5 / 88
合コン
しおりを挟む
努めて忙しく過ごているうちに合コンの日が迫り、春佳は母に家庭教師のアルバイトが二件入っていると嘘をつき、日本橋にある焼き鳥屋に向かった。
合コン相手は千絵のバイト先の先輩の友人らしく、社会人やフリーターが多かった。
千絵たちが盛り上がって談笑しているなか、春佳は隅の席でソフトドリンクを飲み、食べ過ぎないように注意しながら、ちまちまと料理を摘まんでいた。
だが千絵が言ったように、いつものルーティンと違う事をしただけで、幾分気持ちが変わったのは事実だ。
合コンを楽しいと思うかはさておき、周りに初対面の人がいて気を遣うので、父の事を思いだして落ち込む余裕はなかった。
(いつもならこの時間、無気力なお母さんを相手にご飯を食べていたからな……)
父の葬儀から二週間が経とうとし、七月も終わろうとしている。
母は相変わらず床に臥している時間が多いが、少しずつ食べるようになってくれた。
だが食べ物より酒に手が伸びるようで、良くない兆候だとも感じていた。
(薬を飲んでるから、お酒は駄目だって言ってるのに……)
合コンに来れば気が紛れると思っていたのに、春佳は気がつけば母の心配をしていた。
俯いて考え事をしていたからか、隣に座っていた男が春佳の前にカクテルが入ったタンブラーを置いた。
「はい!」
明るい声で言われ、彼女はノロノロと顔を上げる。
「……え?」
「全然飲んでないでしょ! 飲みなって! カシオレ、甘いから飲みやすいよ」
「でもまだ十九歳なので……」
「かたーい!」
男は芸人のように言い、けたたましく笑う。
「いいから、いいからぁ!」
酔っぱらって上機嫌になった男は、春佳にタンブラーを持たせると強引に飲ませた。
「んっ……」
カシスリキュールの香りとオレンジジュースの味がし、飲み終わったあとにジワリとアルコールの苦みが染み入ってくる。
「おー! いい飲みっぷり!」
それを見て他の男たちも春佳をはやし立て、次のカクテルを注文されてしまう。
『お酒は二十歳から』を律儀に守っていた春佳の体に、一気飲みは堪えた。
すぐに体が火照ってきて、頭がクラクラしてくる。
アルハラだとか考える前に次のカクテルを飲まされ、何杯飲んだか分からなくなったあと、春佳は壁にもたれ掛かって目を閉じた。
「春佳、大丈夫?」
千絵の声を聞き、春佳は意識を引き戻す。
(気持ち悪い……)
頭はガンガンと痛み、吐き気はない代わりに、顔から血の気が引いて今にも昏倒してしまいそうだ。
(ここからお兄ちゃんのマンションまで、タクシーですぐだ)
そう思った春佳は、壁にもたれ掛かったままスマホを取りだし、兄にメッセージを打った。
【お兄ちゃん、助けて】
苦しさのあまりハァハァと呼吸を繰り返し、祈るように画面を見つめていると、パッと既読がついた。
【どうした!?】
【お酒飲んだ。気持ち悪い。日本橋○○○○】
店名を伝えると、すぐに【分かった。迎えに行くから待ってろ】と返事があった。
「春佳?」
千絵が心配そうに顔を覗き込んできたので、春佳は問題ないというように弱々しく笑い、緩慢な動作で立ちあがる。
「お兄ちゃんに迎え頼んだ。今日はもう帰るね」
「分かった。……なんかごめん。こんな事になると思わなくて」
すでに二十歳になっている彼女は日頃から酒を飲んでいるようで、カパカパとビールやサワーを空けていたが、それほど酔っていない。
「いいの。……お兄ちゃん、店まで来るから外にいるね。お会計いくら?」
すると隣にいた男にグッと手を握られた。
合コン相手は千絵のバイト先の先輩の友人らしく、社会人やフリーターが多かった。
千絵たちが盛り上がって談笑しているなか、春佳は隅の席でソフトドリンクを飲み、食べ過ぎないように注意しながら、ちまちまと料理を摘まんでいた。
だが千絵が言ったように、いつものルーティンと違う事をしただけで、幾分気持ちが変わったのは事実だ。
合コンを楽しいと思うかはさておき、周りに初対面の人がいて気を遣うので、父の事を思いだして落ち込む余裕はなかった。
(いつもならこの時間、無気力なお母さんを相手にご飯を食べていたからな……)
父の葬儀から二週間が経とうとし、七月も終わろうとしている。
母は相変わらず床に臥している時間が多いが、少しずつ食べるようになってくれた。
だが食べ物より酒に手が伸びるようで、良くない兆候だとも感じていた。
(薬を飲んでるから、お酒は駄目だって言ってるのに……)
合コンに来れば気が紛れると思っていたのに、春佳は気がつけば母の心配をしていた。
俯いて考え事をしていたからか、隣に座っていた男が春佳の前にカクテルが入ったタンブラーを置いた。
「はい!」
明るい声で言われ、彼女はノロノロと顔を上げる。
「……え?」
「全然飲んでないでしょ! 飲みなって! カシオレ、甘いから飲みやすいよ」
「でもまだ十九歳なので……」
「かたーい!」
男は芸人のように言い、けたたましく笑う。
「いいから、いいからぁ!」
酔っぱらって上機嫌になった男は、春佳にタンブラーを持たせると強引に飲ませた。
「んっ……」
カシスリキュールの香りとオレンジジュースの味がし、飲み終わったあとにジワリとアルコールの苦みが染み入ってくる。
「おー! いい飲みっぷり!」
それを見て他の男たちも春佳をはやし立て、次のカクテルを注文されてしまう。
『お酒は二十歳から』を律儀に守っていた春佳の体に、一気飲みは堪えた。
すぐに体が火照ってきて、頭がクラクラしてくる。
アルハラだとか考える前に次のカクテルを飲まされ、何杯飲んだか分からなくなったあと、春佳は壁にもたれ掛かって目を閉じた。
「春佳、大丈夫?」
千絵の声を聞き、春佳は意識を引き戻す。
(気持ち悪い……)
頭はガンガンと痛み、吐き気はない代わりに、顔から血の気が引いて今にも昏倒してしまいそうだ。
(ここからお兄ちゃんのマンションまで、タクシーですぐだ)
そう思った春佳は、壁にもたれ掛かったままスマホを取りだし、兄にメッセージを打った。
【お兄ちゃん、助けて】
苦しさのあまりハァハァと呼吸を繰り返し、祈るように画面を見つめていると、パッと既読がついた。
【どうした!?】
【お酒飲んだ。気持ち悪い。日本橋○○○○】
店名を伝えると、すぐに【分かった。迎えに行くから待ってろ】と返事があった。
「春佳?」
千絵が心配そうに顔を覗き込んできたので、春佳は問題ないというように弱々しく笑い、緩慢な動作で立ちあがる。
「お兄ちゃんに迎え頼んだ。今日はもう帰るね」
「分かった。……なんかごめん。こんな事になると思わなくて」
すでに二十歳になっている彼女は日頃から酒を飲んでいるようで、カパカパとビールやサワーを空けていたが、それほど酔っていない。
「いいの。……お兄ちゃん、店まで来るから外にいるね。お会計いくら?」
すると隣にいた男にグッと手を握られた。
3
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる