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私だけの導き星
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『勘違いさせていたならごめんね。私、好きな人がいるの。……瀧沢くんの頬にキスをしていたのは、……何もできないからせめてものお礼と思っての事だったけど……。誤解を生んで苦しませるなら、今後いっさいやめる。……それに、こういう関係も良くないよね』
優那が関係を断とうとしているのに気づいた瞬間、私は焦って否定した。
『ごめん! そんなつもりはなかったんだ! 今まで通りでいよう! 僕はこれ以上、何も望まない。ただ、君の側にいられたら、それでいいんだ』
『でも……』
優那は申し訳なさそうに眉を寄せる。
『もう何も言わない! だから……、側に置いてほしい』
私はクシャリを顔を歪め、頭を下げた。
しばらく経ったあと、優那は溜め息をつき『参ったな』と笑う。
『……私なんかの側にいてもいいの? 瀧沢くんだって他に目を向ければ、彼女ができるんじゃない? ……ほら、同じ図書委員の後輩の……、長瀬涼子ちゃん? 彼女、瀧沢くんの事が好きそうじゃない』
確かに長瀬は同じ図書委員で懇意にしているが、恋愛関係にある訳ではない。
彼女が私をどう思っているかはさておき、私はまったく後輩を恋愛対象として見ていなかった。
『長瀬は関係ない。……君にそう思ってもらいたくない』
苦しげに言うと、優那は『ごめん』と謝る。
『……じゃあ、今後もこういう関係を続けてもいいの? 私は瀧沢くんを好きになる事はできないと思う。もう嫌だと思ったら、いつでも離れていいから』
『嫌だなんて思わない。都合のいい相手でも構わない。……北條さんの側にいさせてください』
再度頭を下げると、彼女は溜め息混じりに苦笑いをした。
『……変な人だね』
話がついたあと、私たちはまた彼女の家に向かって歩き始める。
北條家は立派な一軒家で、豪邸と言っていい。
金持ちの家に生まれた彼女は愛されるべき存在と思っていたが、そう簡単な話でもないようだった。
『……私の家、医者の家系なの。父は開業医で、兄もそれを継ぐべく今はインターンをしている。母はお嬢様育ちで、今は病院の手伝いをしてる。……周りの人は私を〝恵まれた家に生まれた子供〟と言うけれど、……そうじゃない』
優那はポツポツと語り始め、溜め息をつく。
『兄はとても優秀な人だけど、私はそうなれなかった。学校の中では成績のいいほうで通っているけど、兄みたいに難関大学の医学部なんて入れない。……両親はそんな私に期待するのをやめたみたい。跡継ぎは兄さえいればいいの。……だから〝優那は自由に生きなさい〟って言われてる。……〝自由に〟って、さも私の主体性を重んじているような言葉だけど、見放しているも同然だよ』
いつも皆の中心にいて輝いている優那が、そんな悩みを抱えているとは思わなかった。
驚くと同時に、私は彼女が自分にだけ本音を話してくれた事に歪んだ喜びを得ていた。
『……だから私、誰かに認められたくて、愛されたくて、皆にいい顔をしているの』
自嘲するように言った優那の言葉を聞き、私はグッと心に決意を固める。
――彼女から愛されなくても、今後何があっても絶対に優那の味方で居続ける。
――どんなに困難な事であっても、絶対に彼女を助けるんだ。
縁の下の力持ちは、表舞台で活躍しなくてもいい。
悲しむ彼女の涙を拭い、胸を貸すのは見目麗しい美男に任せればいい。
私は優那が進む道に転がる石をどけ、彼女が少しでも歩きやすくするよう努めるだけだ。
――この恋が報われなくてもいい。
――何も特技を持たず、パッとしない人生を歩んでいた僕に、生きる意味を与えてくれた優那のためなら、人生を擲っても構わない。
――あなたは冬の夜に輝く北極星のように、たった一つ変わる事のない導き星だ。
私は優那の手を握る事もせず、ただ隣を歩く。
それが私と彼女に似合いの距離感だ。
そのあとはいつものように優那の家まで送り、別れた。
**
優那が関係を断とうとしているのに気づいた瞬間、私は焦って否定した。
『ごめん! そんなつもりはなかったんだ! 今まで通りでいよう! 僕はこれ以上、何も望まない。ただ、君の側にいられたら、それでいいんだ』
『でも……』
優那は申し訳なさそうに眉を寄せる。
『もう何も言わない! だから……、側に置いてほしい』
私はクシャリを顔を歪め、頭を下げた。
しばらく経ったあと、優那は溜め息をつき『参ったな』と笑う。
『……私なんかの側にいてもいいの? 瀧沢くんだって他に目を向ければ、彼女ができるんじゃない? ……ほら、同じ図書委員の後輩の……、長瀬涼子ちゃん? 彼女、瀧沢くんの事が好きそうじゃない』
確かに長瀬は同じ図書委員で懇意にしているが、恋愛関係にある訳ではない。
彼女が私をどう思っているかはさておき、私はまったく後輩を恋愛対象として見ていなかった。
『長瀬は関係ない。……君にそう思ってもらいたくない』
苦しげに言うと、優那は『ごめん』と謝る。
『……じゃあ、今後もこういう関係を続けてもいいの? 私は瀧沢くんを好きになる事はできないと思う。もう嫌だと思ったら、いつでも離れていいから』
『嫌だなんて思わない。都合のいい相手でも構わない。……北條さんの側にいさせてください』
再度頭を下げると、彼女は溜め息混じりに苦笑いをした。
『……変な人だね』
話がついたあと、私たちはまた彼女の家に向かって歩き始める。
北條家は立派な一軒家で、豪邸と言っていい。
金持ちの家に生まれた彼女は愛されるべき存在と思っていたが、そう簡単な話でもないようだった。
『……私の家、医者の家系なの。父は開業医で、兄もそれを継ぐべく今はインターンをしている。母はお嬢様育ちで、今は病院の手伝いをしてる。……周りの人は私を〝恵まれた家に生まれた子供〟と言うけれど、……そうじゃない』
優那はポツポツと語り始め、溜め息をつく。
『兄はとても優秀な人だけど、私はそうなれなかった。学校の中では成績のいいほうで通っているけど、兄みたいに難関大学の医学部なんて入れない。……両親はそんな私に期待するのをやめたみたい。跡継ぎは兄さえいればいいの。……だから〝優那は自由に生きなさい〟って言われてる。……〝自由に〟って、さも私の主体性を重んじているような言葉だけど、見放しているも同然だよ』
いつも皆の中心にいて輝いている優那が、そんな悩みを抱えているとは思わなかった。
驚くと同時に、私は彼女が自分にだけ本音を話してくれた事に歪んだ喜びを得ていた。
『……だから私、誰かに認められたくて、愛されたくて、皆にいい顔をしているの』
自嘲するように言った優那の言葉を聞き、私はグッと心に決意を固める。
――彼女から愛されなくても、今後何があっても絶対に優那の味方で居続ける。
――どんなに困難な事であっても、絶対に彼女を助けるんだ。
縁の下の力持ちは、表舞台で活躍しなくてもいい。
悲しむ彼女の涙を拭い、胸を貸すのは見目麗しい美男に任せればいい。
私は優那が進む道に転がる石をどけ、彼女が少しでも歩きやすくするよう努めるだけだ。
――この恋が報われなくてもいい。
――何も特技を持たず、パッとしない人生を歩んでいた僕に、生きる意味を与えてくれた優那のためなら、人生を擲っても構わない。
――あなたは冬の夜に輝く北極星のように、たった一つ変わる事のない導き星だ。
私は優那の手を握る事もせず、ただ隣を歩く。
それが私と彼女に似合いの距離感だ。
そのあとはいつものように優那の家まで送り、別れた。
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