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過去への嫉妬2
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「……っ」
急にクライヴの香りが強くなり、モニカは更に身を縮込ませる。
「モニカ……。君が望むなら、もう一度ウエディングドレスを着てやり直してもいい。俺は何度だって、君を妻として愛すると誓える」
「……ありがとう。でも、気持ちだけでいいわ」
モニカだって一国の姫なので、結婚式に伴う費用やそれに伴う準備の大変さなどは分かっているつもりだ。
クライヴが内々に仕切り直してくれると言っても、申し訳ない。
「なに、変に考えることはない。君はドレスを着て、俺は礼服を着る。ケイシーや近しい人だけを呼んで、城内の聖堂でもう一度聖職者に立ち会ってもらえばいい」
本来なら「司祭に」という所を、クライヴはそう言わなかった。
今ニコラス司祭に疑わしきがあるのなら、彼に自分たちの祝福をしてもらおうという気持ちになれない。
モニカを寝かしつけたら、オーガストとニコラスを訪ねて真相を聞かなければいけない。
「そう……ね」
胸の前に回されたクライヴの腕に、モニカはそっと手を掛ける。
――が、クライヴの手がモニカの胸をやんわりと包み、指に微弱な力を入れるとまた彼女は緊張した。
「あのっ! しょ、初夜も済んだの? 私、どうだった? 変じゃなかった?」
胸を触られたことが恥ずかしく、話題を変えるつもりだった。けれどそれは現状をある意味悪化させる言葉になる。
「じゃあ君の気持ちのために、にもう一度初夜を体験しておくか?」
「えぇっ!?」
肩を掴まれてコロリと仰向けにされ、そこには胸板をはだけさせ下履きだけという姿になったクライヴがいる。
覚えている限り、彼の肌など見たことがなかったモニカは、一気に混乱してしまった。
「あ、あ、あのっ! そ、そんなに肌を出して変だわ! ちゃんと何か着て寝ないと……!」
慌てて両手を自分の前に突き出し、モニカは壁を作りそっぽを向く。その顔が耳まで真っ赤なのを見て、クライヴは思わず笑ってしまった。
「君は本当に純粋だな。もう俺と舌を絡めるキスをして、繋がった仲なのに」
「ひっ……、卑猥だわ……」
低く笑うクライヴが知らない人に思えて、モニカは思わず真顔で呟いていた。
「あの、あなた本当にクライヴ? 何だかそんな……。生々しい男の人じゃなかった気がするんだけど……」
「失礼だな。俺はこの十数年、君だけに欲情してきた男だ。妻になった君に正々堂々と卑猥なことを言って、何が悪い」
「よ……っ、よくじょうっ」
壁にしていた手を握られ、真っ赤になったモニカの顔が現れる。
「君だって、あんなに善がっていたじゃないか」
そのまま抱き寄せてキスをすると、モニカはますます体を小さくした。
クライヴの胸板に顔を埋め、モニカは顔を伏せてしまう。どうしたものかと考えあぐねているクライヴの耳に、考えつかなかった言葉が入った。
「私……、自分の知らない自分に嫉妬してるわ」
ハッとして彼女の顔を上向けると、その目には涙が溜まっている。
「ずっとあなたと式を挙げるのを楽しみにしていたの。それなのに……、忘れてしまって。今の私が覚えていない私が、あなたと結婚して初夜を迎えたわ。……他の誰かに横取りされたみたい」
モニカの気持ちに気付いてやれなかった自分に、クライヴはショックを受けた。
「……ごめん。本当に……。ちゃんと君の記憶が戻るまで、待つべきだった」
それはずっと抱えていた気持ちだったが、慌ただしい毎日やいつ訪れるか分からない父の死などに押し流されていた。
やることが沢山あって忙殺され、ベッドに愛しいモニカがいれば抱きたくなる。
(俺はそれで満たされていたかもしれない。だが、モニカは――)
楽しみにしていた式も初夜も、すべてなくなり、気がついたら処女を失って妻になっていた。そんな彼女の立場は――。
「……ごめんっ」
きつくモニカを抱きしめ、クライヴは謝る。
「…………」
それにモニカも抱きしめ返し、静かに嗚咽し始めた。
クライヴの胸板がモニカの涙で少し濡れる。小鳥か兎のように震える彼女を、クライヴは彼女が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
「私は……、あなたの奥さんになれたのよね?」
やがてまだ涙の粒を残した目でモニカは顔を上げ、真っ直ぐに彼を見つめる。
「ああ。君は俺の妻だ」
その涙をチュッと吸い取ると、しょっぱい味がした。
目元に柔らかな唇を感じたと同時に、モニカの中で堪えていた感情が決壊した。
「っなら……! 私をちゃんと愛して! 知らない私のことなんて相手にしなくてよくなるように、身も心も溶けるほど愛して!」
叩きつけるような感情を見せるモニカが、涙を零しながら更に何か言う前に、クライヴはキスをしていた。
「ん……っ、は……」
強く唇を吸われ、何度もちゅ、ちゅ、と愛される。ペロリと唇を舐められた後に、甘噛みをされた。
「や……っ、やだっ」
今まで唇を軽く合わせるキスしかしていなかったモニカは、ゾクッと身を震わせて逃げかける。胸がドキドキして、感じたことのない感覚を味わった。
自分がきっかけを作ったのに、いざ快楽を味わうとモニカは混乱する。
急にクライヴの香りが強くなり、モニカは更に身を縮込ませる。
「モニカ……。君が望むなら、もう一度ウエディングドレスを着てやり直してもいい。俺は何度だって、君を妻として愛すると誓える」
「……ありがとう。でも、気持ちだけでいいわ」
モニカだって一国の姫なので、結婚式に伴う費用やそれに伴う準備の大変さなどは分かっているつもりだ。
クライヴが内々に仕切り直してくれると言っても、申し訳ない。
「なに、変に考えることはない。君はドレスを着て、俺は礼服を着る。ケイシーや近しい人だけを呼んで、城内の聖堂でもう一度聖職者に立ち会ってもらえばいい」
本来なら「司祭に」という所を、クライヴはそう言わなかった。
今ニコラス司祭に疑わしきがあるのなら、彼に自分たちの祝福をしてもらおうという気持ちになれない。
モニカを寝かしつけたら、オーガストとニコラスを訪ねて真相を聞かなければいけない。
「そう……ね」
胸の前に回されたクライヴの腕に、モニカはそっと手を掛ける。
――が、クライヴの手がモニカの胸をやんわりと包み、指に微弱な力を入れるとまた彼女は緊張した。
「あのっ! しょ、初夜も済んだの? 私、どうだった? 変じゃなかった?」
胸を触られたことが恥ずかしく、話題を変えるつもりだった。けれどそれは現状をある意味悪化させる言葉になる。
「じゃあ君の気持ちのために、にもう一度初夜を体験しておくか?」
「えぇっ!?」
肩を掴まれてコロリと仰向けにされ、そこには胸板をはだけさせ下履きだけという姿になったクライヴがいる。
覚えている限り、彼の肌など見たことがなかったモニカは、一気に混乱してしまった。
「あ、あ、あのっ! そ、そんなに肌を出して変だわ! ちゃんと何か着て寝ないと……!」
慌てて両手を自分の前に突き出し、モニカは壁を作りそっぽを向く。その顔が耳まで真っ赤なのを見て、クライヴは思わず笑ってしまった。
「君は本当に純粋だな。もう俺と舌を絡めるキスをして、繋がった仲なのに」
「ひっ……、卑猥だわ……」
低く笑うクライヴが知らない人に思えて、モニカは思わず真顔で呟いていた。
「あの、あなた本当にクライヴ? 何だかそんな……。生々しい男の人じゃなかった気がするんだけど……」
「失礼だな。俺はこの十数年、君だけに欲情してきた男だ。妻になった君に正々堂々と卑猥なことを言って、何が悪い」
「よ……っ、よくじょうっ」
壁にしていた手を握られ、真っ赤になったモニカの顔が現れる。
「君だって、あんなに善がっていたじゃないか」
そのまま抱き寄せてキスをすると、モニカはますます体を小さくした。
クライヴの胸板に顔を埋め、モニカは顔を伏せてしまう。どうしたものかと考えあぐねているクライヴの耳に、考えつかなかった言葉が入った。
「私……、自分の知らない自分に嫉妬してるわ」
ハッとして彼女の顔を上向けると、その目には涙が溜まっている。
「ずっとあなたと式を挙げるのを楽しみにしていたの。それなのに……、忘れてしまって。今の私が覚えていない私が、あなたと結婚して初夜を迎えたわ。……他の誰かに横取りされたみたい」
モニカの気持ちに気付いてやれなかった自分に、クライヴはショックを受けた。
「……ごめん。本当に……。ちゃんと君の記憶が戻るまで、待つべきだった」
それはずっと抱えていた気持ちだったが、慌ただしい毎日やいつ訪れるか分からない父の死などに押し流されていた。
やることが沢山あって忙殺され、ベッドに愛しいモニカがいれば抱きたくなる。
(俺はそれで満たされていたかもしれない。だが、モニカは――)
楽しみにしていた式も初夜も、すべてなくなり、気がついたら処女を失って妻になっていた。そんな彼女の立場は――。
「……ごめんっ」
きつくモニカを抱きしめ、クライヴは謝る。
「…………」
それにモニカも抱きしめ返し、静かに嗚咽し始めた。
クライヴの胸板がモニカの涙で少し濡れる。小鳥か兎のように震える彼女を、クライヴは彼女が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
「私は……、あなたの奥さんになれたのよね?」
やがてまだ涙の粒を残した目でモニカは顔を上げ、真っ直ぐに彼を見つめる。
「ああ。君は俺の妻だ」
その涙をチュッと吸い取ると、しょっぱい味がした。
目元に柔らかな唇を感じたと同時に、モニカの中で堪えていた感情が決壊した。
「っなら……! 私をちゃんと愛して! 知らない私のことなんて相手にしなくてよくなるように、身も心も溶けるほど愛して!」
叩きつけるような感情を見せるモニカが、涙を零しながら更に何か言う前に、クライヴはキスをしていた。
「ん……っ、は……」
強く唇を吸われ、何度もちゅ、ちゅ、と愛される。ペロリと唇を舐められた後に、甘噛みをされた。
「や……っ、やだっ」
今まで唇を軽く合わせるキスしかしていなかったモニカは、ゾクッと身を震わせて逃げかける。胸がドキドキして、感じたことのない感覚を味わった。
自分がきっかけを作ったのに、いざ快楽を味わうとモニカは混乱する。
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