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第二部・お見合い 編
TMタワー1
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四十階にはできた服でファッションショーをするためのランウェイやスタジオもあり、本格的な照明器具なども揃っているらしい。
「会社は主にデザインを決めてミシンや手縫いで服を作る〝方向性〟を決める所です。Chief Everyシリーズの服は全国のショップに向けて数を確保しなければいけないので、本社でデザインや完成品を作ったあと、別の場所で服を生産する事になります」
「ほぉ……」
確かにレディースファッションの服ならともかく、ビジネス向けの商品だと数を多く確保する事は大切だろう。
説明を受けながらオフィスフロアを案内してもらい、フロアの移動はエスカレーターだ。
部署間の移動、連絡がしやすいように、オフィスフロアは基本的にエスカレーターで繋がっている。
エレベーターだと待ち時間が煩わしいので、使うのは最低限出勤と退勤、昼休み、外回りの時だけにしたいのだとか。
「基本的にガラスパーテーションだからか、オフィスがとてもオープンに見えますね」
「でしょう? 僕もそう思います。耐久性が問題とされていますが、強化ガラスを使っているので、割れたという報告は今まで聞いていません」
「なるほど……」
最初の設備にしっかり投資しておくと、あとから余計な出費がないという図式に、香澄は感心する。
言われて最近では服も家具なども安価に買い換えられる物が流行っていたが、昔は一生ものを……という時代だった。
もっとも、昨今サスティナビリティが提唱されているので、今後はまた商品路線が変わっていきそうだが。
『M-tec』のあるフロアには『M-tec』の立体ロゴが壁にあり、その上にあるCEPのあるフロアに上がると、壁に大きくCEPの立体ロゴがあった。
廊下を歩いてガラスパーテーション越しに見学させてもらっていると、トルソーに着せられた服はどれも素敵だ。
沢山の布地やボタン、ファスナーなど服作りに必要な物が沢山見え、見るも細かい花柄の刺繍をチクチク縫っている人もいた。
「凄いですね……」
「基本的に主なテーマやモチーフ、デザインはChief Every、CEP別々に決めて行きますが、服をモデルに着せて歩かせた時の見た目などは、お互い意見を言い合っていますね」
「なるほど、それは便利ですね」
「それぞれ予算や購買層が違いますから、意見をそのまま取り入れるという事はありませんが、プロの目から見ての客観的な意見は、お互いためになっています」
「確かに」
そのあと、四十一階まで上がった。
「わぁ……」
それまでの〝オフィス〟という雰囲気とは打って変わって、ふんだんに観葉植物が置かれているので、一瞬別世界に来たかと思った。
エレベーターホールには公園のように各所にベンチがあり、自動販売機も置かれてある。
奥には喫煙スペースがあり、今時珍しい公衆電話のブースもある。
「これ、便利なんですよね。スマホ忘れちゃった時」
「ですよね。最近の新入社員とかは、使い方が分からないっていう人もいますが」
「えええ……!」
香澄は思わず声を上げる。
とはいえ、香澄もスマホに慣れ親しんだ世代なので、公衆電話には滅多に世話にならない。
小学生の時に祖母が使っているのを見て、香澄も「使ってみたい!」と言って教えてもらった。
以来、公衆電話の使い方は当たり前に知っているつもりだったのだが、意外と若年層に知られていないのを時々聞く。
「一番奥に社員食堂があります。そこに通じる廊下がこのまっすぐな廊下なんですが、その両側に、ジムとシャワー室、更衣室、仮眠室がありますね。向かって右手側、手前に更衣室、シャワー室があります」
言われて案内されると、まず入り口で男女に分かれていて、「今は誰もいませんから」と男性側を案内された。
鍵のついたロッカーがズラリと並び、鏡や体重計、洗面台に手洗いなどがある奥に、シャワーボックスが左右に続いていた。
「社員は大勢いますが、皆して一気に使う事はないだろうという事で、ボックスの数は三十です」
「それでも、大きなスポーツジム並みですね」
「確かに。立派な設備だと思いますよ。あのドアはサウナです」
何から何までそろっていて、香澄は何回も頷いていた。
一度廊下に出て、今度は反対側のスペースに入ると、まるでホテルに入ったかのような内装になる。
入ってすぐはソファセットや自動販売機があり、その奥は寝るための部屋のドアが幾つも続いている。
「ここにある鍵を持って、鍵の部屋番号に行き、内側から締めるというスタイルです」
井内は一番近くの部屋の鍵をボードから取り、鍵を開ける。
「わぁ……」
仮眠室というには随分立派なベッドがあり、着ている物を掛けるための小さなクローゼットもある。
勿論、枕元には電源やUSBポートもある。
「この棚にはリネン類が入っています。基本的に使ったあとは自分で枕カバーや布団カバー、シーツを剥いでこのボックスに入れます。張り替えは掃除スタッフさんがやってくれます。そのために、張り替えが必要です、というドアノブサインを掛けておきます」
室内にはホテルなどで清掃が必要な際、使われるドアノブサインがある。
「まぁ、このサインが掛かってても、自分でシーツとか張っちゃう人いますけれどね」
「そこまで、泊まり込みが必要な仕事なんですか? ホワイト企業だって聞いていましたが」
非難したい訳ではないが、ホワイト企業と言えば定時には帰宅して……というイメージがある。
「一般社員は定時で帰りますね。ただ、繁忙期の制作スタッフやデザイナーは、家に帰るのも惜しんで案を出し合ったりしています。その際、帰るのが面倒だから泊まってしまうという社員もいます。勿論、時間外労働の上限に引っかからない程度に、ですが」
「確かに、罰則受けちゃいますものね」
「それでも、帰宅してからオンラインで会議したりしているので、うちのデザイナーたちは仕事が大好きですよ。他にも、天候が悪くて帰れなさそうな時に、ホテル代わりにする社員もいます」
「それは便利ですね!」
仮眠室を出たあと、左側の壁に風景画が掛かっているのを横に、廊下をまっすぐ進んでいく。
「ジムではマシンで音が出ますが、防音処理が施されているのでバッチリです」
「おお、さすが」
やがて前方に見えていたガラスの外壁の明るさが届くようになり、広々とした社員食堂に至った。
「すご……い」
明るく広々とした社員食堂は、ショッピングモールのフードコートのようになっている。
すでに厨房スタッフが仕込みをしていて、美味しそうな匂いも漂っていた。
「和洋中イタリアンのコーナーがあって、あっちはラーメンですね。和のコーナーでそばうどんが出ますし、イタリアンではパスタが沢山ありますよ」
「おおお……」
目を輝かせている香澄を見て、井内はクスクス笑う。
「毎月イチオシメニューが変わりますから、要チェックです。デザートも充実していますよ」
「凄い! サンアド入ってる」
香澄が見たのは、サンアドバンスという有名コーヒーショップだ。
「女性人気が高いですし、男性社員もよくコーヒーを飲みますからね。社食にあると便利と社長も思われたのでしょう。一応、TMタワーの商業施設内にも店舗があるんですけどね。ここは一般の方が知らない店舗という事で」
「なるほど……」
「あっちの隅には、コンビニがあります。一応、ビルの敷地内にある地上にも何店舗かありますが、この階数だと一回一回外に出るのも億劫なのでどうせならオフィス内に……との事らしいです。食材やコンビニ商品の搬入エレベーターは別途ありますが、そちらには社員は乗れない事になっています」
「整ってますねぇ……」
フロアの向こうに見えるコンビニは、大手コンビニチェーン店だ。
独特の色合いを見ただけで、確かな信頼感がある。
「フロアが広いので、両側の奥にお手洗いがありますし、広くて綺麗ですよ」
「お手洗いが綺麗なのは嬉しいです」
「さて、じゃあ一気に下まで言って、商業施設を見ましょうか」
井内が踵を返し、今度はエレベーターを呼び出した。
ほどなくしてゴンドラが着き、二人が乗り込む。
「十一階から三十二階までは、一般の方のマンションですね。一階にある社員用の入り口とは別に、住人用の入り口やエレベーターがあるんです。コンシェルジュも常駐していますね。地下に立体駐車場があるので、住人はそちらを使っています」
「あぁ……、なるほど! 地下に立体なら、幾らでも車が入りますね」
「そうです。商業施設にいらっしゃるお客様のマイカーもありますから、かなりの収容具合ですよ。六本木のビル張りに、地下駐車場スペースが深いですから」
「札幌駅直結の百貨店も、地下駐車場が四階くらいまであるんです」
パッと地元の話をすると、井内が笑った。
「今度、札幌の話を聞かせてください」
「はい!」
やがてゴンドラは一階に着き、二人はオフィススペースから一度外に出る。
「会社は主にデザインを決めてミシンや手縫いで服を作る〝方向性〟を決める所です。Chief Everyシリーズの服は全国のショップに向けて数を確保しなければいけないので、本社でデザインや完成品を作ったあと、別の場所で服を生産する事になります」
「ほぉ……」
確かにレディースファッションの服ならともかく、ビジネス向けの商品だと数を多く確保する事は大切だろう。
説明を受けながらオフィスフロアを案内してもらい、フロアの移動はエスカレーターだ。
部署間の移動、連絡がしやすいように、オフィスフロアは基本的にエスカレーターで繋がっている。
エレベーターだと待ち時間が煩わしいので、使うのは最低限出勤と退勤、昼休み、外回りの時だけにしたいのだとか。
「基本的にガラスパーテーションだからか、オフィスがとてもオープンに見えますね」
「でしょう? 僕もそう思います。耐久性が問題とされていますが、強化ガラスを使っているので、割れたという報告は今まで聞いていません」
「なるほど……」
最初の設備にしっかり投資しておくと、あとから余計な出費がないという図式に、香澄は感心する。
言われて最近では服も家具なども安価に買い換えられる物が流行っていたが、昔は一生ものを……という時代だった。
もっとも、昨今サスティナビリティが提唱されているので、今後はまた商品路線が変わっていきそうだが。
『M-tec』のあるフロアには『M-tec』の立体ロゴが壁にあり、その上にあるCEPのあるフロアに上がると、壁に大きくCEPの立体ロゴがあった。
廊下を歩いてガラスパーテーション越しに見学させてもらっていると、トルソーに着せられた服はどれも素敵だ。
沢山の布地やボタン、ファスナーなど服作りに必要な物が沢山見え、見るも細かい花柄の刺繍をチクチク縫っている人もいた。
「凄いですね……」
「基本的に主なテーマやモチーフ、デザインはChief Every、CEP別々に決めて行きますが、服をモデルに着せて歩かせた時の見た目などは、お互い意見を言い合っていますね」
「なるほど、それは便利ですね」
「それぞれ予算や購買層が違いますから、意見をそのまま取り入れるという事はありませんが、プロの目から見ての客観的な意見は、お互いためになっています」
「確かに」
そのあと、四十一階まで上がった。
「わぁ……」
それまでの〝オフィス〟という雰囲気とは打って変わって、ふんだんに観葉植物が置かれているので、一瞬別世界に来たかと思った。
エレベーターホールには公園のように各所にベンチがあり、自動販売機も置かれてある。
奥には喫煙スペースがあり、今時珍しい公衆電話のブースもある。
「これ、便利なんですよね。スマホ忘れちゃった時」
「ですよね。最近の新入社員とかは、使い方が分からないっていう人もいますが」
「えええ……!」
香澄は思わず声を上げる。
とはいえ、香澄もスマホに慣れ親しんだ世代なので、公衆電話には滅多に世話にならない。
小学生の時に祖母が使っているのを見て、香澄も「使ってみたい!」と言って教えてもらった。
以来、公衆電話の使い方は当たり前に知っているつもりだったのだが、意外と若年層に知られていないのを時々聞く。
「一番奥に社員食堂があります。そこに通じる廊下がこのまっすぐな廊下なんですが、その両側に、ジムとシャワー室、更衣室、仮眠室がありますね。向かって右手側、手前に更衣室、シャワー室があります」
言われて案内されると、まず入り口で男女に分かれていて、「今は誰もいませんから」と男性側を案内された。
鍵のついたロッカーがズラリと並び、鏡や体重計、洗面台に手洗いなどがある奥に、シャワーボックスが左右に続いていた。
「社員は大勢いますが、皆して一気に使う事はないだろうという事で、ボックスの数は三十です」
「それでも、大きなスポーツジム並みですね」
「確かに。立派な設備だと思いますよ。あのドアはサウナです」
何から何までそろっていて、香澄は何回も頷いていた。
一度廊下に出て、今度は反対側のスペースに入ると、まるでホテルに入ったかのような内装になる。
入ってすぐはソファセットや自動販売機があり、その奥は寝るための部屋のドアが幾つも続いている。
「ここにある鍵を持って、鍵の部屋番号に行き、内側から締めるというスタイルです」
井内は一番近くの部屋の鍵をボードから取り、鍵を開ける。
「わぁ……」
仮眠室というには随分立派なベッドがあり、着ている物を掛けるための小さなクローゼットもある。
勿論、枕元には電源やUSBポートもある。
「この棚にはリネン類が入っています。基本的に使ったあとは自分で枕カバーや布団カバー、シーツを剥いでこのボックスに入れます。張り替えは掃除スタッフさんがやってくれます。そのために、張り替えが必要です、というドアノブサインを掛けておきます」
室内にはホテルなどで清掃が必要な際、使われるドアノブサインがある。
「まぁ、このサインが掛かってても、自分でシーツとか張っちゃう人いますけれどね」
「そこまで、泊まり込みが必要な仕事なんですか? ホワイト企業だって聞いていましたが」
非難したい訳ではないが、ホワイト企業と言えば定時には帰宅して……というイメージがある。
「一般社員は定時で帰りますね。ただ、繁忙期の制作スタッフやデザイナーは、家に帰るのも惜しんで案を出し合ったりしています。その際、帰るのが面倒だから泊まってしまうという社員もいます。勿論、時間外労働の上限に引っかからない程度に、ですが」
「確かに、罰則受けちゃいますものね」
「それでも、帰宅してからオンラインで会議したりしているので、うちのデザイナーたちは仕事が大好きですよ。他にも、天候が悪くて帰れなさそうな時に、ホテル代わりにする社員もいます」
「それは便利ですね!」
仮眠室を出たあと、左側の壁に風景画が掛かっているのを横に、廊下をまっすぐ進んでいく。
「ジムではマシンで音が出ますが、防音処理が施されているのでバッチリです」
「おお、さすが」
やがて前方に見えていたガラスの外壁の明るさが届くようになり、広々とした社員食堂に至った。
「すご……い」
明るく広々とした社員食堂は、ショッピングモールのフードコートのようになっている。
すでに厨房スタッフが仕込みをしていて、美味しそうな匂いも漂っていた。
「和洋中イタリアンのコーナーがあって、あっちはラーメンですね。和のコーナーでそばうどんが出ますし、イタリアンではパスタが沢山ありますよ」
「おおお……」
目を輝かせている香澄を見て、井内はクスクス笑う。
「毎月イチオシメニューが変わりますから、要チェックです。デザートも充実していますよ」
「凄い! サンアド入ってる」
香澄が見たのは、サンアドバンスという有名コーヒーショップだ。
「女性人気が高いですし、男性社員もよくコーヒーを飲みますからね。社食にあると便利と社長も思われたのでしょう。一応、TMタワーの商業施設内にも店舗があるんですけどね。ここは一般の方が知らない店舗という事で」
「なるほど……」
「あっちの隅には、コンビニがあります。一応、ビルの敷地内にある地上にも何店舗かありますが、この階数だと一回一回外に出るのも億劫なのでどうせならオフィス内に……との事らしいです。食材やコンビニ商品の搬入エレベーターは別途ありますが、そちらには社員は乗れない事になっています」
「整ってますねぇ……」
フロアの向こうに見えるコンビニは、大手コンビニチェーン店だ。
独特の色合いを見ただけで、確かな信頼感がある。
「フロアが広いので、両側の奥にお手洗いがありますし、広くて綺麗ですよ」
「お手洗いが綺麗なのは嬉しいです」
「さて、じゃあ一気に下まで言って、商業施設を見ましょうか」
井内が踵を返し、今度はエレベーターを呼び出した。
ほどなくしてゴンドラが着き、二人が乗り込む。
「十一階から三十二階までは、一般の方のマンションですね。一階にある社員用の入り口とは別に、住人用の入り口やエレベーターがあるんです。コンシェルジュも常駐していますね。地下に立体駐車場があるので、住人はそちらを使っています」
「あぁ……、なるほど! 地下に立体なら、幾らでも車が入りますね」
「そうです。商業施設にいらっしゃるお客様のマイカーもありますから、かなりの収容具合ですよ。六本木のビル張りに、地下駐車場スペースが深いですから」
「札幌駅直結の百貨店も、地下駐車場が四階くらいまであるんです」
パッと地元の話をすると、井内が笑った。
「今度、札幌の話を聞かせてください」
「はい!」
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