10 / 54
初夜練習2
しおりを挟む
「私を、一生大切にしてくださいますか?」
「言葉のままに、生涯添い遂げる相手として、敬い、愛するよ」
「……ふふ。もう司祭さまの前に立っているみたいですね」
クライヴはゆっくり腰を浮かし、モニカのベッドの端に座る。
「あ……」
近くなった距離にモニカは少し目を見張り、金色の睫毛の下エメラルドのような目がクライヴを見る。室内を揺らめかせながら照らす燭台に明かりを反射し、その目は溜息が漏れるほど美しかった。
「君も……約束してくれるか? もう俺の知らない所でケガをしないと」
クライヴはまたモニカの手を取り、じっと彼女を見つめたままその手を唇につけた。
指に柔らかな唇が触れ、その熱さにモニカは体を震わせる。
味わったこともないのに、何か淫猥な感覚を覚えたような気がした。
「はい……。ご心配をおかけして、申し訳ありません」
心の底で燃えようとするものを必死に抑え、モニカは王女らしく上品な対応をしたつもりだ。けれど、どうしてもクライヴの唇に触れている手が震えてしまう。
「俺が怖い? これから夫婦として閨を共にするのは……嫌か?」
そう尋ねられ、考えないようにしようとしていたことそのものの問いに、モニカは内心「ああ」と声を出す。
結婚をすれば、初夜というものがある。
国にいた頃も、然るべき年齢になってからそういう教育を受けた。
ケイシーとも、彼女の恋愛観を聞いたり、城内の浮き話などを聞いた。噂でどこの貴族とどこの令嬢がいい仲なのだとケイシーと話しては、彼らのロマンスを勝手に想像していた。
それに――今は自分が直面しようとしている。
「優しく……、してくださるのなら……」
彼の青い目を見つめられず、モニカは金色の睫毛を震わせ視線を落とした。
それが男の劣情を誘う行動だとも知らずに――。
「もちろん、優しくするよ」
クライヴは気が変になりそうだった。
記憶にあるモニカは、天真爛漫で性のことなどちっとも知識になさそうなイメージがあった。いい意味でも悪い意味でも、まだ子供っぽさを残していたように思える。
しかし目の前にいる彼女は、大人の女性の憂いと恥じらいを持っている。
明らかに自分を意識する態度に、握った手の火照ったかのような温度。小鳥か兎のように震えている乙女の手に、今すぐにでも舌を這わせたい衝動に駆られた。
(まだだ……。彼女を抱くのは結婚してからだ)
だが健康的な成人男性の本能に、クライブの王子としての矜持と誠実な性格が勝った。
色欲など微塵も見せない完璧なプリンス・スマイルを浮かべると、モニカも安心したように微笑む。
「良かった……。耳に入ってくる噂では、殿方って閨に入ると獣のように変貌すると聞きましたので」
「――――」
だが、どこか残っているモニカの無邪気さが、クライヴの折角の努力を台無しにしかけた。
「モ……モニカは、閨で男がどう変貌するのか知っているのか?」
我ながら、引き攣った微笑みを浮かべているのかもしれない。
そう思いつつ、クライヴは平常心を保つ。
「えっ? あの……、く、詳しくは……。ただ、子作りをするのでしょう? だ、抱き合って愛し合い、……と、殿方から子供の種を頂くのだと乳母が……」
「…………」
知ったような口をきいて誘惑したかと思えば、その実何も知らない生娘の顔を見せる。
(こんな……、魔性の女だったっけ? モニカは)
形のいい唇を引き結びすぎて曲がってしまい、クライヴはとても――変な顔になっていた。
「あの……、クライヴさま?」
何か変なことを言ってしまっただろうかと、モニカは心配になって彼を覗き込む。
「君は、俺とキスをしたことも忘れてる?」
燃えたぎるマグマのような欲望を抑え込み、クライヴは一度溜息をつく。それがモニカに誤解を与えてしまった。
「ご、ごめんなさい……。本当に……、あなたと恋をしたことは覚えていなくて……」
隣国にヴィンセント王国という国があるのも覚えていて、その王家にどのような人物がいるのかもちゃんと覚えている。けれどその第一王子であるクライヴとの思い出だけが、ポッカリと抜けているのだ。
それを、彼は悲しんで当然だと思った。
過去の自分を愛してくれたかもしれないのに、自分は薄情にも忘れてしまっている。
責められて当たり前だと思うし、こうやって溜息をつく権利だってあると思う。
「じゃあ、式の前に俺たちがしたことを、復習しようか」
クライヴの青い目の奥に、色を纏った炎が揺れる。
体をよりベッドの中央に乗り上げてモニカに寄り添うと、彼女を抱きしめた。
「言葉のままに、生涯添い遂げる相手として、敬い、愛するよ」
「……ふふ。もう司祭さまの前に立っているみたいですね」
クライヴはゆっくり腰を浮かし、モニカのベッドの端に座る。
「あ……」
近くなった距離にモニカは少し目を見張り、金色の睫毛の下エメラルドのような目がクライヴを見る。室内を揺らめかせながら照らす燭台に明かりを反射し、その目は溜息が漏れるほど美しかった。
「君も……約束してくれるか? もう俺の知らない所でケガをしないと」
クライヴはまたモニカの手を取り、じっと彼女を見つめたままその手を唇につけた。
指に柔らかな唇が触れ、その熱さにモニカは体を震わせる。
味わったこともないのに、何か淫猥な感覚を覚えたような気がした。
「はい……。ご心配をおかけして、申し訳ありません」
心の底で燃えようとするものを必死に抑え、モニカは王女らしく上品な対応をしたつもりだ。けれど、どうしてもクライヴの唇に触れている手が震えてしまう。
「俺が怖い? これから夫婦として閨を共にするのは……嫌か?」
そう尋ねられ、考えないようにしようとしていたことそのものの問いに、モニカは内心「ああ」と声を出す。
結婚をすれば、初夜というものがある。
国にいた頃も、然るべき年齢になってからそういう教育を受けた。
ケイシーとも、彼女の恋愛観を聞いたり、城内の浮き話などを聞いた。噂でどこの貴族とどこの令嬢がいい仲なのだとケイシーと話しては、彼らのロマンスを勝手に想像していた。
それに――今は自分が直面しようとしている。
「優しく……、してくださるのなら……」
彼の青い目を見つめられず、モニカは金色の睫毛を震わせ視線を落とした。
それが男の劣情を誘う行動だとも知らずに――。
「もちろん、優しくするよ」
クライヴは気が変になりそうだった。
記憶にあるモニカは、天真爛漫で性のことなどちっとも知識になさそうなイメージがあった。いい意味でも悪い意味でも、まだ子供っぽさを残していたように思える。
しかし目の前にいる彼女は、大人の女性の憂いと恥じらいを持っている。
明らかに自分を意識する態度に、握った手の火照ったかのような温度。小鳥か兎のように震えている乙女の手に、今すぐにでも舌を這わせたい衝動に駆られた。
(まだだ……。彼女を抱くのは結婚してからだ)
だが健康的な成人男性の本能に、クライブの王子としての矜持と誠実な性格が勝った。
色欲など微塵も見せない完璧なプリンス・スマイルを浮かべると、モニカも安心したように微笑む。
「良かった……。耳に入ってくる噂では、殿方って閨に入ると獣のように変貌すると聞きましたので」
「――――」
だが、どこか残っているモニカの無邪気さが、クライヴの折角の努力を台無しにしかけた。
「モ……モニカは、閨で男がどう変貌するのか知っているのか?」
我ながら、引き攣った微笑みを浮かべているのかもしれない。
そう思いつつ、クライヴは平常心を保つ。
「えっ? あの……、く、詳しくは……。ただ、子作りをするのでしょう? だ、抱き合って愛し合い、……と、殿方から子供の種を頂くのだと乳母が……」
「…………」
知ったような口をきいて誘惑したかと思えば、その実何も知らない生娘の顔を見せる。
(こんな……、魔性の女だったっけ? モニカは)
形のいい唇を引き結びすぎて曲がってしまい、クライヴはとても――変な顔になっていた。
「あの……、クライヴさま?」
何か変なことを言ってしまっただろうかと、モニカは心配になって彼を覗き込む。
「君は、俺とキスをしたことも忘れてる?」
燃えたぎるマグマのような欲望を抑え込み、クライヴは一度溜息をつく。それがモニカに誤解を与えてしまった。
「ご、ごめんなさい……。本当に……、あなたと恋をしたことは覚えていなくて……」
隣国にヴィンセント王国という国があるのも覚えていて、その王家にどのような人物がいるのかもちゃんと覚えている。けれどその第一王子であるクライヴとの思い出だけが、ポッカリと抜けているのだ。
それを、彼は悲しんで当然だと思った。
過去の自分を愛してくれたかもしれないのに、自分は薄情にも忘れてしまっている。
責められて当たり前だと思うし、こうやって溜息をつく権利だってあると思う。
「じゃあ、式の前に俺たちがしたことを、復習しようか」
クライヴの青い目の奥に、色を纏った炎が揺れる。
体をよりベッドの中央に乗り上げてモニカに寄り添うと、彼女を抱きしめた。
11
お気に入りに追加
1,533
あなたにおすすめの小説

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。


魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる