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後輩からの連絡
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二学年下の長瀬は、二十七歳のはずだ。
高校卒業後、彼女は年賀状のやり取りのほか定期的にメールをくれていたが、優那の事ばかり考えていた私はでろくに返信をしていなかった。
そしてお互い社会人になって忙しくなったあとは連絡の頻度が落ち、年に一回か二回になっていた。
私はいまだ長瀬の事を後輩以上に思えていなかったが、こんな私に関わり続けてくれる奇特な人だとは感じていた。
だから多少の情もあり、長瀬が私を頼りたいと言うなら話を聞くだけでも……と応じる事にしたのだ。
長瀬が指定してきたのは、東京駅近くのチェーン喫茶だ。
昨今カフェが流行りだして、流行を追うタイプの人たちはこぞってカフェめしだの言っているが、私はそういうものに疎い。
だからよく分からない物を出す店より、昔ながらの喫茶店のほうが落ち着く。
店に着くと、先に来ていた長瀬がこちらを見て会釈する。
席に向かう途中、私は長瀬の腹が大きい事に気付き、彼女も私が子連れだと気付いてお互い微妙な表情になった。
座ったあと、冬夜は礼儀正しく『こんにちは』を言う。
『こんにちは。……先輩のお子さんですか?』
二十七歳になった長瀬はロングヘアをハーフアップにし、淡い色のゆったりとしたワンピースを着ていた。
大人しそうな顔立ちは変わらないが、化粧をしているからか垢抜けた感じがあり、優那のような華やかさはないものの、魅力的な女性になった。
『……あ、…………そ、そうだ』
長瀬の問いに、私は言葉を詰まらせつつ頷く。
一言で言い表すには、冬夜の存在は複雑すぎる。
長瀬の目的がなんであるか分からない以上、下手に自分の情報を出さないほうがいいと判断した私は、今は詳しく言わない事にした。
私はコーヒーを頼み、冬夜はケーキとクリームソーダ、長瀬は妊婦という事もありレモンスカッシュを頼んでいた。
『……お元気でしたか? 先輩は変わりませんね』
先に長瀬が切りだし、私は色々あった事を伏せて曖昧に笑う。
『今は親の会社で働いている』
『ご結婚されたんですか?』
そう尋ねた長瀬は、ただ世間話をしているというより、私が既婚かどうかをやけに気にしているように思えた。
慎重に答えないとならないと感じた私は、先に彼女の用件を聞く事にする。
『……先に長瀬の話を聞かせてくれないか?』
そう言うと、彼女は視線を落として溜め息をつき、膨らんだ腹部に手を当てる。
それから気遣わしげに冬夜を見て、尋ねてきた。
『……これから話す内容は配慮が必要な事なんですが、その子……、大丈夫でしょうか?』
気遣った長瀬に、私は軽く微笑みかける。
『まだ五歳だし、難しい事は分からないから大丈夫だ』
長瀬は安心したように溜め息をつき、運ばれてきたレモンスカッシュを一口飲んでから語り出した。
『……私、この歳になっても彼氏ができなくて、家族や周りの人に心配されていたんです。上司も〝いいやつを紹介してやろうか?〟と世話を焼こうとしていました。……でも私の心の中にはまだ先輩がいて、その誘いに頷けなかったんです』
私は最後の言葉を聞き、溜め息をつく。
『……用意された相手と結婚するのに抵抗があったので、友達に誘われて合コンに行きました。……そうしたら連絡先を聞いてきた人を断れなくて、後日会った時にお酒を飲まされて、……ホテルに連れ込まれてしまって……』
長瀬の声が涙で歪む。
そこまで聞いた私は、彼女の腹が大きい理由を察した。
高校卒業後、彼女は年賀状のやり取りのほか定期的にメールをくれていたが、優那の事ばかり考えていた私はでろくに返信をしていなかった。
そしてお互い社会人になって忙しくなったあとは連絡の頻度が落ち、年に一回か二回になっていた。
私はいまだ長瀬の事を後輩以上に思えていなかったが、こんな私に関わり続けてくれる奇特な人だとは感じていた。
だから多少の情もあり、長瀬が私を頼りたいと言うなら話を聞くだけでも……と応じる事にしたのだ。
長瀬が指定してきたのは、東京駅近くのチェーン喫茶だ。
昨今カフェが流行りだして、流行を追うタイプの人たちはこぞってカフェめしだの言っているが、私はそういうものに疎い。
だからよく分からない物を出す店より、昔ながらの喫茶店のほうが落ち着く。
店に着くと、先に来ていた長瀬がこちらを見て会釈する。
席に向かう途中、私は長瀬の腹が大きい事に気付き、彼女も私が子連れだと気付いてお互い微妙な表情になった。
座ったあと、冬夜は礼儀正しく『こんにちは』を言う。
『こんにちは。……先輩のお子さんですか?』
二十七歳になった長瀬はロングヘアをハーフアップにし、淡い色のゆったりとしたワンピースを着ていた。
大人しそうな顔立ちは変わらないが、化粧をしているからか垢抜けた感じがあり、優那のような華やかさはないものの、魅力的な女性になった。
『……あ、…………そ、そうだ』
長瀬の問いに、私は言葉を詰まらせつつ頷く。
一言で言い表すには、冬夜の存在は複雑すぎる。
長瀬の目的がなんであるか分からない以上、下手に自分の情報を出さないほうがいいと判断した私は、今は詳しく言わない事にした。
私はコーヒーを頼み、冬夜はケーキとクリームソーダ、長瀬は妊婦という事もありレモンスカッシュを頼んでいた。
『……お元気でしたか? 先輩は変わりませんね』
先に長瀬が切りだし、私は色々あった事を伏せて曖昧に笑う。
『今は親の会社で働いている』
『ご結婚されたんですか?』
そう尋ねた長瀬は、ただ世間話をしているというより、私が既婚かどうかをやけに気にしているように思えた。
慎重に答えないとならないと感じた私は、先に彼女の用件を聞く事にする。
『……先に長瀬の話を聞かせてくれないか?』
そう言うと、彼女は視線を落として溜め息をつき、膨らんだ腹部に手を当てる。
それから気遣わしげに冬夜を見て、尋ねてきた。
『……これから話す内容は配慮が必要な事なんですが、その子……、大丈夫でしょうか?』
気遣った長瀬に、私は軽く微笑みかける。
『まだ五歳だし、難しい事は分からないから大丈夫だ』
長瀬は安心したように溜め息をつき、運ばれてきたレモンスカッシュを一口飲んでから語り出した。
『……私、この歳になっても彼氏ができなくて、家族や周りの人に心配されていたんです。上司も〝いいやつを紹介してやろうか?〟と世話を焼こうとしていました。……でも私の心の中にはまだ先輩がいて、その誘いに頷けなかったんです』
私は最後の言葉を聞き、溜め息をつく。
『……用意された相手と結婚するのに抵抗があったので、友達に誘われて合コンに行きました。……そうしたら連絡先を聞いてきた人を断れなくて、後日会った時にお酒を飲まされて、……ホテルに連れ込まれてしまって……』
長瀬の声が涙で歪む。
そこまで聞いた私は、彼女の腹が大きい理由を察した。
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