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自白1
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日程では、朝食が終わったあとお茶をして、ウィドリントンや教会の関係者はヴィンセント王国を発つことになっている。
そのお茶の席で、クライヴはニコラスを告発するつもりでいた。
同時に心配だったのは、あらかじめオーガストから問い詰められてニコラスが逃げ出さないかということだった。
さりげなく衛兵の数を増やしておいたが、特に変わった知らせはない。
そして朝食の席に、ニコラスは変わらぬ穏やかな表情で現れた。
彼の後から朝食室に入ってきたオーガストを見ても、いつも通り静かな顔をしているだけだ。
(……何を考えている? 開き直ったのか、それとも……)
怪訝な顔をしているクライヴに、オーガストはチラリと視線を走らせる。
それがどうにも何かを訴えているようにも見えるのだが、生憎クライヴはオーガストと目配せをする程の仲でもない。
「念のためだが……。もう頭痛は大丈夫か?」
隣に座っているモニカに尋ねると、フワリと花のような笑みが返ってくる。
「ええ、大丈夫よ。もうあなたを煩わせることはないから、安心して」
落ち着いた微笑みに、彼女が昨晩の状態から立ち直っただろうことを察した。
安心したものの、もう二度とモニカを苦しませることがあってはいけないとクライヴは思う。
やがて給仕たちが朝食を運び、昨日の晩餐同様和やかに朝食が始まる。
人によってはワインを飲む者もいるが、半数以上は控えていた。
代わりにミルクやオレンジを搾った果汁など、朝に相応しく気持ちをスッキリさせる物が好まれていた。
昨晩ほどの盛り上がりではないが、談笑をしながら朝食を進める。
その間クライヴは密かに、ニコラスの様子を窺っていた。
オーガストを隣に彼も静かに食事を取っている。
けれど心なしか、その表情の奥に緊張があるような気がした。
義理の息子から処遇を伝えられているのだとしても、そこまで感情を隠すのはさすが司祭と言うべきか。
朝食の皿が下げられ、テーブルに並んでいるのは紅茶とお茶請けだけとなった頃。
「――この場の皆さんに、懺悔いたします」
おもむろにニコラスが口火を切った。
ほとんどの者が何のことか理解しておらず、クライヴとオーガストの表情が硬くなる。
――が、ニコラスの次の言葉で朝食室はざわついた。
「私は、私の意のままになる聖騎士団の一部を使い、ヴィンセント王国に輿入れするモニカさまを襲わせました」
一瞬水を打ったように静寂が訪れ、直後ざわざわと皆の表情が揺れる。
波紋のように広がるざわめき、不安な感情の波を前に、モニカは呆然としていた。
「嘘……。司祭さま……」
幼い頃から王家と付き合いがあり、言葉の通りモニカの幼少期からずっと見守ってくれていた人――。
綺麗な白髪も、髭も、穏やかなブルーグレーの目も。白い法衣も。
すべて『穏やかで優しい司祭さま』を形作り、その姿そのものが好きだった。
刺さるような視線をものともせず、ニコラスは言葉を続ける。
隣に座っているオーガストの方が、逆にニコラスより顔色が悪かった。
「私はオーガストが可愛い。彼から実の両親を奪ってしまった立場にあるなら、その分大きな愛情でオーガストを包んでやりたかったのです。オーガストが幼い頃からモニカさまを慕っていたのは知っていました。そして、幼い日にリリーブライト……白百合の前でプロポーズしたことも知りました」
最後の言葉に、その場の全員がハッとした。
リリアンクロス教徒は、白百合の前で求婚するのが正式なものとされていた。
白百合の前で交わされる約束は神聖なもので、たとえ子供の口約束でも大事なものとされる風潮がある。
その場にいたのが子供だけなら、『なかったこと』にされても仕方がない。
けれどオーガストは、ふとした時にニコラスに言ってしまったのだ。
「モニカのことが好きで、幼い日に白百合の側で求婚した記憶がある」――と。
まだ聖爵としての自覚がなかった彼が、「あれは失言だったかもしれない」と気づき始めたのはずっと後のことだ。
義父の愛情を深く感じるようになり、尊敬すると同時に「甘すぎる義父は自分のためなら、何でもするかもしれない」と疑っていた節もある。
その嫌疑は、モヤモヤとオーガストの心にわだかまり続けていた。
けれど――、よもやこんなことになってしまうとはオーガストすら想像していなかった。
「白百合の誓いは神聖です。覚えのない子供時代のものだとしても、それが大人の耳に入れば話は別です。そして私は神の下僕として、その約束を叶えなければならないと思ったのです」
「……だからと言って……」
誰かが小声で呟いたのが聞こえた。
「分かっています。王家に害なすことは、たとえ司祭としても重罪。当時王女殿下であられたモニカさまを拉致し――、オーガストと契らせようと画策していたなど……。論外の犯罪でしょう」
モニカの隣で、バートランドが身を固くするのが分かった。その向こうにいる王妃セシリアも動揺し、しきりに手元でハンカチを弄りまわしている。
クライヴがモニカを見やると、彼女は真っ青な顔をしていた。
そのお茶の席で、クライヴはニコラスを告発するつもりでいた。
同時に心配だったのは、あらかじめオーガストから問い詰められてニコラスが逃げ出さないかということだった。
さりげなく衛兵の数を増やしておいたが、特に変わった知らせはない。
そして朝食の席に、ニコラスは変わらぬ穏やかな表情で現れた。
彼の後から朝食室に入ってきたオーガストを見ても、いつも通り静かな顔をしているだけだ。
(……何を考えている? 開き直ったのか、それとも……)
怪訝な顔をしているクライヴに、オーガストはチラリと視線を走らせる。
それがどうにも何かを訴えているようにも見えるのだが、生憎クライヴはオーガストと目配せをする程の仲でもない。
「念のためだが……。もう頭痛は大丈夫か?」
隣に座っているモニカに尋ねると、フワリと花のような笑みが返ってくる。
「ええ、大丈夫よ。もうあなたを煩わせることはないから、安心して」
落ち着いた微笑みに、彼女が昨晩の状態から立ち直っただろうことを察した。
安心したものの、もう二度とモニカを苦しませることがあってはいけないとクライヴは思う。
やがて給仕たちが朝食を運び、昨日の晩餐同様和やかに朝食が始まる。
人によってはワインを飲む者もいるが、半数以上は控えていた。
代わりにミルクやオレンジを搾った果汁など、朝に相応しく気持ちをスッキリさせる物が好まれていた。
昨晩ほどの盛り上がりではないが、談笑をしながら朝食を進める。
その間クライヴは密かに、ニコラスの様子を窺っていた。
オーガストを隣に彼も静かに食事を取っている。
けれど心なしか、その表情の奥に緊張があるような気がした。
義理の息子から処遇を伝えられているのだとしても、そこまで感情を隠すのはさすが司祭と言うべきか。
朝食の皿が下げられ、テーブルに並んでいるのは紅茶とお茶請けだけとなった頃。
「――この場の皆さんに、懺悔いたします」
おもむろにニコラスが口火を切った。
ほとんどの者が何のことか理解しておらず、クライヴとオーガストの表情が硬くなる。
――が、ニコラスの次の言葉で朝食室はざわついた。
「私は、私の意のままになる聖騎士団の一部を使い、ヴィンセント王国に輿入れするモニカさまを襲わせました」
一瞬水を打ったように静寂が訪れ、直後ざわざわと皆の表情が揺れる。
波紋のように広がるざわめき、不安な感情の波を前に、モニカは呆然としていた。
「嘘……。司祭さま……」
幼い頃から王家と付き合いがあり、言葉の通りモニカの幼少期からずっと見守ってくれていた人――。
綺麗な白髪も、髭も、穏やかなブルーグレーの目も。白い法衣も。
すべて『穏やかで優しい司祭さま』を形作り、その姿そのものが好きだった。
刺さるような視線をものともせず、ニコラスは言葉を続ける。
隣に座っているオーガストの方が、逆にニコラスより顔色が悪かった。
「私はオーガストが可愛い。彼から実の両親を奪ってしまった立場にあるなら、その分大きな愛情でオーガストを包んでやりたかったのです。オーガストが幼い頃からモニカさまを慕っていたのは知っていました。そして、幼い日にリリーブライト……白百合の前でプロポーズしたことも知りました」
最後の言葉に、その場の全員がハッとした。
リリアンクロス教徒は、白百合の前で求婚するのが正式なものとされていた。
白百合の前で交わされる約束は神聖なもので、たとえ子供の口約束でも大事なものとされる風潮がある。
その場にいたのが子供だけなら、『なかったこと』にされても仕方がない。
けれどオーガストは、ふとした時にニコラスに言ってしまったのだ。
「モニカのことが好きで、幼い日に白百合の側で求婚した記憶がある」――と。
まだ聖爵としての自覚がなかった彼が、「あれは失言だったかもしれない」と気づき始めたのはずっと後のことだ。
義父の愛情を深く感じるようになり、尊敬すると同時に「甘すぎる義父は自分のためなら、何でもするかもしれない」と疑っていた節もある。
その嫌疑は、モヤモヤとオーガストの心にわだかまり続けていた。
けれど――、よもやこんなことになってしまうとはオーガストすら想像していなかった。
「白百合の誓いは神聖です。覚えのない子供時代のものだとしても、それが大人の耳に入れば話は別です。そして私は神の下僕として、その約束を叶えなければならないと思ったのです」
「……だからと言って……」
誰かが小声で呟いたのが聞こえた。
「分かっています。王家に害なすことは、たとえ司祭としても重罪。当時王女殿下であられたモニカさまを拉致し――、オーガストと契らせようと画策していたなど……。論外の犯罪でしょう」
モニカの隣で、バートランドが身を固くするのが分かった。その向こうにいる王妃セシリアも動揺し、しきりに手元でハンカチを弄りまわしている。
クライヴがモニカを見やると、彼女は真っ青な顔をしていた。
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