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男同士の語らい1

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 結局クライヴが腰を止めたのは、空が白み始める頃だった。
 モニカはぐったりとして動かなくなり、その全身もクライヴがつけた所有印で赤くなっている。
 彼がこんなにも燃えたのは、勿論モニカの気持ちに応え、彼女を安堵させるためというのもある。
 が、同時にオーガストに対して、密かに妬いていたというのもあった。
 彼がモニカに何もしていないだろうことは察した。けれど、夫の立場というのもある上に、彼がまだモニカを想っていると聞いて心がムシャクシャした。
「……最低だな、俺」
 第三者から見れば、オーガストが幼なじみを想っていたのを知っていて、横から攫ったのは自分だ。
 オーガストがモニカを気にしているのを、子供の頃から知っていた。
 成長してから彼が聖爵に選ばれ、のんびり恋愛をしている状況ではなくなったのも理解している。
 その間にクライヴはモニカとの距離を詰め、手紙や贈り物をし、彼女と両親の心を手に入れた。
 実に――汚いやり方だ。
 重たい溜息をつき、クライヴはモニカに羽布団を被せるとベッドから下りた。
 水差しから水を乱暴に飲み、グシャグシャと髪をかき乱す。
 裸足のまま絨毯を踏み、カーテンを少し開けると庭園に朝靄がかかっていた。
 貴族たちが往来する前に、庭師たちが散った花びらを集めたり、植え込みを整えたりしている。
「……あれ?」
 それに紛れて、全身白い服に身を包んだ人物がゆっくり歩いていた。
 ――オーガストだ。
(彼と話をしなければ)
 決意したクライヴは、手早く日中用の服に袖を通して部屋を出た。
 本来なら侍従などに着替えを手伝われなければならない。が、今はそんなまどろっこしいことをしていられない。
 仕事を取り上げたような気持ちで申し訳ないが、クライヴは自分でクラバットを整えつつ廊下を急いだ。


「……っは……」
 城内はなるべく早足で通り過ぎ、外に出てからクライヴは走り出した。
 先ほどは庭園の中ほどにいたが、今はどちらの方に行ってしまったのだろう?
「オーガスト……」
 庭師に彼を見なかったか尋ねようとして、ふとクライヴの心に彼の行き先が浮かび上がる。
 濃厚で酔うほどの香りをさせている――百合園。
 そちらまで足を向けると、白百合に紛れるようにしてオーガストの白い姿があった。
「……おはよう」
 声を掛けると、朝靄の中で彼はゆっくり振り向く。
「……おはようございます。陛下」
「っはは、よしてくれ。子供の頃に一緒に遊んだ仲だろ? 昨晩だって普通に話してくれたんだから、今さら態度を変えないでくれ」
「ですが」
 クライヴの足元を見るようにして、オーガストは目を合わそうとしない。その顔色も、心なしか青白く感じた。
「……お互い、胸に色々しこりがあるのは分かっている。ただ、我が儘な俺は友人である君を失いたくない。……とも思ってしまう」
 百合園にあるベンチに腰掛けると、ひと一人分空けたスペースにオーガストも座った。
「……分かったよ。クライヴ」
 向かい合って視線を交わす必要がなくなったからか、オーガストは多少プレッシャーが軽くなったようだ。
「ありがとう、オーガスト」
 それから少しの間、二人は朝靄のかかった白百合を眺めていた。
 百合園は場所により白百合、黄色い百合、ピンクの百合など色分けされてある。オーガストが白百合の前にいたのは、何となく予想通りではあった。
 教会のシンボルであるリリーブライトは、その名の通り白百合を指すからだ。
 やがてオーガストが口を開く。
「昨晩、義父に確認した。『私的なことで聖騎士団を動かしたのか』と」
 ふぅ……とクライヴは息をつく。
「……ニコラス猊下は何と?」
 どんな返答があっても動揺しない。クライヴはそう決めていた。
 そもそもにして、昨晩ニコラスが絡んでいるかもしれない時点で、覚悟はできていた。
 自分とモニカの結婚に立ち会ってくれ、戴冠式も執り行ってくれた恩のある司祭。
 ――けれど。物事は一箇所から見た通りでないことぐらい、大人になったクライヴは知っている。
 人々から憧れられ、『理想の王子さま』とされているクライヴ自身だって、モニカが絡めば卑怯な男になることを自覚している。
 だからきっと――あの温和なニコラス司祭にだって、人としての闇の部分があってもおかしくない。
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