69 / 91
即席家族
しおりを挟む
そのように、カップ麺のような即席家族ができた。
両親に結婚すると伝えると、相手が妊婦だと知るや否や心底呆れられた。
母は『あなたは何なの!』と混乱しきり、まともに育っていない私に苛立ちをぶつける。
しかし同じ女性として臨月の妊婦を無下に扱う事はできず、話は無事に子供が生まれてからという事になった。
あとから説教するとの事だが、両親はとうに諦めているように思えた。
もともと、一夜限りの関係であるカナコの〝息子〟を、女の子として育てているところから、まともではないと感じていたのだろう。
説教をしても涼子が子供を産めば育てなければならないし、『父親になる覚悟はある』と言い張るなら、好きにさせるしか選択肢はない。
冬夜を育て始めた時もだが、今まで私は一度も、両親に『助けてほしい』と言わず自力で何とかしてきたから、両親としても渋々承諾するしかないと思っていた。
やがて、涼子は女の子を出産した。
三月三日生まれのその子は、クリスマス生まれの冬夜に対して春佳と名付けられた。
春佳は誕生時に体が小さくて成長に懸念があったが、涼子と二人三脚で育てるうちに普通の子と同じような成長を見せ、安堵した。
大きくなるにつれて体調を崩す事はなくなったが、育児ノイローゼになりかけていた涼子は、初めての子である事も相まってとても心配性になっていた。
私は涼子に専業主婦として家を守ってもらい、子供たちの世話を頼んだ。
彼女が春佳に満足な愛情を持てないのは承知の上だが、私との約束は守ってくれると信じていたからだ。
確かに涼子はきちんと食事を作り、掃除や洗濯など家事もこなし、子供たちの面倒もみてくれた。
けれど春佳を見ては泣き始める事もあり、情緒面に不安があった。
彼女はレイプされてから精神科に通っているらしく、今もずっと薬を飲んでいる。
心身共に健康な女性でも、子育てをしていれば疲れ果てる。
私は育児経験があるが、涼子は初めての子育ての上、情緒が安定していない。
だからなのか、以前のように母が家を訪れては、涼子を慰めた上で育児を手伝ってくれた。
涼子は母と共に過ごすうち、私が自分を助けてくれた事を打ち明けたようだ。
『先輩も冬夜の子育てで大変ななか、昔のよしみで、レイプされた子を身ごもって途方に暮れていた私を助けてくれたんです』と。
それを聞いたからか母の態度は次第に軟化し、私たち家族に協力的になっていった。
私が何度も繰り返した『どんな形であっても、血が繋がっていなくても家族だ』という言葉を、母なりに重たく受け止めたのだろう。
両親の中では私は〝いつまで立ってもまともに育たない息子〟だっただろうが、知らないうちに父になる覚悟、責任を持つ事を知ったのだと見直したのかもしれない。
やがて私たちは盆や正月になると、子供たちを連れて実家に行くようになった。
両親も孫とは血が繋がっていないと分かっているものの、自分たちを『お祖父ちゃん、お祖母ちゃん』と呼ぶ冬夜と春佳に愛おしさを感じているようだ。
母は涼子が不安定になった時の話し相手になり、食事やお茶に誘った。
それでも涼子の中にある不安、恐怖は消えないようだった。
いつ壊れるか分からない、薄氷の上の家族。
それが、瀧沢家だ。
二年後――。
『お願いだからやめて……っ』
暗闇のなか、涼子は嗚咽しながら私に哀願する。
親子四人、川の字で寝ているなか、私は髪を切ったばかりの冬夜の頬に口づけ、平らな胸を撫でていた。
涼子が初めてその行為を知った当初は、『養ってもらっているのだから目を瞑る』という態度を貫いていた。
が、次第に親としての自覚が芽生えてきたのか、倫理的に許されないと思って私を制止するようになってきた。
両親に結婚すると伝えると、相手が妊婦だと知るや否や心底呆れられた。
母は『あなたは何なの!』と混乱しきり、まともに育っていない私に苛立ちをぶつける。
しかし同じ女性として臨月の妊婦を無下に扱う事はできず、話は無事に子供が生まれてからという事になった。
あとから説教するとの事だが、両親はとうに諦めているように思えた。
もともと、一夜限りの関係であるカナコの〝息子〟を、女の子として育てているところから、まともではないと感じていたのだろう。
説教をしても涼子が子供を産めば育てなければならないし、『父親になる覚悟はある』と言い張るなら、好きにさせるしか選択肢はない。
冬夜を育て始めた時もだが、今まで私は一度も、両親に『助けてほしい』と言わず自力で何とかしてきたから、両親としても渋々承諾するしかないと思っていた。
やがて、涼子は女の子を出産した。
三月三日生まれのその子は、クリスマス生まれの冬夜に対して春佳と名付けられた。
春佳は誕生時に体が小さくて成長に懸念があったが、涼子と二人三脚で育てるうちに普通の子と同じような成長を見せ、安堵した。
大きくなるにつれて体調を崩す事はなくなったが、育児ノイローゼになりかけていた涼子は、初めての子である事も相まってとても心配性になっていた。
私は涼子に専業主婦として家を守ってもらい、子供たちの世話を頼んだ。
彼女が春佳に満足な愛情を持てないのは承知の上だが、私との約束は守ってくれると信じていたからだ。
確かに涼子はきちんと食事を作り、掃除や洗濯など家事もこなし、子供たちの面倒もみてくれた。
けれど春佳を見ては泣き始める事もあり、情緒面に不安があった。
彼女はレイプされてから精神科に通っているらしく、今もずっと薬を飲んでいる。
心身共に健康な女性でも、子育てをしていれば疲れ果てる。
私は育児経験があるが、涼子は初めての子育ての上、情緒が安定していない。
だからなのか、以前のように母が家を訪れては、涼子を慰めた上で育児を手伝ってくれた。
涼子は母と共に過ごすうち、私が自分を助けてくれた事を打ち明けたようだ。
『先輩も冬夜の子育てで大変ななか、昔のよしみで、レイプされた子を身ごもって途方に暮れていた私を助けてくれたんです』と。
それを聞いたからか母の態度は次第に軟化し、私たち家族に協力的になっていった。
私が何度も繰り返した『どんな形であっても、血が繋がっていなくても家族だ』という言葉を、母なりに重たく受け止めたのだろう。
両親の中では私は〝いつまで立ってもまともに育たない息子〟だっただろうが、知らないうちに父になる覚悟、責任を持つ事を知ったのだと見直したのかもしれない。
やがて私たちは盆や正月になると、子供たちを連れて実家に行くようになった。
両親も孫とは血が繋がっていないと分かっているものの、自分たちを『お祖父ちゃん、お祖母ちゃん』と呼ぶ冬夜と春佳に愛おしさを感じているようだ。
母は涼子が不安定になった時の話し相手になり、食事やお茶に誘った。
それでも涼子の中にある不安、恐怖は消えないようだった。
いつ壊れるか分からない、薄氷の上の家族。
それが、瀧沢家だ。
二年後――。
『お願いだからやめて……っ』
暗闇のなか、涼子は嗚咽しながら私に哀願する。
親子四人、川の字で寝ているなか、私は髪を切ったばかりの冬夜の頬に口づけ、平らな胸を撫でていた。
涼子が初めてその行為を知った当初は、『養ってもらっているのだから目を瞑る』という態度を貫いていた。
が、次第に親としての自覚が芽生えてきたのか、倫理的に許されないと思って私を制止するようになってきた。
3
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041


イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる