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仕込み
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『そうですね。冬夜さんから気を遣われていると知ったら〝自分だけ楽しい思いをしていいのか〟って思いそうです』
『だから、千絵ちゃんの従兄弟さんが行く予定だったけど、急に行けなくなったからチケットを譲ってもらった……という体にしてもらえないかな? 勿論、千絵ちゃんのご両親には、本当の事を言ってもらって構わない。多分、うちの事情を聞いたら俺の気持ちを理解してくれると思うから』
送り主を誤魔化す協力を要請したが、千絵はあっさり頷いた。
『勿論です! ……実は春佳の家庭事情はうちの親も知っているんです。〝話を聞いて気晴らしに一緒に遊ぶぐらいしかできないけど、友達としてできる事をしたい〟と言ったら、親も〝そうしなさい〟と言っていました』
良識的な大人なら、娘の友人が毒親持ちだと知れば気の毒がるだろう。
積極的には関わりたくないだろうが、安全なところから春佳に関わるぐらいなら……と思っているのは予想していた。
加えて〝実家から出た兄が妹を想い、旅行をプレゼントしたいと思っている〟という美談を聞けば、話を合わせるぐらい協力してくれるだろうと思っていた。
『でも、外泊になるけど大丈夫?』
『大丈夫です! 今までも泊まりで遊んだ事はあります。それに今回は女子同士ですし、妹想いの冬夜さんのお願いなら絶対に大丈夫です! うちの両親だって春佳に対して〝女子大生らしく青春を謳歌してほしい〟と思っていますし』
千絵はグッと親指を立てて言い、少し照れくさそうな顔で続けた。
『親には〝春佳には妹想いの素敵なお兄さんがいる〟って話をしてたんです。で、写真も見せちゃいました。母ったら〝イケメンね〟ってはしゃいでたんですよ。瀧沢兄妹はうちの家族に評判がいいですし、本当に大丈夫』
『良かった』
それは心からの言葉だ。
いつか千絵を利用するかもしれないからと、優しく接し続けてきたかいがあった。
『じゃあ、七月、春佳を宜しくお願いします。楽しい思い出を作ってあげて』
『こちらこそ、ありがとうございます! しっかり楽しんできますね。お土産も買いますから!』
そのあとは春佳の大学での様子を聞きながらお茶をし、一時間後には店を出て別れた。
春佳を家から出す手立ては整えたので、あとは母親を外出させるのみだ。
母はいつも家にいるが、外出をしない訳ではない。
外と内でのオンオフが激しい女で、出かける時はブランド物の化粧品を使ってバッチリメイクをし、お洒落をして出かける。
〝外〟モードになればハキハキと受け答えし、社交的な人物に見せかける事もできるから、馴染みの店の店員には〝綺麗なお得意様〟と思われ、学生時代からの友人や親戚にも感じのいい人と思われていた。
それとは別に、母は懸賞を趣味にし、毎日サイトをチェックしてはあらゆる物に応募している。
実際に当選した事もあったが、賞品が送られてくる時は予告なく現物が送られてくる。
それを利用し、俺は自宅に箱根にある温泉旅館のペアチケットを送る事にした。
母の事だから、いきなり宿泊券が当たっても『無数に応募した懸賞の中の何かが当たった』としか思わないだろう。
加えて宿泊券が当たっても、母は父を絶対に誘わない。
物心ついた時から夫婦生活は破綻していて、〝家族〟を演じるために外出はしても帰宅したあとは他人のように接し、極力関わらずに生活していた。
両親が夜の営みをしていた気配もないし、同居人として仲良く話したりテレビを見ていた事もない。
きっと母は父親が俺を犯している姿を見て、とっくに夫に愛想を尽かしたんだろう。
だから宿泊券が当たっても、母は絶対に夫を誘わない。
俺は箱根の温泉旅館に連絡して宿泊券を発行してもらう事にした。
『母親と親子関係がうまくいっておらず、僕の名前が出ると母は不機嫌になるので、懸賞が当たった体で宿泊券を送りたいんです。日時を指定した宿泊券に食事やエステ等のサービスもつけてください』
宿泊業をしていれば色んな〝事情〟を持つ客が訪れるし、宿の者は快く受け入れてくれた。
〝決行〟する日時を指定した宿泊券は、五月下旬には自宅に発送されたそうだ。
『だから、千絵ちゃんの従兄弟さんが行く予定だったけど、急に行けなくなったからチケットを譲ってもらった……という体にしてもらえないかな? 勿論、千絵ちゃんのご両親には、本当の事を言ってもらって構わない。多分、うちの事情を聞いたら俺の気持ちを理解してくれると思うから』
送り主を誤魔化す協力を要請したが、千絵はあっさり頷いた。
『勿論です! ……実は春佳の家庭事情はうちの親も知っているんです。〝話を聞いて気晴らしに一緒に遊ぶぐらいしかできないけど、友達としてできる事をしたい〟と言ったら、親も〝そうしなさい〟と言っていました』
良識的な大人なら、娘の友人が毒親持ちだと知れば気の毒がるだろう。
積極的には関わりたくないだろうが、安全なところから春佳に関わるぐらいなら……と思っているのは予想していた。
加えて〝実家から出た兄が妹を想い、旅行をプレゼントしたいと思っている〟という美談を聞けば、話を合わせるぐらい協力してくれるだろうと思っていた。
『でも、外泊になるけど大丈夫?』
『大丈夫です! 今までも泊まりで遊んだ事はあります。それに今回は女子同士ですし、妹想いの冬夜さんのお願いなら絶対に大丈夫です! うちの両親だって春佳に対して〝女子大生らしく青春を謳歌してほしい〟と思っていますし』
千絵はグッと親指を立てて言い、少し照れくさそうな顔で続けた。
『親には〝春佳には妹想いの素敵なお兄さんがいる〟って話をしてたんです。で、写真も見せちゃいました。母ったら〝イケメンね〟ってはしゃいでたんですよ。瀧沢兄妹はうちの家族に評判がいいですし、本当に大丈夫』
『良かった』
それは心からの言葉だ。
いつか千絵を利用するかもしれないからと、優しく接し続けてきたかいがあった。
『じゃあ、七月、春佳を宜しくお願いします。楽しい思い出を作ってあげて』
『こちらこそ、ありがとうございます! しっかり楽しんできますね。お土産も買いますから!』
そのあとは春佳の大学での様子を聞きながらお茶をし、一時間後には店を出て別れた。
春佳を家から出す手立ては整えたので、あとは母親を外出させるのみだ。
母はいつも家にいるが、外出をしない訳ではない。
外と内でのオンオフが激しい女で、出かける時はブランド物の化粧品を使ってバッチリメイクをし、お洒落をして出かける。
〝外〟モードになればハキハキと受け答えし、社交的な人物に見せかける事もできるから、馴染みの店の店員には〝綺麗なお得意様〟と思われ、学生時代からの友人や親戚にも感じのいい人と思われていた。
それとは別に、母は懸賞を趣味にし、毎日サイトをチェックしてはあらゆる物に応募している。
実際に当選した事もあったが、賞品が送られてくる時は予告なく現物が送られてくる。
それを利用し、俺は自宅に箱根にある温泉旅館のペアチケットを送る事にした。
母の事だから、いきなり宿泊券が当たっても『無数に応募した懸賞の中の何かが当たった』としか思わないだろう。
加えて宿泊券が当たっても、母は父を絶対に誘わない。
物心ついた時から夫婦生活は破綻していて、〝家族〟を演じるために外出はしても帰宅したあとは他人のように接し、極力関わらずに生活していた。
両親が夜の営みをしていた気配もないし、同居人として仲良く話したりテレビを見ていた事もない。
きっと母は父親が俺を犯している姿を見て、とっくに夫に愛想を尽かしたんだろう。
だから宿泊券が当たっても、母は絶対に夫を誘わない。
俺は箱根の温泉旅館に連絡して宿泊券を発行してもらう事にした。
『母親と親子関係がうまくいっておらず、僕の名前が出ると母は不機嫌になるので、懸賞が当たった体で宿泊券を送りたいんです。日時を指定した宿泊券に食事やエステ等のサービスもつけてください』
宿泊業をしていれば色んな〝事情〟を持つ客が訪れるし、宿の者は快く受け入れてくれた。
〝決行〟する日時を指定した宿泊券は、五月下旬には自宅に発送されたそうだ。
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