【R-18】有罪愛

臣桜

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悪魔

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 ――臭い。痛い。力が強い。

 ――嫌だ。なんでこんなおじさんに……。

 ――どうしてこうなるの? ただでさえお父さんを喪って不幸のどん底にいるのに。

 ――お母さんの理不尽な要求にも耐え続けて、いい子で生きてきたはずなのに。

 ――どうして私ばっかりこんな目に遭うの!?

 全力で岩淵に抵抗している間、彼の爪がかすって春佳の顔に傷を作った。

 腕も脚も乱暴に掴まれ、押さえつけられ、心と体が悲鳴を上げている。

「んんんっ、――――あぁあああっ!」

 渾身の力で男の体を押し戻そうとしたが、体勢的に不利だ。

「大人しくしろっ!」

 とうとう、業を煮やした岩淵が怒声を上げ、春佳の頬を厚い掌で叩いてきた。

「うぐっ」

 頬というより顔全体に強い衝撃が加わったかと思うと、口の中を切ったのか、口内で変な味が広がった。

 春佳が怯んだその一瞬に、岩淵は少女を殴った嗜虐的な喜びに表情を彩らせた。

「あぁ、可愛いなぁ。春佳ちゃん、可愛いなぁ」

 彼は何かに取り憑かれたかのように「可愛い」を繰り返し、春佳を叩いてはその反応を見て、喜色の籠もった笑みを浮かべる。

「やめ……っ、うっ、――――うぅっ」

 こんな男に絶対に屈服したくないと思うものの、春佳は痛みにまったく耐性がなかった。

 岩淵とて日常的に暴力をふるっている人ではないと思うが、生まれつき男と女は体格差がある。

 女がどれだけ鍛えても、本気で取っ組み合えば男に負ける。

 まして春佳のようなごく普通の女性が暴力に遭えば、たやすく心が折れてしまう。

 叩かれているうちに顔が熱を持って熱くなり、醜く腫れ上がっているように感じられる。

 逆らう気力を失って春佳が脱力した時には、彼女は頬を腫らし、鼻血を垂らして唇も切っていた。

 何度も叩かれて耳は遠くなり、岩淵の声も自分の立てる物音も、不愉快な膜を通じてボワボワと聞こえているように感じる。

「手間とらせやがって」

 悪辣に笑った岩淵は、力任せに春佳のパジャマの襟元を引っ張った。

 途端、プラスチック製のボタンがはじけ飛び、室内の照明を受けてキャンディのようにまろく光る。

 ぐったりとした春佳は、宙に飛ぶボタンをぼんやりと見るしかできなかった。

 晒された若い乳房に、岩淵の節くれ立った太く短い指が食い込む。

 生まれて初めて男性に胸を揉まれたが、痛みと屈辱しか感じられない。

 春佳はレイプされようとする現実から逃れるためか、友達が自慢げに彼氏とセックスした時の事を話していたのを思い出した。

(おっぱい揉まれても、ちっとも気持ちよくない。世の中の恋人はこんな事をして喜んでるの? 馬鹿みたい)

 茫洋とした視界の中、岩淵が下卑た笑みを浮かべて、自分の服を脱がそうとしているのが見える。

 ニタニタと笑って口端からは涎を垂れかけ、まるで悪魔のようだ。

 同時に、自分は〝強者〟に対して何も抵抗できない〝弱者〟なのだと痛感した。

 処女を大切に守ってきた訳ではない。

 好きな人すらいないから、処女の貴重性などほぼ意識していない。

 そもそも、自分が性行為をするなんて考えていなかった。

 ただ、いつかするのだとしたら、似た年齢の若い男性だろうとは思っていた。

 ――なのに、どうしてこんなクソジジイに。

 損なわれる、という感覚も今は抱いていない。

 自分は〝強者〟に食い散らかされる時間をただ待つしかできないと、本能で分かっていた。

 逆らえばまた叩かれるし、痛い思いはしたくない。

 セックスをするのにどれぐらい時間が必要なのか分からないが、我慢していればそのうち終わるだろう。

「へへっ……、綺麗だなぁ。春佳ちゃん」

 完全に全裸にされ、岩淵も服をすべて脱いだ時だった――。

 何かが視界に入り込んだかと思うと、ドスーンッと大きな音を立てて岩淵がベッドから落ちた。

 そのあと、岩淵が物凄い悲鳴を上げ、鈍い音が立て続けに聞こえる。
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