマから聞いたけど、随分ピンポイントだね?」
「は、はい……。本当に偶然で……。ありがたい事です」
向かいに座っている片割れは、ゆったりと脚を組みリラックスしている。
他人の家だというのにこの寛ぎようは、天性のものもあるかもしれない。
「カスミはタスクのどんな所が好きなの?」
ズバッと核心を突かれ、香澄は目を瞬かせる。
それはアンネたちにも聞かれなかった事で、言われてみれば確かに……と思った。
「まず、優しい……所です」
「ん~、月並みだね」
素直に答えたのだが、スパッと切り捨てられて「ぐ……」と言葉に詰まる。
(確かに月並みだ……。その辺にある動機じゃ、納得してもらえない)
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