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合コン
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努めて忙しく過ごているうちに合コンの日が迫り、春佳は母に家庭教師のアルバイトが二件入っていると嘘をつき、日本橋にある焼き鳥屋に向かった。
合コン相手は千絵のバイト先の先輩の友人らしく、社会人やフリーターが多かった。
千絵たちが盛り上がって談笑しているなか、春佳は隅の席でソフトドリンクを飲み、食べ過ぎないように注意しながら、ちまちまと料理を摘まんでいた。
だが千絵が言ったように、いつものルーティンと違う事をしただけで、幾分気持ちが変わったのは事実だ。
合コンを楽しいと思うかはさておき、周りに初対面の人がいて気を遣うので、父の事を思いだして落ち込む余裕はなかった。
(いつもならこの時間、無気力なお母さんを相手にご飯を食べていたからな……)
父の葬儀から二週間が経とうとし、七月も終わろうとしている。
母は相変わらず床に臥している時間が多いが、少しずつ食べるようになってくれた。
だが食べ物より酒に手が伸びるようで、良くない兆候だとも感じていた。
(薬を飲んでるから、お酒は駄目だって言ってるのに……)
合コンに来れば気が紛れると思っていたのに、春佳は気がつけば母の心配をしていた。
俯いて考え事をしていたからか、隣に座っていた男が春佳の前にカクテルが入ったタンブラーを置いた。
「はい!」
明るい声で言われ、彼女はノロノロと顔を上げる。
「……え?」
「全然飲んでないでしょ! 飲みなって! カシオレ、甘いから飲みやすいよ」
「でもまだ十九歳なので……」
「かたーい!」
男は芸人のように言い、けたたましく笑う。
「いいから、いいからぁ!」
酔っぱらって上機嫌になった男は、春佳にタンブラーを持たせると強引に飲ませた。
「んっ……」
カシスリキュールの香りとオレンジジュースの味がし、飲み終わったあとにジワリとアルコールの苦みが染み入ってくる。
「おー! いい飲みっぷり!」
それを見て他の男たちも春佳をはやし立て、次のカクテルを注文されてしまう。
『お酒は二十歳から』を律儀に守っていた春佳の体に、一気飲みは堪えた。
すぐに体が火照ってきて、頭がクラクラしてくる。
アルハラだとか考える前に次のカクテルを飲まされ、何杯飲んだか分からなくなったあと、春佳は壁にもたれ掛かって目を閉じた。
「春佳、大丈夫?」
千絵の声を聞き、春佳は意識を引き戻す。
(気持ち悪い……)
頭はガンガンと痛み、吐き気はない代わりに、顔から血の気が引いて今にも昏倒してしまいそうだ。
(ここからお兄ちゃんのマンションまで、タクシーですぐだ)
そう思った春佳は、壁にもたれ掛かったままスマホを取りだし、兄にメッセージを打った。
【お兄ちゃん、助けて】
苦しさのあまりハァハァと呼吸を繰り返し、祈るように画面を見つめていると、パッと既読がついた。
【どうした!?】
【お酒飲んだ。気持ち悪い。日本橋○○○○】
店名を伝えると、すぐに【分かった。迎えに行くから待ってろ】と返事があった。
「春佳?」
千絵が心配そうに顔を覗き込んできたので、春佳は問題ないというように弱々しく笑い、緩慢な動作で立ちあがる。
「お兄ちゃんに迎え頼んだ。今日はもう帰るね」
「分かった。……なんかごめん。こんな事になると思わなくて」
すでに二十歳になっている彼女は日頃から酒を飲んでいるようで、カパカパとビールやサワーを空けていたが、それほど酔っていない。
「いいの。……お兄ちゃん、店まで来るから外にいるね。お会計いくら?」
すると隣にいた男にグッと手を握られた。
合コン相手は千絵のバイト先の先輩の友人らしく、社会人やフリーターが多かった。
千絵たちが盛り上がって談笑しているなか、春佳は隅の席でソフトドリンクを飲み、食べ過ぎないように注意しながら、ちまちまと料理を摘まんでいた。
だが千絵が言ったように、いつものルーティンと違う事をしただけで、幾分気持ちが変わったのは事実だ。
合コンを楽しいと思うかはさておき、周りに初対面の人がいて気を遣うので、父の事を思いだして落ち込む余裕はなかった。
(いつもならこの時間、無気力なお母さんを相手にご飯を食べていたからな……)
父の葬儀から二週間が経とうとし、七月も終わろうとしている。
母は相変わらず床に臥している時間が多いが、少しずつ食べるようになってくれた。
だが食べ物より酒に手が伸びるようで、良くない兆候だとも感じていた。
(薬を飲んでるから、お酒は駄目だって言ってるのに……)
合コンに来れば気が紛れると思っていたのに、春佳は気がつけば母の心配をしていた。
俯いて考え事をしていたからか、隣に座っていた男が春佳の前にカクテルが入ったタンブラーを置いた。
「はい!」
明るい声で言われ、彼女はノロノロと顔を上げる。
「……え?」
「全然飲んでないでしょ! 飲みなって! カシオレ、甘いから飲みやすいよ」
「でもまだ十九歳なので……」
「かたーい!」
男は芸人のように言い、けたたましく笑う。
「いいから、いいからぁ!」
酔っぱらって上機嫌になった男は、春佳にタンブラーを持たせると強引に飲ませた。
「んっ……」
カシスリキュールの香りとオレンジジュースの味がし、飲み終わったあとにジワリとアルコールの苦みが染み入ってくる。
「おー! いい飲みっぷり!」
それを見て他の男たちも春佳をはやし立て、次のカクテルを注文されてしまう。
『お酒は二十歳から』を律儀に守っていた春佳の体に、一気飲みは堪えた。
すぐに体が火照ってきて、頭がクラクラしてくる。
アルハラだとか考える前に次のカクテルを飲まされ、何杯飲んだか分からなくなったあと、春佳は壁にもたれ掛かって目を閉じた。
「春佳、大丈夫?」
千絵の声を聞き、春佳は意識を引き戻す。
(気持ち悪い……)
頭はガンガンと痛み、吐き気はない代わりに、顔から血の気が引いて今にも昏倒してしまいそうだ。
(ここからお兄ちゃんのマンションまで、タクシーですぐだ)
そう思った春佳は、壁にもたれ掛かったままスマホを取りだし、兄にメッセージを打った。
【お兄ちゃん、助けて】
苦しさのあまりハァハァと呼吸を繰り返し、祈るように画面を見つめていると、パッと既読がついた。
【どうした!?】
【お酒飲んだ。気持ち悪い。日本橋○○○○】
店名を伝えると、すぐに【分かった。迎えに行くから待ってろ】と返事があった。
「春佳?」
千絵が心配そうに顔を覗き込んできたので、春佳は問題ないというように弱々しく笑い、緩慢な動作で立ちあがる。
「お兄ちゃんに迎え頼んだ。今日はもう帰るね」
「分かった。……なんかごめん。こんな事になると思わなくて」
すでに二十歳になっている彼女は日頃から酒を飲んでいるようで、カパカパとビールやサワーを空けていたが、それほど酔っていない。
「いいの。……お兄ちゃん、店まで来るから外にいるね。お会計いくら?」
すると隣にいた男にグッと手を握られた。
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