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頭痛2

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 クライヴがモニカを支えて晩餐室を出ると、ケイシーが控えていた。
 が、すぐに背後で扉が開閉する音がすると、「陛下」とクライヴを呼ぶ声がする。
「オーガスト」
 そこに立っていたのは、モニカの幼なじみオーガストだ。
「どうか致しましたか? 聖爵猊下」
 一応改まった話し方をするが、クライヴもオーガストとは既知の間柄だ。
 オーガストが聖爵として選ばれる思春期頃までは、ウィドリントン王国で三人で遊んだこともあった。
「もし良ければ……、ケイシーの付き添いの元、私が王妃陛下と一緒にいても大丈夫ですか? 昼間も具合が悪かったようですし、幼馴染みとして心配なのです」
 白い服を身に纏うオーガストは、魅力溢れる男性だ。
 唯一結婚のできる聖職者である彼は、ゆくゆく教会の代弁者となることを約束されている。その発言力は大きく、レディたちも彼の心を射止めようと必死になっていた。
 物腰柔らかなだけでなく、顔つきも整っていて涼やかな声が人気だ。
 彼に聖典を朗読されたいと、ウィドリントンのレディたちは妄想を繰り広げている。
「幼馴染みとして……」

 が、クライヴは彼を魅力ある青年として認識し、モニカにハッキリとした恋心を抱くようになってから、オーガストのことも気にしだしていた。
 両国の国王、王妃がクライヴとモニカの結婚を推していたのは、クライヴが自ら「モニカと結婚したい」と宣言していたのもある。
 仮に『とても親しくしている隣国の王子』がいなければ、モニカはこのオーガストと結婚していてもおかしくない。
 だから一瞬、クライヴは返答に窮してしまった。
「ありがとう、オーガスト。けど私、ケイシーもいるし大丈夫よ?」
 モニカは柔らかく断り、クライヴは内心ホッとする。
 が、オーガストも引かなかった。
「王妃殿下さえ良ければ、個人的なお祝いを申し上げたいのです。幼馴染みとして」
「オーガスト……」
 そう言われると、モニカもオーガストと個人的に話をしたいという気持ちになる。
「クライヴ、いいかしら? 勿論二人きりにはならないわ。ケイシーも一緒にいてもらう。常識的な時間でお話を終わらせて、後は戻って頂くわ」
「……君がそう言うのなら」
 嬉しそうに言うモニカに勝てず、クライヴは渋々と承諾する。
「ありがとう! 大好きよ!」
 その時、晩餐室から出てきた者たちの一人が、「陛下、こちらへ!」と楽しそうにクライヴを呼ぶ。
「私は大丈夫」
 そっとモニカに押され、クライヴは苦笑した。
「今の言葉、ちゃんと守ること」
 優しく言ってモニカを抱き寄せると、その額にキスをする。
 オーガストがモニカに横恋慕していると決めつけた訳ではないが、クライヴの先制攻撃でもあった。
「ケイシー、後は頼む」
 踵を返してクライヴは反対側へ歩き出す。
 ケイシーは深くお辞儀をしてから、モニカとオーガストに「こちらへ」と促した。
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