【R-18】記憶喪失な新妻は国王陛下の寵愛を乞う【挿絵付】

臣桜

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王妃として

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 まだ気だるい体で起床したモニカは、ケイシーに手伝われて入浴する。
 クライヴにたっぷり愛された脚の間は、少しヒリヒリしていた。歩くにもゆっくりしか足を運べず、昨晩のことを思い出して顔が赤くなる。
「ケイシー、心配かけてしまってごめんなさい」
 モニカの記憶が戻ったと知ったケイシーは、涙を浮かべて主の帰還を喜んだ。
「いいえ。私のご主人さまは、どのような記憶をお持ちでも、どんなお姿でも陛下お一人です」
 忠義を尽くす侍女に、モニカは感謝する。
「……クライヴもそう言ってくれたわ。それなのに私は昨日、彼と結婚して初夜を迎えた自分に嫉妬していた……。一国の王妃ともあろう者が……、情けないわ」
 湯気がたつ中、モニカは吐息をつく。
 濡れた肌に貼り付く金髪。物憂げな横顔。大人の愛を知ったその溜息は、蒸気と相まって見とれるほど妖艶だ。
「こう言っては失礼ですが、陛下はまだ二十二歳ですもの。確かにお生まれになった時から王女殿下として、立派にお育ち遊ばしました。ですが、成熟した大人の心を持つには、まだお時間が必要なのだと思います」
 海綿で優しくモニカの腕をこすり、ケイシーは優しく諭す。
「……クライヴに女性として愛されて、子供を授かったとしても……。私はまだまだ成長途中なのね」
「国王陛下……。バートランド国王陛下もセシリア王妃陛下も、同じことを仰ると思います」
「まぁ、お父さまとお母さまも?」
「ええ。きっとこの世の中に、すべてを超越してもう成長は不要と感じている方は、いらっしゃらないと思います。そんな方がいれば――それこそ神さまのような存在になってしまいます」
 ケイシーの言葉は、じんわりとモニカの心に染み入ってゆく。
「ケイシーは物知りなのね。あなたが私の側にいてくれて、本当に良かったわ」
「畏れ入ります。ですが私も、周りにいる方々や先輩の受け売りですから」
 主の体を隅々まで洗い、ケイシーはモニカの体を拭いてゆく。
「私は王女として完璧ではなかったし、王妃としてもまだ始まったばかりだわ。まず第一に国と民のことを考えて、自分の我が儘は我慢していかないと」
 身を清めると気持ちもサッパリしたのか、モニカは本来のものである素直な笑みを取り戻した。
「陛下、差し出がましいようですが、我が儘と個人の幸せとは別でございますよ?」
「え?」
 ドロワーズを穿きコルセットを締められながら、モニカは後ろを振り向く。
「ご自身が幸せでなければ、民を幸せには導けません。まずはクライヴ陛下と心から通じ合って、愛を育みましょう。女性として成長すると共に、ウィドリントンにいらしたようにヴィンセントの民とも触れ合ってゆけばいいのです」
「そう……ね。頑張るわ」
 ケイシーの言葉が嬉しい。
 ふぅ……と息を吐き、またコルセットに新たな力が加わってゆく。いつもなら苦行に思えるこの工程も、背筋が伸びるような思いだ。
 貴婦人を貴婦人たらしめる、ドレスという装飾重視の姿。
 コルセットで腰を細く絞り、胸を際立たせる。パニエでドレスのスカート部分を大きく広げ、細い場所など歩けない不便な格好。
 それが支配階級の姿だ。
 だからモニカ自身も、ドレスを身に纏うに相応しい堂々たる王妃にならなければいけない。
 ケイシーの言う通り、人として悩みながら進むのは当たり前なのだろう。
 けれど多少のことなら大らかに受け止め、笑って受け流せるほどの器でなければ、王妃などやっていけない。
「彼から愛されているのは変わらないのに、記憶がないぐらいで悩んではいけないわ。私はもっと、自分に自信を持たないと」
 自らを奮い立たせるような言葉を呟くモニカに、ケイシーは満足そうに笑んでいた。
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