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過去への嫉妬1

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「後は俺が」
「畏まりました」
 クライヴに言われ、ケイシーは下がってゆく。
「あの……っ、やだわ。私たち、まだ結婚してない……っ」
 脱がされ始め、モニカは真っ赤になって抵抗する。
 幾ら好きな人で結婚する相手でも、婚前に気安く肌を見せてはいけない。
「したんだ」
「え?」
「俺たちは、結婚をした。ちゃんと式を挙げて、その後に俺は戴冠式を行って国王になった。そして今の君は……王妃」
「え……っ」
 思いも寄らないことを告げられ、モニカは目を瞬かせる。
 クライヴの言葉が一つ一つ脳に染み渡ってから……、ゆるりと首を振って唇がぎこちなく笑いの形になった。
「嘘」
「……嘘じゃない。君は記憶を失っていたんだ。ヴィンセントに来る途中、馬車が襲撃された。馬車は斜面を落ちて――君は頭を打った」
「あ……」
 ドレスを脱がされ、コルセットとパニエ、ドロワーズという姿になった所で、モニカの抵抗が止んだ。
 苦い薬でも飲んだような顔をし、モニカは霞がかった記憶の先を求める。
 その間、クライヴはパニエを下げていた腰紐を解き、コルセットの紐も手早く緩めていった。
「あの……っ、あっ!」
 ほろんとやわい胸がまろび出て、モニカは焦って両腕で胸を隠した。
「はい、万歳して」
「えっ?」
 細い腕を掴まれ上に向けられると、そこからズボッとネグリジェを被せられる。
「はい、抱っこ」
 すかさずヒョイと横抱きされ、モニカはまた慌ててクライヴの首元に掴まった。
「あの、この部屋は誰の部屋?」
「君の私室。続き部屋に俺たちの寝室がある」
「おれたちの……」
 そう言われ、自分とクライヴが同衾しているのを想像したのか、モニカの頬に熱が集まってゆく。
「い、一緒に寝てたの?」
「もう初夜も済ませたよ」
「ひぇっ」
 目の前にあるクライヴの顔を見ていられず、モニカは彼の肩に顔を伏せた。
 二年前の記憶より、もっと体に厚みが増した気がする。肩もしっかりしてて、首も少し太くなった気がする。
「クライヴ、昨日も私と会っていたの?」
「ずっと一緒だったよ」
 彼が歩むごとに、静かな振動がモニカに伝わる。なるべくモニカを怖がらせないように、彼がそっと足を運んでいるのを知った。
(私の知ってる……、優しいクライヴだわ)
「私……。私の中では、二年前に会ったぶりなの。……何だかごめんなさい」
「仕方がないよ。君はとても怖い思いをして、頭を強かに打ってしまった。今こそケガは良くなってるが、血を流した君を見て俺は憤死するかと思った」
 続き部屋を通ってゆくと、大きな天蓋付きベッドが目に入った。その上にモニカは下ろされ、優しく頭を撫でられる。
「お願い……。側にいて。……まだよく分からなくて、怖いの」
 緑の目には不安しかなく、この場にただ一人頼れる人に縋り付いている。
「今宵の集いはもう俺がいなくてもいいようにしてきたから、大丈夫。一緒にいるよ」
 優しく言ってクライヴは服を脱ぎ始め、まだ彼の肌を見たことがないモニカは慌てて反対側を向いた。
「ふふ、初々しい反応をするな。まるで初夜の時みたいだ」
「ねぇ、私たちの結婚式、どうだったの?」
「君はとても綺麗だったよ。国から用意してきたドレスを着て、とても長いヴェールを引きずって……。俺はあれより美しいものを知らない」
「本当? ……あーあ。何だか残念だわ。損しちゃった」
 衣擦れの音を耳にしながら、モニカは静かに涙を流す。
 初めてクライヴに会って、何度も両親と共に顔を合わせるようになって仲良くなった。クライヴの方も意識していて、意地悪をされたこともあったが、近年はとても優しくしてくれた。
 恋心が募り、彼と結婚するのだと思うと、ずっとドキドキしていた。
 夜寝る前に、気持ちが昂ぶりすぎて涙を流してしまったこともある。彼からの手紙を取り出して、何度も読んだ文面にまた目を落とす。
 結婚式を、楽しみにしていない訳がなかった。
「私、幸せそうにしてた?」
「初対面の俺に戸惑っていたが、すぐに心を開いてくれたよ。俺のことを愛してくれたし、俺もどんな君でも愛する自信があった」
 ベッドがたわみ、クライヴの気配がする。
 背中を向けたまま、モニカは少し体を硬くした。
「……触ってもいい?」
「さっき問答無用で抱き上げた癖に」
 恥ずかしくて思わず言い返すと、背後でクライヴが笑った。
「でも『あれ』と、同じベッドの中で触れるのって、意味合いが違うじゃないか」
「……別に。……触るぐらい、いいけれど」
 モニカの返答を聞き、背後から優しくクライヴが抱きしめてきた。
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