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「さぁ……、どうでしょう。誰かに刺されず健康に平穏に生きれば、百は優に超えると思います。うちの男系が有している血には、代謝を遅らせる機能があります。他にも五感が異様に発達して……聴覚や嗅覚、味覚が特に鋭くなります」
一族の秘密を明かした時人がそっと鼻から息を吸い込むと、目の前で当惑した表情を隠せない葵の香りが鋭敏に感じられる。
「時人さんの世界は……どんな世界なんですか? 動物が聞くような音を聞いて……味覚は……」
そこまで言って葵は口を閉ざし、想像ができないと唇が言葉を失ってしまう。
「そうですね、動物そのものと言った方がいいような気がします。人は皆もっと目が良ければ、耳が良ければと言いますが、何事も『過ぎる』モノは、いい結果をもたらすとは限りません。この東京という街にいれば雑多とした音や臭いが溢れ、視覚情報も混沌としています。味覚は……香辛料の使われていない生野菜やシンプルなパンや米……。そういう物が一番楽です」
家柄や学力、外見にも恵まれた時人が、自分の事を『動物』と言っているのに葵は悲しさを感じる。
「時人さんが楽しいと思う事はなんですか?」
この世の全てに絶望しているような時人に、葵は何か救いを与えたかった。
それでなければ、こんな優しい人が素直に笑顔すら浮かべる事ができない世界は、なんて残酷なのだろうと思う。
「正直、特に……ないんです。趣味は読書と映画鑑賞ぐらいで、その中で特に気に入っている作家や監督、俳優とかもいません。創作者には失礼かもしれませんが、暇潰しという感じで鑑賞しています。その分勉強に打ち込んではみましたが、これも楽しいとは思えなくて……」
そこまで言って時人は葵を見つめ、じっと彼女の奥底まで見透かすような薄い色素の目は、ほの暗い熱を孕んでいた。
「今は……葵さんに夢中です」
ジッ……、と暗闇の中でライターの火が灯ったような声だった。
少し前まで葵は自分からグイグイと時人に迫っていた。逆に彼からこう求められるのはずっと望んでいた事だと思っていたのに、葵は突然狼狽えてしまった。
「えっ……、私……?」
驚いた後に誤魔化すような笑顔が浮かび、後ろの手がソファの手すりにかかる。
「言ったじゃないですか。あなたに一目惚れをしたと」
図らずも先ほどの葵と同じ事を言い、時人はじっと葵から目を離さない。
色素の薄い目は陽に当たって琥珀色に輝き、それが人ならざる者という印象を強める。男にしては長い睫毛が少し伏せられ、前髪がそれに細かな影を落としていた。スッとした鼻梁もその下の潔癖そうな薄い唇も、葵から見れば現実離れした美青年に見える。
だが美青年という要素が時人の全てではなく、彼はその奥に化け物を飼っている。
「怖いですか?」
熱を孕んだ目でじっと葵を見つめ、この世に絶望した吸血鬼はただ一つの希望を求める。
日本人離れした虹彩の中に魅了する力があるのかと感じつつ――、葵は震える声で本心を告げた。
「少し怖い……です。……けど、時人さんの事は好き」
逃げかけていた手は膝の上に戻り、胸を震わせた葵は手を差し伸べ――時人の頬に触れた。
「あなたからはとてもいい匂いがするんです。これまで俺の人生の中で嗅いだ事のない、理性を失ってしまいそうな清純で官能的な匂い。最初はそれに惹かれて……、今は美作葵さんという一個人に惹かれています」
「私……、匂いますか?」
臭いと言われた気持ちになって葵は羞恥覚え、頻りに自分の服や腕などを嗅ぎ始める。
「あぁ、いえ。そうじゃないんです。香水の香りとか、汗の匂いとかじゃなくて……。多分、あなたの血の香りなんだと思います」
「血の?」
きょとんとした葵は、自分の手の甲に透ける血管を見る。果たして皮膚の下にあるものが匂うのだろうかと首を傾げる。
そんな風に隙を見せていた葵に、時人はスッと顔を寄せ彼女の首元で囁く。
「こうすると、あなたの香りを強く感じます」
「え……っ」
驚いた葵は背後に手をつき、ソファの手すりに倒れ込んだ。時人は彼女を押し倒すようにもう一つ空間を詰める。
「あ……、時人……さん」
葵は胸を高鳴らせ、彼の目を見て固まった。
――赤い。
時人の色素の薄い目が、血の色のように赤くなっていた。
「あなたが……欲しい」
葵の血の香りに興奮した時人は呟き、獲物を定めた猛禽の如く葵を凝視する。馥郁たる香りが脳髄を蕩かし、どうにかなってしまいそうだ。
「血を……吸うんですか?」
葵の目は期待と不安、僅かな恐怖を纏って時人を見つめ返す。その大きな瞳に目を赤く光らせた自分がいることに気付いた時人は、ハッとして横を向いた。
「……吸いません。俺は……化け物じゃない」
その傷付いた言い方に、葵は言葉を間違えたと、時人の首に腕を回していた。
「ごめんなさい……っ。時人さんが優しい人やて事も、ご自身の事で悩んではるのも分かってます。……今、嫌な言い方しましたやんね。すみません」
首筋に当たる手は柔らかく、顔を背けているのに、葵からはシャンプーの香りに混じって血の香りが匂い立つ。
甘露の蜜を溜めた美しい花の前で、時人という蜜蜂はずっと躊躇っていた。
「いいえ……」
苦しげに言う時人が愛しくて堪らず、葵はまだ心の中に微かな恐怖を抱えたまま、彼を迎える。
「時人さん、私……時人さんならええんです。血を吸われても、何をされても」
愛を乞う声に恐る恐る葵を見下ろすと、彼女は期待した目で時人を見上げていた。
「素敵やないですか。恋をした人が吸血鬼さんやなんて。私、時人さんの特別な人になれますか?」
ピアノを奏でていた指は時人の顎にかかり、優しくその輪郭を撫でる。
「あなたは……出会った時から既に特別な存在です」
誘う葵に時人は不器用に答え、震える指が初恋の人の唇をそっとなぞる。
「好きにして……ええですよ。時人さんなら、私、何されてもええんです」
そう言って葵は眠りに就く時のように軽く目蓋を閉じ、訪れる唇か――あるいは牙を待つ。
無防備になった葵を見て、時人は丹花の唇や華奢な首筋に思わずゴクッと喉を鳴らした。
彼女が目を閉じているからこそ、その美貌をじっくりと鑑賞することができる。芸能人顔負けの美人が目を閉じている様は、まるで眠りの森の美女だ。
もう一度柔らかい唇に触れると、ほんの少し葵の唇が開いた。
白い頬を撫で、額から卵形の輪郭を撫で下ろし指を辿らせると、葵が小さく笑う。
「時人さん、くすぐったいです」
「すみません」
それに時人も小さく笑い、もう一度葵を撫でてからそっと唇を重ねた。
アイボリーのソファの上で時人の背中が僅かに動き、二人の間から湿った音がする。
それを、襖の間から幼い目がじっと見ていた。
いつの間にか昼寝から起きた沙夜が、二人が話しているのにじっと聞き耳を立てていたのだ。
四歳の沙夜にまだ男女の事は分からない。
けれど、大好きな葵ちゃんと今日会ったばかりの優しいお兄ちゃんが、仲が良さそうに話をしていて触れ合っているのは分かる。
幼い沙夜にもたどたどしい愛情表現は伝わり、二人が倒れ込むようにしてソファの陰に消えてしまったのを、ドキドキとして見ていた。
(葵ちゃん、きっとお兄ちゃんとケッコンするんだ。パパとママみたいにトクベツになるんだ)
小さな沙夜の心の中では、大好きな葵ちゃんと優しくて格好いいお兄ちゃんが、くっついてケッコンしてしまえばいいと、事を単純に捉え、希望している。
(葵ちゃん、お嫁さんドレス着るのかな……)
沙夜の心の中では大好きな葵ちゃんが、アニメのお姫様のようなドレスを着て笑っている。その隣にはタキシードを着た時人がいて、やはりこちらも王子様のように笑っている。
(あの二人、ケッコンしたらいいな。さやもママに綺麗なお洋服着せてもらえるかな)
そこまで考えて沙夜の下腹部にジワッとした痛みが走り、尿意を我慢できなくなった沙夜は、わざとその場で足踏みをした。
「葵ちゃん、おしっこ」
カタンと襖を開くと、そこには座り姿に戻っている二人がいる。
「あっ、さっちゃんおトイレ? 葵ちゃんと一緒に行こか」
葵はソファに倒れ込んで見えなくなってしまう前と変わらず、優しい笑顔で沙夜に応対する。沙夜が洗面所に向かう際、一瞬時人を振り向くと、彼は耳まで真っ赤になって窓の方を向いていた。
(お兄ちゃん、葵ちゃんを離したらだめよ)
おませな沙夜は心の中で嗜めて、いそいそと足を動かすのだった。
一族の秘密を明かした時人がそっと鼻から息を吸い込むと、目の前で当惑した表情を隠せない葵の香りが鋭敏に感じられる。
「時人さんの世界は……どんな世界なんですか? 動物が聞くような音を聞いて……味覚は……」
そこまで言って葵は口を閉ざし、想像ができないと唇が言葉を失ってしまう。
「そうですね、動物そのものと言った方がいいような気がします。人は皆もっと目が良ければ、耳が良ければと言いますが、何事も『過ぎる』モノは、いい結果をもたらすとは限りません。この東京という街にいれば雑多とした音や臭いが溢れ、視覚情報も混沌としています。味覚は……香辛料の使われていない生野菜やシンプルなパンや米……。そういう物が一番楽です」
家柄や学力、外見にも恵まれた時人が、自分の事を『動物』と言っているのに葵は悲しさを感じる。
「時人さんが楽しいと思う事はなんですか?」
この世の全てに絶望しているような時人に、葵は何か救いを与えたかった。
それでなければ、こんな優しい人が素直に笑顔すら浮かべる事ができない世界は、なんて残酷なのだろうと思う。
「正直、特に……ないんです。趣味は読書と映画鑑賞ぐらいで、その中で特に気に入っている作家や監督、俳優とかもいません。創作者には失礼かもしれませんが、暇潰しという感じで鑑賞しています。その分勉強に打ち込んではみましたが、これも楽しいとは思えなくて……」
そこまで言って時人は葵を見つめ、じっと彼女の奥底まで見透かすような薄い色素の目は、ほの暗い熱を孕んでいた。
「今は……葵さんに夢中です」
ジッ……、と暗闇の中でライターの火が灯ったような声だった。
少し前まで葵は自分からグイグイと時人に迫っていた。逆に彼からこう求められるのはずっと望んでいた事だと思っていたのに、葵は突然狼狽えてしまった。
「えっ……、私……?」
驚いた後に誤魔化すような笑顔が浮かび、後ろの手がソファの手すりにかかる。
「言ったじゃないですか。あなたに一目惚れをしたと」
図らずも先ほどの葵と同じ事を言い、時人はじっと葵から目を離さない。
色素の薄い目は陽に当たって琥珀色に輝き、それが人ならざる者という印象を強める。男にしては長い睫毛が少し伏せられ、前髪がそれに細かな影を落としていた。スッとした鼻梁もその下の潔癖そうな薄い唇も、葵から見れば現実離れした美青年に見える。
だが美青年という要素が時人の全てではなく、彼はその奥に化け物を飼っている。
「怖いですか?」
熱を孕んだ目でじっと葵を見つめ、この世に絶望した吸血鬼はただ一つの希望を求める。
日本人離れした虹彩の中に魅了する力があるのかと感じつつ――、葵は震える声で本心を告げた。
「少し怖い……です。……けど、時人さんの事は好き」
逃げかけていた手は膝の上に戻り、胸を震わせた葵は手を差し伸べ――時人の頬に触れた。
「あなたからはとてもいい匂いがするんです。これまで俺の人生の中で嗅いだ事のない、理性を失ってしまいそうな清純で官能的な匂い。最初はそれに惹かれて……、今は美作葵さんという一個人に惹かれています」
「私……、匂いますか?」
臭いと言われた気持ちになって葵は羞恥覚え、頻りに自分の服や腕などを嗅ぎ始める。
「あぁ、いえ。そうじゃないんです。香水の香りとか、汗の匂いとかじゃなくて……。多分、あなたの血の香りなんだと思います」
「血の?」
きょとんとした葵は、自分の手の甲に透ける血管を見る。果たして皮膚の下にあるものが匂うのだろうかと首を傾げる。
そんな風に隙を見せていた葵に、時人はスッと顔を寄せ彼女の首元で囁く。
「こうすると、あなたの香りを強く感じます」
「え……っ」
驚いた葵は背後に手をつき、ソファの手すりに倒れ込んだ。時人は彼女を押し倒すようにもう一つ空間を詰める。
「あ……、時人……さん」
葵は胸を高鳴らせ、彼の目を見て固まった。
――赤い。
時人の色素の薄い目が、血の色のように赤くなっていた。
「あなたが……欲しい」
葵の血の香りに興奮した時人は呟き、獲物を定めた猛禽の如く葵を凝視する。馥郁たる香りが脳髄を蕩かし、どうにかなってしまいそうだ。
「血を……吸うんですか?」
葵の目は期待と不安、僅かな恐怖を纏って時人を見つめ返す。その大きな瞳に目を赤く光らせた自分がいることに気付いた時人は、ハッとして横を向いた。
「……吸いません。俺は……化け物じゃない」
その傷付いた言い方に、葵は言葉を間違えたと、時人の首に腕を回していた。
「ごめんなさい……っ。時人さんが優しい人やて事も、ご自身の事で悩んではるのも分かってます。……今、嫌な言い方しましたやんね。すみません」
首筋に当たる手は柔らかく、顔を背けているのに、葵からはシャンプーの香りに混じって血の香りが匂い立つ。
甘露の蜜を溜めた美しい花の前で、時人という蜜蜂はずっと躊躇っていた。
「いいえ……」
苦しげに言う時人が愛しくて堪らず、葵はまだ心の中に微かな恐怖を抱えたまま、彼を迎える。
「時人さん、私……時人さんならええんです。血を吸われても、何をされても」
愛を乞う声に恐る恐る葵を見下ろすと、彼女は期待した目で時人を見上げていた。
「素敵やないですか。恋をした人が吸血鬼さんやなんて。私、時人さんの特別な人になれますか?」
ピアノを奏でていた指は時人の顎にかかり、優しくその輪郭を撫でる。
「あなたは……出会った時から既に特別な存在です」
誘う葵に時人は不器用に答え、震える指が初恋の人の唇をそっとなぞる。
「好きにして……ええですよ。時人さんなら、私、何されてもええんです」
そう言って葵は眠りに就く時のように軽く目蓋を閉じ、訪れる唇か――あるいは牙を待つ。
無防備になった葵を見て、時人は丹花の唇や華奢な首筋に思わずゴクッと喉を鳴らした。
彼女が目を閉じているからこそ、その美貌をじっくりと鑑賞することができる。芸能人顔負けの美人が目を閉じている様は、まるで眠りの森の美女だ。
もう一度柔らかい唇に触れると、ほんの少し葵の唇が開いた。
白い頬を撫で、額から卵形の輪郭を撫で下ろし指を辿らせると、葵が小さく笑う。
「時人さん、くすぐったいです」
「すみません」
それに時人も小さく笑い、もう一度葵を撫でてからそっと唇を重ねた。
アイボリーのソファの上で時人の背中が僅かに動き、二人の間から湿った音がする。
それを、襖の間から幼い目がじっと見ていた。
いつの間にか昼寝から起きた沙夜が、二人が話しているのにじっと聞き耳を立てていたのだ。
四歳の沙夜にまだ男女の事は分からない。
けれど、大好きな葵ちゃんと今日会ったばかりの優しいお兄ちゃんが、仲が良さそうに話をしていて触れ合っているのは分かる。
幼い沙夜にもたどたどしい愛情表現は伝わり、二人が倒れ込むようにしてソファの陰に消えてしまったのを、ドキドキとして見ていた。
(葵ちゃん、きっとお兄ちゃんとケッコンするんだ。パパとママみたいにトクベツになるんだ)
小さな沙夜の心の中では、大好きな葵ちゃんと優しくて格好いいお兄ちゃんが、くっついてケッコンしてしまえばいいと、事を単純に捉え、希望している。
(葵ちゃん、お嫁さんドレス着るのかな……)
沙夜の心の中では大好きな葵ちゃんが、アニメのお姫様のようなドレスを着て笑っている。その隣にはタキシードを着た時人がいて、やはりこちらも王子様のように笑っている。
(あの二人、ケッコンしたらいいな。さやもママに綺麗なお洋服着せてもらえるかな)
そこまで考えて沙夜の下腹部にジワッとした痛みが走り、尿意を我慢できなくなった沙夜は、わざとその場で足踏みをした。
「葵ちゃん、おしっこ」
カタンと襖を開くと、そこには座り姿に戻っている二人がいる。
「あっ、さっちゃんおトイレ? 葵ちゃんと一緒に行こか」
葵はソファに倒れ込んで見えなくなってしまう前と変わらず、優しい笑顔で沙夜に応対する。沙夜が洗面所に向かう際、一瞬時人を振り向くと、彼は耳まで真っ赤になって窓の方を向いていた。
(お兄ちゃん、葵ちゃんを離したらだめよ)
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