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第一部・出会い 編
再びホテルへ
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「私はいつでも香澄の事を応援してるからね。住む場所が離れても、親友じゃなくなる訳じゃない。いつでもメッセージできるし、電話もビデオ電話もできる」
「うん」
「香澄が一歩踏み出す時は、教えてね」
「うん」
麻衣に背中を押され、さらにバンッ! と強く叩かれたぐらい励まされた。
「両親にも言ってみる」
「そうしな? やってみたい事があるなら、家族の説得もしなきゃいけない。きちんと説明できるように、あらかじめプレゼン内容考えておくといいのかも」
「ん」
頷くと、麻衣がメロンソーダの入ったグラスを掲げてきた。
「はい、かんぱーい」
「あはは、乾杯!」
香澄もメロンソーダの入ったグラスを手にし、カチンとぶつけた。
その後、札幌駅近くにあるカラオケ店に入って好きな歌を歌い、駅に直結している商業施設にあるリラクゼーションの店で、おしゃべり控えめでたっぷり脚や手、首肩腰をオイルマッサージしてもらった。
スッキリしたところで、歩いてすすきのまで行き、二人でイタリアンバルに入る。
そこでやはりお互い好きな物を頼んで、フードメニューメインで楽しんだあと、麻衣の家に向かった。
麻衣の家には頻繁に泊まりに行っているので、彼女の家には香澄が持ち込んだパジャマや洗面セットなどもある。
コンビニで買ったチューハイなどを飲みながら話し、翌日は佑と用事があるのでという事で、少し早めに寝た。
**
二人で昨日パン屋で買ったパンを朝ご飯にし、十時くらいになって香澄は一度帰宅した。
昨晩麻衣の家で風呂には入ったので、支度ができたら佑に会いに行ける。
鏡を見て肌荒れなどをチェックし、着替えてからスマホを取り出す。
「うーん……」
何だかんだで、この数日のあれこれのうちに、彼と連絡先を交換してしまった。
それも完全に私用の連絡先らしく、自分などがいいのだろうかと何度も思う。
「絶対にしないけど、私が誰かにこの連絡先を教えるとか、考えなかったのかな。セレブなのにちょっと脇が甘いというか」
溜め息をつき、気持ちを落ち着かせてから香澄はメッセージをした。
『こんにちは。赤松です。友人の家から帰ってきて、これから出られます。どこに行けばいいでしょうか?』
送ってからドキドキして返事を待っていると、パッと既読のマークがついた。
『こんにちは。それじゃあ、一度先日のホテルに来てもらっていいかな?』
『分かりました。これから向かいます』
それから、改めて自分の服装を鑑みてみる。
麻衣と遊んでいた時はパンツにパーカー、コートというカジュアルなスタイルだったが、佑と合うのに学生の延長のような格好では恥ずかしい。
だが香澄はお洒落に疎く、手持ちのアイテムでもとっておきというのはあまりない。
仕事用のパンツスーツは、少しいい物を数着用意しているが、私生活ではそれほどだ。
最終的に選んだのは、流行はよく分からないが周りで身につけている人が多いという理由で買った、チュールのロングスカートと、袖レースのトップスだ。
(何かいつもと違って甘い感じで、ちょっと恥ずかしいけど……)
それにいつものブーティーを履き、コートを羽織ればいいと判断した。
地下鉄と徒歩で『ホテルロイヤルグラン』まで行くと、香澄はロビーに入っておずおずとコンシェルジュに話し掛ける。
「あの、スイートルームに宿泊されている、御劔さんに呼ばれたのですが」
「はい、少々お待ちくださいませ」
コンシェルジュは感じよく微笑むと、一度フロントまで行って部屋に電話を掛け、確認をしてから「こちらへどうぞ」と香澄を案内してくれた。
あのスイートルームにだけ繋がるエレベーターに乗り、二十二階まで上がる。
部屋のチャイムをコンシェルジュが鳴らすと、すぐに佑が顔を覗かせた。
「赤松さん、こんにちは。案内どうも。紅茶とお茶菓子を頼めますか?」
「かしこまりました」
佑は言葉の後半をコンシェルジュに向け、香澄を部屋に招き入れた。
「適当に座ってて。少しやる事があるから、待っていてほしい。会いたいと俺から言ったのに悪いね」
「いいえ」
佑がハンガーを渡してくれたので、コートを脱いでそれに掛け、出入り口近くのクローゼットにしまった。
「今日はいつもと感じが違っていて可愛いね」
「あ、ありがとうございます」
さすがアパレル会社の社長と言うべきか、服装に気を遣ってもらえて嬉しいやら、恥ずかしいやらだ。
そんな彼は、ジーパンに半袖Tシャツという、実にシンプルな格好をしていた。
それだけでも溢れ出るモデル感と格好良さがあるので、つくづく素材の良さを感じる。
先日も採寸されるために入った部屋は、相変わらず綺麗で広い。
ソファにちょこんと腰掛けると、佑は隣室の書斎に向かい、どうやらノートパソコンか何かをタイピングしている音が聞こえてきた。
香澄は最初は部屋の中を見回して待っていたが、そのうち手持ち無沙汰になってスマホを弄り出す。
佑が来るかお茶が来るのが先か……と思っていたが、再びチャイムが鳴ってフロアコンシェルジュがワゴンに乗せたお茶セットを運んできたのが先だった。
「私、出ますね」
チャイムの音が聞こえてすぐ立ち上がった香澄は、そう言ってドアに向かう。
「すまない」
書斎から佑の声がし、香澄はいそいそとフロアコンシェルジュを迎える。
「茶葉はこちらの四種類から選べますが、どう致しますか?」
ワゴンの上には綺麗な缶が四つ並べられ、お茶を淹れるためのポット類などがテーブルの上に移されてゆく。
「み、御劔さん、どうしますか?」
「赤松さんが決めていいよ」
「……わ、分かりました」
最終的に、ホテルのオリジナルブレンドやダージリン、アールグレイ、ローズティーだと紹介されて、無難にオリジナルブレンドにしておいた。
高価そうな海外ブランドの陶器にお湯を入れ、ガラスのポットで茶葉を蒸し、絵つけのされた揃いのポットに紅茶が移され……と、鮮やかな手つきをしばし見守る。
テーブルの上にはスコーンやクッキー、チョコレートなどが並んでいた。
あの三段になっているスタンドがないので、正式なアフターヌーンティーではないのだろうが、これだけでも十分いい値段がしそうだ。
やがて淹れられた紅茶が目の前に出され、香澄は「ありがとうございます」と頭を下げる。
佑の分はどうするのかと思っていると、フロアコンシェルジュが書斎まで運んでいった。
やがてコンシェルジュが退室し、香澄はお茶などを飲んでいいのか分からず、書斎に向かう。
「御劔さん、あの……」
「ごめん。もう少しで終わる。お茶やお茶菓子は自由に口にしていいよ」
「はい」
彼はノートパソコンに向かっていて、イヤフォンを耳にしている。
会議を聞いているらしく、香澄に気を遣ってチャット形式で参加しているようだった。
(日曜日なのに、忙しいんだな)
大人しく戻った香澄は、紅茶にミルクを入れて一口飲み、スコーンを摘まむ。
スコーンは焼きたてらしく、手で持つとホカホカしていた。
スコーンにつける用のジャムやクロテッドクリーム、ヨーグルトソースにチョコレートソースなども器にあり、それぞれ四本のスプーンが綺麗に並べられていた。
「いただきます……」
手でスコーンを割り、まずはプレーンで食べる。
「おいし……」
ホコッとしていて、思わず笑みが漏れた。
クッキーやチョコレートなどは、スコーンの熱を受けないように直接触れ合わないようになっている。
そのうち夢中になって味わっていると、「待たせてごめん」と佑がこちらにやって来た。
「あ、お疲れ様です」
「ふぅん、赤松さんはミルクティー派なんだ」
佑が香澄のティーカップを覗いて微笑み、彼女は思わず言い訳がましく言う。
「私、コーヒーとかも何でもミルク入れちゃうんです。ストレートティーとか、ブラックコーヒーは少し苦手で。でも、砂糖は入れないんですけど」
「そうなんだ。俺は基本的にそのままかな。気分でてミルクを入れたりはする」
「色々楽しめるの、いいですよね」
こうして佑と話していて、以前より彼を疑ってツンツンしていないのは、麻衣のお陰だ。
香澄の雰囲気が変わったのを、佑も鋭敏に感じたようだ。
「何だか赤松さん、今日は雰囲気が柔らかいね」
「そう……ですか? 今まで感じ悪かったのならすみません。昨日友達と沢山話して、割と前向きになれた気がします」
「そうか。じゃあ、いつかその友人にお礼を言わないとな」
「とてもいい子なので、いつかぜひ」
微笑み合ってしばらくお茶を楽しんだあと、ティーカップにあった紅茶を飲みきり佑が切り出した。
「うん」
「香澄が一歩踏み出す時は、教えてね」
「うん」
麻衣に背中を押され、さらにバンッ! と強く叩かれたぐらい励まされた。
「両親にも言ってみる」
「そうしな? やってみたい事があるなら、家族の説得もしなきゃいけない。きちんと説明できるように、あらかじめプレゼン内容考えておくといいのかも」
「ん」
頷くと、麻衣がメロンソーダの入ったグラスを掲げてきた。
「はい、かんぱーい」
「あはは、乾杯!」
香澄もメロンソーダの入ったグラスを手にし、カチンとぶつけた。
その後、札幌駅近くにあるカラオケ店に入って好きな歌を歌い、駅に直結している商業施設にあるリラクゼーションの店で、おしゃべり控えめでたっぷり脚や手、首肩腰をオイルマッサージしてもらった。
スッキリしたところで、歩いてすすきのまで行き、二人でイタリアンバルに入る。
そこでやはりお互い好きな物を頼んで、フードメニューメインで楽しんだあと、麻衣の家に向かった。
麻衣の家には頻繁に泊まりに行っているので、彼女の家には香澄が持ち込んだパジャマや洗面セットなどもある。
コンビニで買ったチューハイなどを飲みながら話し、翌日は佑と用事があるのでという事で、少し早めに寝た。
**
二人で昨日パン屋で買ったパンを朝ご飯にし、十時くらいになって香澄は一度帰宅した。
昨晩麻衣の家で風呂には入ったので、支度ができたら佑に会いに行ける。
鏡を見て肌荒れなどをチェックし、着替えてからスマホを取り出す。
「うーん……」
何だかんだで、この数日のあれこれのうちに、彼と連絡先を交換してしまった。
それも完全に私用の連絡先らしく、自分などがいいのだろうかと何度も思う。
「絶対にしないけど、私が誰かにこの連絡先を教えるとか、考えなかったのかな。セレブなのにちょっと脇が甘いというか」
溜め息をつき、気持ちを落ち着かせてから香澄はメッセージをした。
『こんにちは。赤松です。友人の家から帰ってきて、これから出られます。どこに行けばいいでしょうか?』
送ってからドキドキして返事を待っていると、パッと既読のマークがついた。
『こんにちは。それじゃあ、一度先日のホテルに来てもらっていいかな?』
『分かりました。これから向かいます』
それから、改めて自分の服装を鑑みてみる。
麻衣と遊んでいた時はパンツにパーカー、コートというカジュアルなスタイルだったが、佑と合うのに学生の延長のような格好では恥ずかしい。
だが香澄はお洒落に疎く、手持ちのアイテムでもとっておきというのはあまりない。
仕事用のパンツスーツは、少しいい物を数着用意しているが、私生活ではそれほどだ。
最終的に選んだのは、流行はよく分からないが周りで身につけている人が多いという理由で買った、チュールのロングスカートと、袖レースのトップスだ。
(何かいつもと違って甘い感じで、ちょっと恥ずかしいけど……)
それにいつものブーティーを履き、コートを羽織ればいいと判断した。
地下鉄と徒歩で『ホテルロイヤルグラン』まで行くと、香澄はロビーに入っておずおずとコンシェルジュに話し掛ける。
「あの、スイートルームに宿泊されている、御劔さんに呼ばれたのですが」
「はい、少々お待ちくださいませ」
コンシェルジュは感じよく微笑むと、一度フロントまで行って部屋に電話を掛け、確認をしてから「こちらへどうぞ」と香澄を案内してくれた。
あのスイートルームにだけ繋がるエレベーターに乗り、二十二階まで上がる。
部屋のチャイムをコンシェルジュが鳴らすと、すぐに佑が顔を覗かせた。
「赤松さん、こんにちは。案内どうも。紅茶とお茶菓子を頼めますか?」
「かしこまりました」
佑は言葉の後半をコンシェルジュに向け、香澄を部屋に招き入れた。
「適当に座ってて。少しやる事があるから、待っていてほしい。会いたいと俺から言ったのに悪いね」
「いいえ」
佑がハンガーを渡してくれたので、コートを脱いでそれに掛け、出入り口近くのクローゼットにしまった。
「今日はいつもと感じが違っていて可愛いね」
「あ、ありがとうございます」
さすがアパレル会社の社長と言うべきか、服装に気を遣ってもらえて嬉しいやら、恥ずかしいやらだ。
そんな彼は、ジーパンに半袖Tシャツという、実にシンプルな格好をしていた。
それだけでも溢れ出るモデル感と格好良さがあるので、つくづく素材の良さを感じる。
先日も採寸されるために入った部屋は、相変わらず綺麗で広い。
ソファにちょこんと腰掛けると、佑は隣室の書斎に向かい、どうやらノートパソコンか何かをタイピングしている音が聞こえてきた。
香澄は最初は部屋の中を見回して待っていたが、そのうち手持ち無沙汰になってスマホを弄り出す。
佑が来るかお茶が来るのが先か……と思っていたが、再びチャイムが鳴ってフロアコンシェルジュがワゴンに乗せたお茶セットを運んできたのが先だった。
「私、出ますね」
チャイムの音が聞こえてすぐ立ち上がった香澄は、そう言ってドアに向かう。
「すまない」
書斎から佑の声がし、香澄はいそいそとフロアコンシェルジュを迎える。
「茶葉はこちらの四種類から選べますが、どう致しますか?」
ワゴンの上には綺麗な缶が四つ並べられ、お茶を淹れるためのポット類などがテーブルの上に移されてゆく。
「み、御劔さん、どうしますか?」
「赤松さんが決めていいよ」
「……わ、分かりました」
最終的に、ホテルのオリジナルブレンドやダージリン、アールグレイ、ローズティーだと紹介されて、無難にオリジナルブレンドにしておいた。
高価そうな海外ブランドの陶器にお湯を入れ、ガラスのポットで茶葉を蒸し、絵つけのされた揃いのポットに紅茶が移され……と、鮮やかな手つきをしばし見守る。
テーブルの上にはスコーンやクッキー、チョコレートなどが並んでいた。
あの三段になっているスタンドがないので、正式なアフターヌーンティーではないのだろうが、これだけでも十分いい値段がしそうだ。
やがて淹れられた紅茶が目の前に出され、香澄は「ありがとうございます」と頭を下げる。
佑の分はどうするのかと思っていると、フロアコンシェルジュが書斎まで運んでいった。
やがてコンシェルジュが退室し、香澄はお茶などを飲んでいいのか分からず、書斎に向かう。
「御劔さん、あの……」
「ごめん。もう少しで終わる。お茶やお茶菓子は自由に口にしていいよ」
「はい」
彼はノートパソコンに向かっていて、イヤフォンを耳にしている。
会議を聞いているらしく、香澄に気を遣ってチャット形式で参加しているようだった。
(日曜日なのに、忙しいんだな)
大人しく戻った香澄は、紅茶にミルクを入れて一口飲み、スコーンを摘まむ。
スコーンは焼きたてらしく、手で持つとホカホカしていた。
スコーンにつける用のジャムやクロテッドクリーム、ヨーグルトソースにチョコレートソースなども器にあり、それぞれ四本のスプーンが綺麗に並べられていた。
「いただきます……」
手でスコーンを割り、まずはプレーンで食べる。
「おいし……」
ホコッとしていて、思わず笑みが漏れた。
クッキーやチョコレートなどは、スコーンの熱を受けないように直接触れ合わないようになっている。
そのうち夢中になって味わっていると、「待たせてごめん」と佑がこちらにやって来た。
「あ、お疲れ様です」
「ふぅん、赤松さんはミルクティー派なんだ」
佑が香澄のティーカップを覗いて微笑み、彼女は思わず言い訳がましく言う。
「私、コーヒーとかも何でもミルク入れちゃうんです。ストレートティーとか、ブラックコーヒーは少し苦手で。でも、砂糖は入れないんですけど」
「そうなんだ。俺は基本的にそのままかな。気分でてミルクを入れたりはする」
「色々楽しめるの、いいですよね」
こうして佑と話していて、以前より彼を疑ってツンツンしていないのは、麻衣のお陰だ。
香澄の雰囲気が変わったのを、佑も鋭敏に感じたようだ。
「何だか赤松さん、今日は雰囲気が柔らかいね」
「そう……ですか? 今まで感じ悪かったのならすみません。昨日友達と沢山話して、割と前向きになれた気がします」
「そうか。じゃあ、いつかその友人にお礼を言わないとな」
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微笑み合ってしばらくお茶を楽しんだあと、ティーカップにあった紅茶を飲みきり佑が切り出した。
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