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第二部・お見合い 編
第二部・序章1
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「ん……」
眠りの淵から意識が戻り、香澄は目を開ける。
見慣れないダークブラウンの天井が目に入って「あれ?」と思い、記憶をたぐりよせた。
(あ……!)
不意に佑に激しく求められたのを思い出し、寝ぼけながらも赤面する。
恐る恐る横を向くと、信じられない美形がこちらを向いて眠っていた。
(睫毛なっが……)
眠っていてもキリリとした顔つきで格好いいだなんて、天は何物も与えたのだと思う。
(お水飲みたい……)
渇きを覚えてモソモソと大きなベッドの中を移動すると、その振動で佑が目を覚ましたようだった。
「おはよう」
声を掛けられ、ビクッと肩が跳ねる。
「……お、おはよう……ございます……」
彼を振り向く事ができない。
下着は穿いていたものの、上半身は裸だ。
慌ててキャミソールを探そうとして、片手で胸元を押さえたままキョロキョロする。
「ああ、ごめん。これ、どうぞ」
佑が手を伸ばし、彼の側にあるベッドサイドに畳んであったキャミソールとタップパンツを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
香澄は彼に背中を向けたまま、モソモソとキャミソールを着る。
タップパンツも穿こうとした時、彼が声を掛けてきた。
「体は大丈夫?」
「う……、は、……はい……」
本当は疲れが残っていて、下半身は特に重たい気がする。
秘部は痛い訳ではないのだが、いまだ大きなモノが挟まっている感覚を覚えていた。
「洗面所はベッドの裏だよ。立てそう?」
「な、何とか……」
立ち上がり、香澄はゆっくりとベッドの枕元の壁裏の空間に入る。
照明は人感センサーで自動でつき、洗面所が明るくなった。
壁一面の大きな鏡があり、白い大理石の洗面台にはボウルが二つある。
必要な物はすべて収納されているらしく、パッと見た限り置いてある物はディフューザーとハンドソープのみだ。
(いい匂い……。どこのかな?)
爽やかなライムの香りがし、香澄は透明なディフューザーの瓶に顔を近付ける。
「ジョン……アルクール……?」
瓶には白地のラベルがあり、金縁で囲まれた中にはブランド名が印字されてあった。
ハンドソープも同じブランドの物の別の香りだ。
(そう言えば、家の中のあちこちに香り物があったな。上品な香りだったから、全然不快じゃなくて、心地よく過ごせてる)
場所により佑が思い描く香りがあるようで、すべて同じブランドの物ではなかった気がする。
それでも、これだけ広い屋敷のあちこちで、部屋のテーマに合わせて香りも選ぶというのは贅沢の極みの気がした。
(部屋面積が広いから、香り物を置いても臭くならないんだよなぁ……)
そんな事を思いながら、奥にある手洗いに入る。
気になるので流水音のスイッチを押して用を足す。
同じ空間には手を洗う水道や鏡、ティッシュなどもあった。
戻る途中、チラッとバスルームも覗いたが、こちらも主寝室に隣接しているだけあって、十分寛げる広さがある。
(すご……)
感心してから、別の事を考えてしまった。
(ベッドルームのすぐ横って……やっぱり〝そういう事〟を想定して作ってあるのかな? いや、でも今まで一人暮らしだったのに? 元カノと暮らしてた?)
考えて混乱し、あまり考えすぎてもドツボに嵌まってしまうのでやめた。
「ただいまです」
戻ると、佑はベッドのヘッドボードと枕を背に、タブレット端末を見ていた。
少し迷ってからベッドに乗り、腰から下を羽根布団に隠す。
「はい、水」
彼はベッドサイドに置いてあったペットボトル二本のうち、一本のキャップをパキリと開けて香澄に渡してくる。
「ありがとうございます」
(キャップ、開けてくれるんだな)
そんな何気ない気遣いに、女性扱いされていると感じて照れくさくなる。
(こうやって優しくするの、慣れてるのかな)
少しねじれた気持ちで思うものの、決して嫌ではない。
(健二くんはエッチが終わったあと、すぐに煙草吸ってたっけ。あれ、一仕事終わったっていう感じで嫌だったな)
元彼の事を思い出し、ついつい何でも比べるのは良くないと溜め息をつく。
「そうだ、洗面所のディフューザー、いい匂いでしたね。この家、あちこちに香りがありますけど、どこもいい匂い」
「良かった。気に入りの香りばかりだから、匂い物って合う合わないがあるし、少し気になってた」
「ジョン・アルクール? 初めて聞くブランドですが、いい匂いですね」
「特に気に入りのブランドで、俺、収集癖があるからコロンをコンプリートしてるんだ。洗面所の収納に並んでるから、試香してみて気に入った香りがあったら教えて」
「えっ、あ、はい……」
また買い与えられるのかとギクッとしたが、佑も了解しているようで苦く笑う。
「今度は、香澄が気に入った物だけにするよ」
「は、はい……」
「よく使う香りはあちこちに必ず置いてあるけど、他の収納部分には別のブランドの物を置いてある。嫌いじゃなかったら、あれこれ試してみて」
「分かりました」
返事をしたあと、佑はタブレット端末を脇に置いた。
「六時半ぐらいには斎藤さんが来る。それから朝食は七時から半の間。そのあと松井さんが家まで向かえに来て出社する」
「あ、はい」
スケジュールを言われ、香澄は気持ちを引き締める。
「松井さんが例の資料を持ってくるはずだから、時間を見て熟読しておいて」
「はい」
「すぐにすべて理解しようなんて思わなくていい。全体を把握するまで、時間を掛けていいから。大丈夫そうだなと思ったら出社して、そこから実践で学んでいけばいい」
「分かりました」
言われて壁時計を見ると、現在は六時過ぎだ。
「斎藤さん、早いんですね」
「その日によりだけど。俺が『朝食は昨日の残りを食べます』って伝えた日は、出勤が遅いよ。できたては美味しいけど、冷蔵庫にある物も無駄にしたくないし」
「そうですね」
こういう所は、セレブなのに素直に親近感を抱き、尊敬できる。
(本当に優良物件で、なんで今までフリーだったのか分からないな……)
彼の言葉を疑っている訳ではないけれど、つくづくそう思ってしまう。
「俺はちょっとシャワーを浴びてくるよ。香澄はゆっくりしていて」
「あ、じゃ、じゃあ、私も自分の部屋でシャワります」
「一緒に入らない?」
微笑まれ、香澄は両手を突き出して首と共にブンブンと振った。
「いっ、いえいえいえいえいえ……」
「ははっ、残念だ。そのうち、ね」
ポンポンと頭を撫でたあと、佑は自分の水をくーっと飲み干してベッドから下りた。
(わ……っ)
良質な筋肉に包まれた広い背中に、男性らしい引き締まった腰から尻のラインが見えてドキッとする。
下着一枚の姿で佑はごく自然に伸びをしてから、洗面所に向かっていった。
(私も……戻ろう)
いまだ高鳴る胸を押さえ、香澄はコソコソと足音を忍ばせて自分の部屋に戻った。
**
シャワーを浴びてスキニーにTシャツ、トレーナーに着替える頃には、階下に斎藤の気配を感じた。
「おはようございます」
リビングダイニングに入ってキッチンを見ると、すでに斎藤が忙しく働いていた。
「おはようございます、赤松さん」
「お手伝い、ありますか?」
「あら、ゆっくりしてください」
「いえいえ、まだ出勤日じゃないですし、手伝わせてください」
「そうですか? ありがとうございます」
佑は既にスーツに着替えていて、リビングに並べられた何社もの新聞に目を通していた。
「私たちのように雇われている者は、御劔さんがいかに手を煩わせず、ご自身のお仕事をできるかの補佐役です」
「はい。秘書もきっとそのような仕事だと思っています」
理解を示した香澄に、斎藤はテキパキと手を動かしながら微笑む。
「家政婦をやっていると、たまに言われるんですよ。『家事をやらない人のためにこき使われて、可哀想ですよね』って。そういう人は、時間や手間をお金で買うという発想が分からないのだと思います」
「そういう事言う人、いるんですね」
どんな仕事であっても理由があり、ニーズがあると思っている香澄は、少し引いてしまう。
眠りの淵から意識が戻り、香澄は目を開ける。
見慣れないダークブラウンの天井が目に入って「あれ?」と思い、記憶をたぐりよせた。
(あ……!)
不意に佑に激しく求められたのを思い出し、寝ぼけながらも赤面する。
恐る恐る横を向くと、信じられない美形がこちらを向いて眠っていた。
(睫毛なっが……)
眠っていてもキリリとした顔つきで格好いいだなんて、天は何物も与えたのだと思う。
(お水飲みたい……)
渇きを覚えてモソモソと大きなベッドの中を移動すると、その振動で佑が目を覚ましたようだった。
「おはよう」
声を掛けられ、ビクッと肩が跳ねる。
「……お、おはよう……ございます……」
彼を振り向く事ができない。
下着は穿いていたものの、上半身は裸だ。
慌ててキャミソールを探そうとして、片手で胸元を押さえたままキョロキョロする。
「ああ、ごめん。これ、どうぞ」
佑が手を伸ばし、彼の側にあるベッドサイドに畳んであったキャミソールとタップパンツを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
香澄は彼に背中を向けたまま、モソモソとキャミソールを着る。
タップパンツも穿こうとした時、彼が声を掛けてきた。
「体は大丈夫?」
「う……、は、……はい……」
本当は疲れが残っていて、下半身は特に重たい気がする。
秘部は痛い訳ではないのだが、いまだ大きなモノが挟まっている感覚を覚えていた。
「洗面所はベッドの裏だよ。立てそう?」
「な、何とか……」
立ち上がり、香澄はゆっくりとベッドの枕元の壁裏の空間に入る。
照明は人感センサーで自動でつき、洗面所が明るくなった。
壁一面の大きな鏡があり、白い大理石の洗面台にはボウルが二つある。
必要な物はすべて収納されているらしく、パッと見た限り置いてある物はディフューザーとハンドソープのみだ。
(いい匂い……。どこのかな?)
爽やかなライムの香りがし、香澄は透明なディフューザーの瓶に顔を近付ける。
「ジョン……アルクール……?」
瓶には白地のラベルがあり、金縁で囲まれた中にはブランド名が印字されてあった。
ハンドソープも同じブランドの物の別の香りだ。
(そう言えば、家の中のあちこちに香り物があったな。上品な香りだったから、全然不快じゃなくて、心地よく過ごせてる)
場所により佑が思い描く香りがあるようで、すべて同じブランドの物ではなかった気がする。
それでも、これだけ広い屋敷のあちこちで、部屋のテーマに合わせて香りも選ぶというのは贅沢の極みの気がした。
(部屋面積が広いから、香り物を置いても臭くならないんだよなぁ……)
そんな事を思いながら、奥にある手洗いに入る。
気になるので流水音のスイッチを押して用を足す。
同じ空間には手を洗う水道や鏡、ティッシュなどもあった。
戻る途中、チラッとバスルームも覗いたが、こちらも主寝室に隣接しているだけあって、十分寛げる広さがある。
(すご……)
感心してから、別の事を考えてしまった。
(ベッドルームのすぐ横って……やっぱり〝そういう事〟を想定して作ってあるのかな? いや、でも今まで一人暮らしだったのに? 元カノと暮らしてた?)
考えて混乱し、あまり考えすぎてもドツボに嵌まってしまうのでやめた。
「ただいまです」
戻ると、佑はベッドのヘッドボードと枕を背に、タブレット端末を見ていた。
少し迷ってからベッドに乗り、腰から下を羽根布団に隠す。
「はい、水」
彼はベッドサイドに置いてあったペットボトル二本のうち、一本のキャップをパキリと開けて香澄に渡してくる。
「ありがとうございます」
(キャップ、開けてくれるんだな)
そんな何気ない気遣いに、女性扱いされていると感じて照れくさくなる。
(こうやって優しくするの、慣れてるのかな)
少しねじれた気持ちで思うものの、決して嫌ではない。
(健二くんはエッチが終わったあと、すぐに煙草吸ってたっけ。あれ、一仕事終わったっていう感じで嫌だったな)
元彼の事を思い出し、ついつい何でも比べるのは良くないと溜め息をつく。
「そうだ、洗面所のディフューザー、いい匂いでしたね。この家、あちこちに香りがありますけど、どこもいい匂い」
「良かった。気に入りの香りばかりだから、匂い物って合う合わないがあるし、少し気になってた」
「ジョン・アルクール? 初めて聞くブランドですが、いい匂いですね」
「特に気に入りのブランドで、俺、収集癖があるからコロンをコンプリートしてるんだ。洗面所の収納に並んでるから、試香してみて気に入った香りがあったら教えて」
「えっ、あ、はい……」
また買い与えられるのかとギクッとしたが、佑も了解しているようで苦く笑う。
「今度は、香澄が気に入った物だけにするよ」
「は、はい……」
「よく使う香りはあちこちに必ず置いてあるけど、他の収納部分には別のブランドの物を置いてある。嫌いじゃなかったら、あれこれ試してみて」
「分かりました」
返事をしたあと、佑はタブレット端末を脇に置いた。
「六時半ぐらいには斎藤さんが来る。それから朝食は七時から半の間。そのあと松井さんが家まで向かえに来て出社する」
「あ、はい」
スケジュールを言われ、香澄は気持ちを引き締める。
「松井さんが例の資料を持ってくるはずだから、時間を見て熟読しておいて」
「はい」
「すぐにすべて理解しようなんて思わなくていい。全体を把握するまで、時間を掛けていいから。大丈夫そうだなと思ったら出社して、そこから実践で学んでいけばいい」
「分かりました」
言われて壁時計を見ると、現在は六時過ぎだ。
「斎藤さん、早いんですね」
「その日によりだけど。俺が『朝食は昨日の残りを食べます』って伝えた日は、出勤が遅いよ。できたては美味しいけど、冷蔵庫にある物も無駄にしたくないし」
「そうですね」
こういう所は、セレブなのに素直に親近感を抱き、尊敬できる。
(本当に優良物件で、なんで今までフリーだったのか分からないな……)
彼の言葉を疑っている訳ではないけれど、つくづくそう思ってしまう。
「俺はちょっとシャワーを浴びてくるよ。香澄はゆっくりしていて」
「あ、じゃ、じゃあ、私も自分の部屋でシャワります」
「一緒に入らない?」
微笑まれ、香澄は両手を突き出して首と共にブンブンと振った。
「いっ、いえいえいえいえいえ……」
「ははっ、残念だ。そのうち、ね」
ポンポンと頭を撫でたあと、佑は自分の水をくーっと飲み干してベッドから下りた。
(わ……っ)
良質な筋肉に包まれた広い背中に、男性らしい引き締まった腰から尻のラインが見えてドキッとする。
下着一枚の姿で佑はごく自然に伸びをしてから、洗面所に向かっていった。
(私も……戻ろう)
いまだ高鳴る胸を押さえ、香澄はコソコソと足音を忍ばせて自分の部屋に戻った。
**
シャワーを浴びてスキニーにTシャツ、トレーナーに着替える頃には、階下に斎藤の気配を感じた。
「おはようございます」
リビングダイニングに入ってキッチンを見ると、すでに斎藤が忙しく働いていた。
「おはようございます、赤松さん」
「お手伝い、ありますか?」
「あら、ゆっくりしてください」
「いえいえ、まだ出勤日じゃないですし、手伝わせてください」
「そうですか? ありがとうございます」
佑は既にスーツに着替えていて、リビングに並べられた何社もの新聞に目を通していた。
「私たちのように雇われている者は、御劔さんがいかに手を煩わせず、ご自身のお仕事をできるかの補佐役です」
「はい。秘書もきっとそのような仕事だと思っています」
理解を示した香澄に、斎藤はテキパキと手を動かしながら微笑む。
「家政婦をやっていると、たまに言われるんですよ。『家事をやらない人のためにこき使われて、可哀想ですよね』って。そういう人は、時間や手間をお金で買うという発想が分からないのだと思います」
「そういう事言う人、いるんですね」
どんな仕事であっても理由があり、ニーズがあると思っている香澄は、少し引いてしまう。
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