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親になる資格
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『はっ、泣きたいのはこっちだよ』
俺は吐き捨てるように言うと、春佳の机の引き出しを開けてスーツケースに詰めていく。
――と、年月と金額をメモした茶封筒を見つけ、すぐ春佳の金だと気づく。
しかし細かに記している割には封筒がペラペラなので、申し訳ないと思いながら中身を覗いた。
『……おい。なんで金が入ってないんだよ』
怒りの籠もった目を母親に向けると、あいつはばつの悪そうな顔で視線を逸らす。
それですべてを察した俺は、あまりの胸糞悪さに大きく息を吸って震わせながら吐く。
『……お前はいつもそうだよ。口先だけ母親ぶって、実際に親らしい事なんて一度もしていない。できるのはガキみたいに自分勝手に振る舞い、機嫌が悪くなったら春佳の優しさに依存して感情を叩きつける事だけ。精神的に搾取するだけじゃなく、金銭的にも搾取し続けた。自分は男を連れこんだくせに、春佳が喫茶店でバイトをしたいと言ったら〝いかがわしいから〟と言って自分の言うことを聞かせようとする』
『~~~~っ、だっていかがわしいじゃない! 飲食店で働いたら、どこで変な男に目を付けられるか分からないでしょ!』
『だからお前が言えた事かよ! 母親ぶるならもっと春佳を守ってから言え! お前がそうやって感情的になるから、春佳はお前の感情を窺うようになった。こんなお前でも母親だから、どんなに面倒臭い事を言っても見捨てず、愛そうとした! お前しか母親がいないからだよ! 春佳が心をすり減らしてでも愛されようとしたのに、お前はあの子に何をした? 何もしてないだろ! むしろ奪ってばかりだ!』
怒鳴りつけると、母親は顔を強張らせ、ワナワナと両手を震わせて耳を塞いだ。
一度口を開くと、開けられたパンドラの箱のように、長年抑圧されてきた憎しみが噴き出す。
『二度と春佳の前に現れるな! お前に母親を名乗る資格なんてない! 瀧沢家は最初から崩壊していたんだ。お前に幸せな家庭を築く能力なんてないし、飛び降りたあの男だって父親になる資格はなかった!』
そこまで言った時、母親が俺の頬を叩いた。
『私の事はなんと言ってもいい! 春佳を愛せなかったのは事実だもの! ……っでも、お父さんの事を悪く言うのは許さない! あの人がどんな思いでお前を育ててきたか、何一つ分かっていないくせに!』
『息子をレイプする父親の心理なんて、知りたくもねぇよ!』
俺は怒鳴り返し、母親を平手で殴り返した。
これ以上何を言っても分かり合えないと思った俺は、スーツケースを持って母親に背を向けた。
『今後二度と、俺たちに連絡してくるな。春佳も俺も家政婦じゃない。四十六歳なら自分の力で生きろ』
俺は冷たく言い放ち、二度と母親を振り返らずに実家を出た。
『今度こそ戻らない』と誓いながら――。
その後、母親が自殺未遂をし、外科手術を行ったあと精神科に入院した。
恐らく俺が向けた言葉が原因だろうが、良心の呵責はいっさいなかった。
なのに春佳は『自分のせいだ』と言い、せっかく鬼の棲まいから抜け出せたのに、毒母の事ばかり気に掛ける。
俺がどれだけ美味い物を食わせても、流行りの服やアクセサリーをプレゼントしても、春佳はいつも上の空だ。
だがそんな春佳も可愛い。
やっと一緒に住めるようになった彼女をもっと存分に味わいたいと思い、俺は家の中にこっそりと隠しカメラをつけ、春佳を撮影し始めた。
当然バスルームや洗面所にはつけていない。一線を越えれば犯罪者になる。
だがリビングや彼女が自室で過ごす姿ぐらいは……と思い、特に可愛い角度があった時は切り取って画像保存するようになった。
我ながら常軌を逸したシスコンなのは自覚している。
けれど長い間、妹と暮らす事を夢見てようやく願いが叶ったのだから、しばらくは可愛い春佳との生活を満喫させてほしいと誰にともなく願った。
しかし当の春佳は、母親を想っていつも憂い顔だ。
俺がどれだけ彼女を想い、大切にしても春佳は何も気づいていない。
彼女が俺を自慢の兄と思っているのは分かっているし、格好いいと思い、他の男に目が向けられなくなっているのも自覚している。
――そこまで想っているなら、もう一歩俺に近づけよ。
――罪悪感なんて捨てて、俺の手をとって二人で幸せになろう。
俺が笑みを浮かべて両腕を広げて待っているのに、春佳はいつまでも過ぎ去った過去と自分に害しかなさない存在を気にし続けている。
――だから、苛ついて少し仕掛ける事にした。
俺は吐き捨てるように言うと、春佳の机の引き出しを開けてスーツケースに詰めていく。
――と、年月と金額をメモした茶封筒を見つけ、すぐ春佳の金だと気づく。
しかし細かに記している割には封筒がペラペラなので、申し訳ないと思いながら中身を覗いた。
『……おい。なんで金が入ってないんだよ』
怒りの籠もった目を母親に向けると、あいつはばつの悪そうな顔で視線を逸らす。
それですべてを察した俺は、あまりの胸糞悪さに大きく息を吸って震わせながら吐く。
『……お前はいつもそうだよ。口先だけ母親ぶって、実際に親らしい事なんて一度もしていない。できるのはガキみたいに自分勝手に振る舞い、機嫌が悪くなったら春佳の優しさに依存して感情を叩きつける事だけ。精神的に搾取するだけじゃなく、金銭的にも搾取し続けた。自分は男を連れこんだくせに、春佳が喫茶店でバイトをしたいと言ったら〝いかがわしいから〟と言って自分の言うことを聞かせようとする』
『~~~~っ、だっていかがわしいじゃない! 飲食店で働いたら、どこで変な男に目を付けられるか分からないでしょ!』
『だからお前が言えた事かよ! 母親ぶるならもっと春佳を守ってから言え! お前がそうやって感情的になるから、春佳はお前の感情を窺うようになった。こんなお前でも母親だから、どんなに面倒臭い事を言っても見捨てず、愛そうとした! お前しか母親がいないからだよ! 春佳が心をすり減らしてでも愛されようとしたのに、お前はあの子に何をした? 何もしてないだろ! むしろ奪ってばかりだ!』
怒鳴りつけると、母親は顔を強張らせ、ワナワナと両手を震わせて耳を塞いだ。
一度口を開くと、開けられたパンドラの箱のように、長年抑圧されてきた憎しみが噴き出す。
『二度と春佳の前に現れるな! お前に母親を名乗る資格なんてない! 瀧沢家は最初から崩壊していたんだ。お前に幸せな家庭を築く能力なんてないし、飛び降りたあの男だって父親になる資格はなかった!』
そこまで言った時、母親が俺の頬を叩いた。
『私の事はなんと言ってもいい! 春佳を愛せなかったのは事実だもの! ……っでも、お父さんの事を悪く言うのは許さない! あの人がどんな思いでお前を育ててきたか、何一つ分かっていないくせに!』
『息子をレイプする父親の心理なんて、知りたくもねぇよ!』
俺は怒鳴り返し、母親を平手で殴り返した。
これ以上何を言っても分かり合えないと思った俺は、スーツケースを持って母親に背を向けた。
『今後二度と、俺たちに連絡してくるな。春佳も俺も家政婦じゃない。四十六歳なら自分の力で生きろ』
俺は冷たく言い放ち、二度と母親を振り返らずに実家を出た。
『今度こそ戻らない』と誓いながら――。
その後、母親が自殺未遂をし、外科手術を行ったあと精神科に入院した。
恐らく俺が向けた言葉が原因だろうが、良心の呵責はいっさいなかった。
なのに春佳は『自分のせいだ』と言い、せっかく鬼の棲まいから抜け出せたのに、毒母の事ばかり気に掛ける。
俺がどれだけ美味い物を食わせても、流行りの服やアクセサリーをプレゼントしても、春佳はいつも上の空だ。
だがそんな春佳も可愛い。
やっと一緒に住めるようになった彼女をもっと存分に味わいたいと思い、俺は家の中にこっそりと隠しカメラをつけ、春佳を撮影し始めた。
当然バスルームや洗面所にはつけていない。一線を越えれば犯罪者になる。
だがリビングや彼女が自室で過ごす姿ぐらいは……と思い、特に可愛い角度があった時は切り取って画像保存するようになった。
我ながら常軌を逸したシスコンなのは自覚している。
けれど長い間、妹と暮らす事を夢見てようやく願いが叶ったのだから、しばらくは可愛い春佳との生活を満喫させてほしいと誰にともなく願った。
しかし当の春佳は、母親を想っていつも憂い顔だ。
俺がどれだけ彼女を想い、大切にしても春佳は何も気づいていない。
彼女が俺を自慢の兄と思っているのは分かっているし、格好いいと思い、他の男に目が向けられなくなっているのも自覚している。
――そこまで想っているなら、もう一歩俺に近づけよ。
――罪悪感なんて捨てて、俺の手をとって二人で幸せになろう。
俺が笑みを浮かべて両腕を広げて待っているのに、春佳はいつまでも過ぎ去った過去と自分に害しかなさない存在を気にし続けている。
――だから、苛ついて少し仕掛ける事にした。
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