72 / 76
獣
しおりを挟む
『~~~~っ!! っあぁあああぁあっ!!』
私は自分がしでかした罪の重さに号泣し、肉の悦びに負けて腰を動かした。
心も、体も、ボロボロだ。
もともと精神的に揺らぎのあった私は、誤った一歩を踏み出し、完全に壊れてしまった。
――愛してほしいと頼まれたのに、私は何をやっている!?
――これが優那の望んだ事か!?
――私は、最愛の彼女が最期に願った事すら、叶える事ができなかった……!
――私は何をやっている? 私が抱いているのは、私が愛しているのは、私が罰を与えているのは……。
私は荒くなった息を繰り返しながら、恐る恐ると冬夜を見る。
力でねじ伏せられ、屈辱と怒り、悲しみにまみれて泣きながら、ぐったりと横たわっているのは――、守られるべき子供だ。
『あ……、あぁあ……、あー……、あ……、あ、ははは……、は……。はははは……っ』
私はうつろな目から涙を流し、口端から涎を垂らして乾いた笑いを漏らす。
――クズだと思っていたが、ここまで堕ちたのか。
――まるで獣だ。
私はゆらりと体を揺らし、壊れたマリオネットのようにカタカタと肩を上下させて笑ったあと――、下半身を露出させたまま台所に向かった。
居間には私と冬夜の行為に耐えきれず、テレビを見て気持ちを誤魔化していた涼子がいたが、私の姿を見てギョッと目を見開いた。
『……あなた……』
そして私が躊躇いもなく包丁を抜いたのを見て、ハッとすると慌てて駆け寄ってきた。
『やめて!!』
『……死なせてくれよぉ……、もう僕は生きていちゃ駄目なんだ……』
私は涙と涎を垂らし、『へへっ、へへっ……』と笑いながら包丁を自分の腹部に突き刺そうとする。
大粒の涙を流した涼子はパンッと私の頬を平手で張ったあと、叩きつけるように言う。
『生きて!!』
包丁が床に落ちたあと、私は力なくキッチン台にもたれ掛かり、ズルズルとしゃがみ込む。
涼子は包丁を拾うと、悲しみや怒り、絶望、様々な感情がこもった目で私を睨んだ。
『……北條先輩の子供を育てると決意して、今まで世間を欺き続けたのでしょう? 一人で子育てをしていたら怪しまれるかもしれないから、妻役を欲して私と結婚したんでしょう? ……なら、最後まで嘘をついて』
涼子は食卓テーブルの上に包丁を置き、疲れたように食卓椅子に座る。
『あなたが最低な人なのは分かってる。あなたは妻である私に目もくれず、今だって北條先輩の面影と死に囚われて、現実を見られていない可哀想な人。……でも、一度責任を負って私たち親子を養うと決めたなら、無責任に死んだりしないで』
彼女は震える声で言ったあと、嗚咽しながらきつく拳を握る。
『私だってつらいのよ……っ! 本当は冬夜と春佳を自分の子供として愛して、ちゃんと面倒をみてあげたい。……でも……っ、あなたは冬夜を北條先輩だと思い込んでいるし、春佳は私をレイプした男の子供だし……っ、どうすればいいのよっ!』
ヒステリックに叫んだあと、涼子は「ハーッ、ハーッ」と呼吸を繰り返し、自分を抱き締めてトントン両手で背中を叩く。
それは心理士から教わった自分をハグする方法で、どうしようもなく寂しく孤独を感じた時、セルフケアとして背中を叩くといいと言われたらしい。
背中は誰かに抱き締められでもしない限り、自分では触れない所だから、人はそこに温もりを感じるだけで安らぎを得るのだという。
私は彼女の様子を見て、自分がろくに妻を抱き締めてもいないと自覚した。
マンションのあちこちから、くぐもった鳴き声が聞こえる。
私も、涼子も、冬夜も、酷く傷付いてボロボロになっている。
何も知らない春佳だけは、今頃穏やかな夢の中だろう。
落ち着いたらしい涼子は溜め息をつき、荒んだ目で私を見て言った。
『とにかく、マンションのローンも終わっていないのに身勝手な真似をしないで。自分に価値を見いだしたいなら、頑張って働いて私たちの生活費を稼いで。あなたが心の中で私たちをどう思おうが、お金だけは裏切らないから』
そう言ったあと、涼子はもう一度深い溜め息をついて続ける。
『……子供をまともに愛せない親でも、お金があるなら二人を大学に入れるまで面倒を見るべきだわ』
まっとうな事を言われ、私は小さく頷いた。
私は自分がしでかした罪の重さに号泣し、肉の悦びに負けて腰を動かした。
心も、体も、ボロボロだ。
もともと精神的に揺らぎのあった私は、誤った一歩を踏み出し、完全に壊れてしまった。
――愛してほしいと頼まれたのに、私は何をやっている!?
――これが優那の望んだ事か!?
――私は、最愛の彼女が最期に願った事すら、叶える事ができなかった……!
――私は何をやっている? 私が抱いているのは、私が愛しているのは、私が罰を与えているのは……。
私は荒くなった息を繰り返しながら、恐る恐ると冬夜を見る。
力でねじ伏せられ、屈辱と怒り、悲しみにまみれて泣きながら、ぐったりと横たわっているのは――、守られるべき子供だ。
『あ……、あぁあ……、あー……、あ……、あ、ははは……、は……。はははは……っ』
私はうつろな目から涙を流し、口端から涎を垂らして乾いた笑いを漏らす。
――クズだと思っていたが、ここまで堕ちたのか。
――まるで獣だ。
私はゆらりと体を揺らし、壊れたマリオネットのようにカタカタと肩を上下させて笑ったあと――、下半身を露出させたまま台所に向かった。
居間には私と冬夜の行為に耐えきれず、テレビを見て気持ちを誤魔化していた涼子がいたが、私の姿を見てギョッと目を見開いた。
『……あなた……』
そして私が躊躇いもなく包丁を抜いたのを見て、ハッとすると慌てて駆け寄ってきた。
『やめて!!』
『……死なせてくれよぉ……、もう僕は生きていちゃ駄目なんだ……』
私は涙と涎を垂らし、『へへっ、へへっ……』と笑いながら包丁を自分の腹部に突き刺そうとする。
大粒の涙を流した涼子はパンッと私の頬を平手で張ったあと、叩きつけるように言う。
『生きて!!』
包丁が床に落ちたあと、私は力なくキッチン台にもたれ掛かり、ズルズルとしゃがみ込む。
涼子は包丁を拾うと、悲しみや怒り、絶望、様々な感情がこもった目で私を睨んだ。
『……北條先輩の子供を育てると決意して、今まで世間を欺き続けたのでしょう? 一人で子育てをしていたら怪しまれるかもしれないから、妻役を欲して私と結婚したんでしょう? ……なら、最後まで嘘をついて』
涼子は食卓テーブルの上に包丁を置き、疲れたように食卓椅子に座る。
『あなたが最低な人なのは分かってる。あなたは妻である私に目もくれず、今だって北條先輩の面影と死に囚われて、現実を見られていない可哀想な人。……でも、一度責任を負って私たち親子を養うと決めたなら、無責任に死んだりしないで』
彼女は震える声で言ったあと、嗚咽しながらきつく拳を握る。
『私だってつらいのよ……っ! 本当は冬夜と春佳を自分の子供として愛して、ちゃんと面倒をみてあげたい。……でも……っ、あなたは冬夜を北條先輩だと思い込んでいるし、春佳は私をレイプした男の子供だし……っ、どうすればいいのよっ!』
ヒステリックに叫んだあと、涼子は「ハーッ、ハーッ」と呼吸を繰り返し、自分を抱き締めてトントン両手で背中を叩く。
それは心理士から教わった自分をハグする方法で、どうしようもなく寂しく孤独を感じた時、セルフケアとして背中を叩くといいと言われたらしい。
背中は誰かに抱き締められでもしない限り、自分では触れない所だから、人はそこに温もりを感じるだけで安らぎを得るのだという。
私は彼女の様子を見て、自分がろくに妻を抱き締めてもいないと自覚した。
マンションのあちこちから、くぐもった鳴き声が聞こえる。
私も、涼子も、冬夜も、酷く傷付いてボロボロになっている。
何も知らない春佳だけは、今頃穏やかな夢の中だろう。
落ち着いたらしい涼子は溜め息をつき、荒んだ目で私を見て言った。
『とにかく、マンションのローンも終わっていないのに身勝手な真似をしないで。自分に価値を見いだしたいなら、頑張って働いて私たちの生活費を稼いで。あなたが心の中で私たちをどう思おうが、お金だけは裏切らないから』
そう言ったあと、涼子はもう一度深い溜め息をついて続ける。
『……子供をまともに愛せない親でも、お金があるなら二人を大学に入れるまで面倒を見るべきだわ』
まっとうな事を言われ、私は小さく頷いた。
3
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる