【R-18】有罪愛

臣桜

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阿修羅の愛

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 冬夜が育っていくにつれ、私は彼の中に優那の面影を強く見るようになった。

 ふとした横顔や眼差し、凜とした雰囲気が記憶の中の彼女に重なり、冬夜の事がとても愛しく、自分のすべてを捧げてもいいと思うようになった。

 だがそれ以外の部分――、自分の知らない部分を見ると、三神の汚らしい血が混じっているように感じ、時々触れる事すら嫌になる。

 ――駄目だ。

 ――私は彼女と約束して、冬夜を立派に育てると誓ったのだから。

 私は愛しさと憎しみの狭間で苦しみ、よりいっそう冬夜を〝愛そう〟と努力した。

 彼の中に優那を重ねて愛撫する時、冬夜は不思議そうな顔で私を凝視する。

 ――あぁ、そんな目で私を見ないでくれ、優那。

 ――私のような底辺の男が君のような女神に触れようなんて、おこがましいと分かっている。

 ――でも仕方がないじゃないか、私は親で君を愛する義務がある。

 私はまるで阿修羅だ。

 冬夜を慈しむ顔と憎む顔、他の人に見せる〝昼〟の顔を代わる代わる使い、どれが本当の自分なのか見失っている。

 冬夜はまだ自分が性被害を受けていると自覚していないが、無意識に怯えを感じているようで、その不安を春佳を可愛がる事で誤魔化そうとしていた。

 涼子は私と冬夜の関係を直視できず、春佳にも素直に愛情を注げず苦しんでいる。

 彼女が大きなストレスから精神的な発作を起こして泣き叫んでいる時、冬夜は自発的に春佳の面倒を見てあやしていた。

 私たち家族は、いつでもひび割れた薄氷の上にいる。

 小さな冬夜までもが様子のおかしい親にストレスを抱き、外の友達と遊ぶより妹を偏愛する事によって、自身を慰めようとしている。

 いつか瀧沢家は崩壊の時を迎えるだろう。

 私は滅びの日が訪れるのを知っていながら、それを止めようともせず、自身の心に大きな亀裂が入り、ポロポロと崩れていくのを感じつつ日々を送る。

 最後の日が訪れたなら、すべて私の責任だ。

 私さえきちんと〝父〟と〝夫〟をこなせていれば、家族は壊れずに済むと分かっている。

 だが私自身、すでに大きく壊れ、損なってしまった自分を救う事ができずにいる。

 涼子がどれだけ私に愛情を注ぎ『愛している』と言っても、まったく彼女に愛情を抱けなかったし、夫婦の役目を果たす事もできなかった。

 ――そう。私と涼子は春佳の育児が落ち着いたあと、何度か夫婦としてセックスできないか試みた事があった。

 しかし私は涼子に性欲を抱けず役に立たないまま、涼子も私に恋情を持っているものの、男にのし掛かられるとトラウマを思い出し発作を起こしてしまう。

 彼女は『庸一さんの子がほしい』と強く望んでいたが、私たちは夫婦として機能できないままだった。

 その事が余計に涼子を苦しめ、彼女が冬夜をいっそう憎む理由となった。





 冬夜が小学校で性教育を受けた頃から、彼は激しく私に反発するようになった。

 優那が亡くなってから十二年、私は狂いゆく自分を誤魔化しながら自分の子ではない二人を育ててきた。

 血は繋がっておらず、春佳にいたっては満足に愛せていないが、私はいっぱしの親のつもりでいた。

 冬夜が刃向かえば『親に向かってなんだその口の利き方は!』と怒り、自分の意のままにならない優那に苛立った。

 ――このままでは、彼女はまた私ではない男を見るようになる。

 ――そうなる前に、私のものにしなくては。

 だけは駄目だと長年自分に言い聞かせていたが――、ある日私はとうとう禁忌を破ってしまった。

 狭隘な肉に包まれた時、生まれてこの方感じた事のない快感と支配欲を抱いた。

 冬夜が激しく震えて布団に顔を押しつけ、くぐもった悲鳴を上げているなか、私は夢にまで見た優那との交歓に歓喜した。

 ――あぁ、やっと繋がれた。

 私は悦びにむせび泣くいっぽうで、自分が人間として終わった事を感じていた。

 ――私は愛する女性を抱いている。

 ――私は憎い男の子供を罰している。

 相反する想いが心の中で激しく乱反射するなか――、脳裏で優那の手紙の最後の言葉が蘇った。

【だからお願いします。私ができなかった分、あなたが樹を愛してあげて】
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